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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第二章 その凶器は殺人者の手へ届けられた
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 7

 なぜ、歌を返してもらえないのか、若君に分かるはずもなく。ただ無分別に、それが国の考えなのだと、そして、姫もまた、その国の考えに追随したのだろうと、そうとしか説明ができずに。

 あの、周りにはただ自然の広がり、若君が川のせせらぎに耳を傾けていたとき、その姫と偶然出会ったことなど、きっと姫からすれば戯言にすぎたなったのだろう。

 つまり、若君が裏切られ。


 それでは、心を決めてくれたと、そう考えてよいのだな。

 もちろんだ、皆のもの。長らく心配をかけてしまったが、それももはや必要ない。我のわがままにつき合わせ、佐根の国を盗るのを遅らせてきたが、それも過ぎたこと。もはやなんの憂いもない。

 若君がそう判断してくれたことを嬉しく思います。平和的な外交は、いずれは破綻しますゆえ、ならばその芽を摘んでおかねばならない。

 さあ、わが心はすでに決まっておる。明日にでも、すぐに行動に移すぞ。


 佐根の国は、小国。

 あるのはただ小さな城と、城壁の守るわずかな土地。それが、この世界にあって今もなお存在している理由となりうるとすれば、それは、自然の恵みがためだろうか。この国に足を踏み入れたものであれば、誰もこの国をわざわざ盗ろうとは思うまい。

 小さすぎたことが幸いだったのだ。

 自ら攻めることもなく。

 ただ、そこにあるだけでよかったのに。


 この自然が失われてしまうのだとしたら、佐根はどうなるだろうか。佐根の殿はその最後、自らの姫にすべてを託すことしかできなかった。失われるのが確実ならば、姫の命をどうにか守りたい、と。

 佐根の姫は、失われた記憶とともに、その国が滅びるとき、その国にいなかった。

 そして、国の宝も、そのときにはすでになかった。


 大陸から外の神名島は、佐根姫が逃れた場所として伝わり、やがて財宝伝説もまた、生まれた。


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