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日達瑠璃は、床に座ったまま、言葉を選ぶように、ゆっくりと、話をすすめる。笠倉岬に呼ばれ、瑠璃たちの部屋に来て見ると、深刻そうな表情を瑠璃はしていた。日比野重三は、瑠璃から相談したいことがあると言われていたし、昨日の夜のことを考えると、その相談というのは、繊細なことであるが、かなり重要で、そして岬が判断するところに、彼の出番、ということである。
「なるほど、話は、おおよそ分かりました」
瑠璃から渡された携帯のメール内容にも、日比野は目を通す。一つ目は夏休みの半ば、この神名島があるのと同じA県の田舎で起きた殺人事件の内容だ。日比野自身が担当した事件ではない。
が、この事件の担当をしていたのが権藤警部なのだろう。
そこに記されているのは、凶器について。それが、今この研究施設内にある、というものだ。
そして、二つ目のメールには、昨日のモニター実験で、三番目の被験者のときにある事件が起きると記されている。
そのある事件が起きるならば、凶器によるさらなる事件が起きるであろうという内容だ。
メールの差出人が誰なのか瑠璃には分からない。あるいは、警察の能力をもってすれば分かるかもしれないが、今そのようなことをする権限を日比野は持ち合わせていない。だが、このメールは少なくとも関係者から送られているのは確かなようだ。
さらにおそらくは、昨日の夕食に集まったメンバーの誰かであろう。
そうでなければ、モニターの内容に踏み込んだ内容にまで言及ができるはずがない。ネットでKカンパニーの事を調べても、今回のモニターの内容についてはほぼ載っていない。そもそも、Kカンパニーの本業とはかけ離れたことを行っている。
Kカンパニーが資金を提供し、ここで研究開発がなされ、いずれは還元されていくのだろう。
「このメールはいつ届いたのですが?」
「どちらも、昨日です。一通目は朝早くに……もしかしたら、その前日なのかもしれませんが、私の携帯が受信したのは、朝、目覚ましが鳴る前です。二通目のタイミングは分かりません。この建物の中は電波が届かないみたいで、昨日の、島を一周するためにみんなで外に出たときに、受信しました」
「少なくとも、そのメールの差出人はその時点で、昨日のモニターの行き過ぎたいたずらを知っていたことになります。となると、送信者は限られてきます」
「もう、起きちゃったから」
瑠璃の発言に日比野は首を捻る。
「さっき、岬ちゃんが教えてくれました。その凶器で、事件が起きたのですか?」
「……隠しておこうと思ったのですが、どうやらそうはいかないようですね。瑠璃さん、落ち着いて聞いてください。事件は起きました。私はまだその凶器が原因なのか、分かりません。それにKカンパニーで起きたという殺人事件も、どのようなものか知りません。ですから、凶器がなんであるのかも、分からない状態です。ですが、事件は起きました」
日比野は間を空けてから続ける。
「殺人事件です。感情を殺して、まずは聞いてください。被害者は、昨日の夕食のとき、私たちと一緒にいました。その人は、昨日のモニターの現場にはいませんでした。私たち、私日比野、笠倉さん、日達さん、久住くん、古川親子、千堂主任、矢口プログラマー、有田プログラマー、浜嶋プログラマー、北原主治医、伊崎秘書の12人が揃っていたあの時間帯に、千堂主任補佐が殺されたのです」
「奥さんが?」
「昨日のうちに警察を呼び、私たちはお互いにアリバイがありましたから、特に呼ばれることもなかったのですが……そのメールを考えると、私たちのアリバイも細かく検証したほうがいいかもしれません。権藤警部に、ああ、今回のケースの担当なのですが、彼にそのメールの内容を伝えても構いませんよね?」
日比野は質問しつつも、相手に否定をさせない口調で言う。権藤が追っていた事件というのがKカンパニーでの殺人事件なのだろう。長引いていたのは、凶器が見つからなかったから。そして、昨日の事件で、その凶器が見つかったから彼が呼ばれた。権藤は、その凶器が銃だと言っていた。
あえて、日比野は凶器が銃だとは言わなかった。悪い癖だが、日比野は自分以外誰も信じない。目の前で悲しい表情をしておいて、それが偽りの仮面であることを何度も経験している。
それに、昨日の夕食のとき感じた一瞬の違和感。
日比野が警察だという岬の言葉を受けて、あの空間が一瞬恐ろしい殺気に包まれた。そして、にもかかわらず、事件は起きた。
全員にアリバイがある。
権藤に頼み、その情報から洗いなおさなければならない。これは、日比野に対する挑戦とも取れる行為ではないか。
……こんなとき、彼女がいてくれたら……
「こんなとき、彼女がいてくれたら」
まるで日比野の思考をなぞるように、瑠璃が小さく囁いた。




