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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第五章 凶器からは何も得られない
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 1

 わずかに垂れる水滴の落ちる音のみが、暗き洞の中を、まるで胎内で鼓動するように、響きわたる。何の、日の光さえも入ることなどないはずなのに、どうしてここはこれほどの光をたたえているのであろうか。

 満天の星が夜空を覆い尽くしているかのごとく、洞の中を照らし出している。佐根姫が、果たしてこの光景を見ることがあったのか、分からない。いや、まずそのようなことは有り得ない。佐根という名をあの川が負っているのは、完全な嘘であり、偽り。すべてはこのときのために用意されていた、フェイク。

 佐根は大陸の、あの地方にのみ伝わるはかない伝説。それとあたかも関係があるように装い、そのような噂、伝聞を広げることで、ほら、見事にその網に掛かったものがいた。あれは、この島をどのように解釈するだろうか。

 本当に、ここに財宝があると、勘違いするであろうか。それとも、この場所にたどり着き、見当違いな回答を得るであろうか。

 この景色こそが、佐根姫が残した財宝であると。

 なるほど、確かにそれほどの価値が、この場所にはあるだろう。

 だが、それは伝わり聞く伝説とははるかに異なる。佐根姫が残すべき財宝ではないにも関わらず、だ。

 それに、佐根の国は滅びたのだ。恋人を失い、その恋人の国に侵略された。小さな国であった佐根の国に、それほどの財宝が残っているはずもない。もともとはあまりにも小国であったがために、残っていた国に過ぎないのだから。


 しばらく、その景色に心を奪われてから、私は現実へと戻る。

 あなたとの蜜月は、すべて、これからのときを大きくするための、糧に過ぎない。あなたがあの時、私に言ってくれたこと。私は上手に出来たよ。

 褒めてくれる?

 愛してくれる?

 すべては、あなたのために、私は生きてるのだから。

 ええ、しばらくは、わずらわしい日々が続くでしょうけど、それもつかの間のこと。だって、私にもあなたにも、完全なアリバイがあるのだから。

 日比野というのが警察だって知って驚いてしまったけど、きっと彼にも、分からない。私たちのアリバイは、彼自身が証明してくれるもの。

 彼だけじゃない。

 あのモニターに参加してくれた人みんなが。みんなが、私たちの作り出したこのときのための緻密な計算の上で踊ってる。

 きっと、みんなは、私のことなんてただのお荷物としか思っていないのだろうけど、私は私にできる最大限のことをしたわ。

 私はあのときの、最後の演出だって解析していたんだもの。むしろ好都合だったわ。

 ああ、すべてはあなたのために。

 あなたのために。


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