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「やはり、どこにもないのだな」
権藤警部は捜査資料を見直しながら一人つぶやく。すでに明かりは机の前に置かれている淡いオレンジ色のものだけだ。部屋の電気を消し、後ろでは小さくジャズが流れている。プライベートの時間であるが、今回のケースをそのまま放置しておくわけにはいかないことを彼は知っている。
凶器がまだ見つかっていないのだ。
夏休みの半ばに起きたKカンパニー部長K月松一殺人事件。そのときに用いられたオートマチックの行方が分からない。その事件の犯人であるK林の証言はひどく曖昧すぎて分からない。その上現在精神鑑定にかけられている。弁護側からの要請なのだが、彼にはそれが演技に見えてならない。逮捕の直前までのK林の様子に精神的に不安定な要素は見られなかった。
一応得られている証言として、K林が部長に呼び出されたのだという。だが、呼び出したのさえ、どちらからなのか判然としない。事実として、K林が部長の側頭部をオートマチックで撃ったことだけは、確かなようだ。
だが、体格の差を考えるとそれは簡単ではない。本人の協力があったか、あるいは、そのぎりぎりまでK林は演技をしていたのか。
殺害後、金庫を開ける振りをしたことをK林は覚えている。けれど、肝心のオートマチックをどうしたか覚えていないとずっと言っている。
あのときの慧眼な少女の指摘で、本人の自供もあり逮捕拘束したのだが、もしかしたらすべてがひっくり返るかもしれない。
そもそも事件の発端であるK田家の長女の件にしてもそうだ。すでにこの事件は一八〇度変わってしまった。むろん、その線も考えていないでもなかったが、少数派であった。第二の事件も同様のケースが考えられないだろうか。
K林はオートマチックを彼に届けただけ。
否。
捜査資料には、金庫室にK林の指紋が残されていた。そこにK林がいたのは確かなことだ。
否。
それは状況証拠でしかない。
やはり、凶器を見つけなければ、事件の解決にはならない。
最悪な場合、さらにそのオートマチックで殺人が行われることだ。凶器について、マスコミには公表していない。
それが裏目に出るかもしれない。
だが、それを公表するのも危険だ。
だが、
だが。
権藤警部は頭を抱える。
Kカンパニーについて調べてみる必要がある。それも、徹底的にすばやく、だ。
後ろで流れていたジャズが、いつの間にか止まっている。コンポについているデジタルの時計は、すでに0時を回っていた。




