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「気持ちいぃ」
外に出て開口一番、笠倉岬は声を張り上げた。
外はすばらしい秋晴れだ。空も高く澄んでいて、午後からは北側の海岸にぜひとも伺いたいところ。プライベートビーチとまではいかないけれど、ほぼ独占的にあの海岸を闊歩できるなんて、なんと幸せだろう。それも隣には日比野重三、改めて彼の筋肉を見るともう、心のときめきを抑えることが出来ない。軽い調子では誘えるのに、それ以上のアプローチがとれないのは、もしかしたら本気になってしまっているからかもしれない。
「ええ、本当にいい天気ですね。雲一つないし、自然のおかげで涼しさも保たれているし、きっと冬も暖かいのでしょう」
二人で西に流れる佐根川まで来ると、お互いに視線を交わしてから上流へと曲がる。昨日とは逆のルートで島を一周することにする。それほど財宝に興味があるわけではないけれど、宝探しなんて経験、そうできるものではない。それに、情報の観点からも気になるところがある。
橋を渡り、さらに上流に進むとやがて滝壺にぶつかる。それほど大きくはないが、それでも滝は五メートルほどの高さがあるだろう。水しぶきも上がっているし、ミストにかなり近い細かな水滴のおかげで、一層涼しさを増している。
「ああいう滝の裏、怪しいと思ったことないですか?」
滝を指差しながら日比野が言う。
「どうもね、もしかしたら後ろに洞窟があるんじゃないかって。もともと天然の洞窟がいくつもこの島にはあるようですし。例の暗号文にも「先の見えない闇の中」なんて一説もありました」
「でも、そのあと星の光がーって続いてなかった?」
「星の星の御光て。ええ、夜空に星が輝いている様子にも思えます?」
「違うの?」
「まだ分かりません。この水しぶきが滝の中から見ると星のように見える、という例えなのかもしれなせん」
「それなら、先の見えない闇の中って言葉だって、人生お先真っ暗っていうことの比喩かもしれないじゃない」
「その通りですね。でも、ここから見る限り、この滝の裏は洞窟になっていないようです」
「でもって、全然感情こもってない」
ぶぅと頬を膨らませて見たが、日比野はそういうところには疎い。きっと膨らませていることには気がついているのだろうけど、日比野が得意とする読み取り技術では理由が分からないのだろう。そんなにすぐに分かってしまっても恥ずかしいけれど。
滝の脇にある道をジグザグに上ってゆき、さらに上流に進む。いくつも小さな滝があり、枝分かれしていく。まるで進化の系統樹のように、自然であるはずなのに、均整の取れた美しい絵画のように。逆か、もともと絵画が、人が美しく感じるものを切り取ったものだから当然なのかもしれない。
道はやがて滝から離れ、地図で言うと南西の、星マークが付いていたところに出た。身を乗り出すと危険だろうからと、頑丈そうな柵があり、その一部から下に降りられるようになっている。三日月状の形になっていて、三方は絶壁。確か伊崎園子は、波によって削られていった結果だと言っていただろうか。
「降りてみますか?」
「もちろん」
気丈に答えたものの、階段のところまで来るとさすがに恐い。きちんと補強もされているし、設計もなされたものだろうけれども、そこから下を覗くと、その高さにめまいがしてしまう。
「私が先に行きましょう」
「ありがとう」
日比野は恐くないのか、ほとんど躊躇することなく階段を下りていく。岬も遅れないように日比野のシャツをつかみながら、おそるおそる続く。
絶壁は、下に降りるほど島の奥へと続いている。波による侵食のせいだろうが、余計に傾斜が恐ろしい角度になる。
下まで降りると、狭いが砂浜になっている。ちょうどそういうところに降りられるようになっているのだろう。他の場所の多くはそのまま波が壁面へと打ち付けている。砂浜は島の奥へと続いていて、それに沿うように海も奥へと続いている。湾の形のせいだろうか、砂浜側へは高い波が来ない。北側にある海岸のような、優しい波だけだ。
奥といっても10メートルほどだろうか。砂浜はなくなり、後はそのままもう少し奥まで海は侵食しているようだ。この部分にはほとんど波もなく、むしろ奥から水が流れてきているように見える。
「もっと奥までいけそうですけど、どうします?」
「岬ちゃん、泳ぎに自信ないよ」
「泳ぐ必要はないと思いますけど。このまま洞窟になっているようですね。もちろん深さは分かりませんし、伊崎さんが言っていました杭も立っていませんから、きちんとまだ奥を調べていないのでしょう。潮が引いている時間帯なら、安全にいけそうですけど。逆に満ち潮のときは洞窟が埋まってしまうかもしれませんね」
「それって、すごく危険じゃない」
「川になっているようですし、おそらく別の入り口があるのでしょう。どこかの洞窟とつながっていると考えてもいいかもしれません」
しばらくその風景を見守っていたが、財宝が見つかりそうもないので岬は日比野を連れて再び階段を上がることにした。下を見ないように気をつけて、上まで戻る。
「なかなかスリリングでしたね」
「うん、つり橋効果」
岬の発言に、日比野は首を捻る。どうやら通じなかったようだ。そのほうが好都合。どうやら日比野はそちら方面にはとことん疎いようだ。見た目も悪くないし、過去にもさまざまなアプローチがあったはずなのに今まで気づかずに来たのだろう。岬ちゃんがしっかりしなければ、と岬は心の中で決意する。




