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北原朋彦は買い物を済ませると、急いで船へ戻った。この便を逃してしまえば、次は明日にならなければ、もう島に戻ることができない。といっても、この船の航路に神名島は含まれていない。Kカンパニーが島ごと所有していて、そこに直接勤めている人であれば、専用の船を利用し、あるいは、幹部クラスの人間であれば、ヘリコプターで研究施設のすぐ側まで行ってしまう。
北原は、直接Kカンパニーに勤めているのではない。が、今ではその両足と、首の下までKカンパニーに浸かっている。北原の主な仕事は、研究施設に勤めている人間の健康管理だ。ほとんどが閉じこもったまま研究に没頭する研究員ばかりである。急に体調不良になったからといって、すぐに島を出ることができないこともある。そんなときの、いわば主治医のような存在だ。
ただ、幸運なことに今のところ仕事は非常に楽である。
環境が整っていることもあり、ひどい病気にかかる人もいない。変な感染症が持ち込まれることもなければ、せいぜい風邪か寝不足、不眠症程度である。適当な薬を処方すれば、プラシーボ効果だけで充分に回復してしまう。それに、非常な病気となれば、ヘリコプターを本社から呼んで、A県の病院に運べばいい。
さらに嬉しいことに、与えられた部屋には家財道具はもちろん、ネット環境も整っており、北原が必要と感じることの多くは、それでことが足りる。多少通常より時間が掛かるが、宅配もできる。ただ、今回北原がこうして外に買出しに来たのは、特別な理由がある。
Kカンパニーが今行っているプロジェクトの進捗報告も兼ね、モニターを募集し、今日がそのモニターが初めて島に来る日なのだ。
北原も詳しいモニター内容は知らないが、酔う可能性があることを千堂祐次主任から言われ、薬が足りなくなるかもしれないという心配から、市販のものであるが買い足しに来たのである。
それに部外者が介入することで、予期せぬ感染症を持ち込まれる可能性もある。もちろんモニター参加者の簡単なデータに、過去そのような感染症にかかったことがないことは判明しているが、それでも、可能性は残る。
「着いたぞ」
船頭に声をかけられ、北原は船を降りた。それから二、三言葉を交わすと、再び船は動き出す。それを見送ってから北原は歩き始めた。
自分自身、運動不足だという認識もあるし、腹部を考えるとメタボリックだと診断せざるを得ない。それがもとで、夏の初めごろから島の散策を日課に加えた。桟橋も普段の散策のコースに含まれている。
研究施設までの道半ばに来たところで北側にある海岸を見下ろすと、そこに何名かの……七人の人影が見える。一人は、千堂主任の秘書をしている伊崎園子だ。他の人影に見覚えがないことから、おそらくモニターの参加者なのだろう。男三人に女が二人、残りは一人の少年。浜辺で遊んでいる、というよりは案内をしているところなのだろう。少年を除き走り回っている人は見えない。
再び北原は歩き出した。
研究施設に着くと、すぐに扉を開けて中に入る。秘密保持もあるのだろうが、時間が掛かるのが難点だ。
再び北原は扉を抜けると、最初の十字路を無視して進み、その先の左の部屋に入った。と、同時に室内が明るくなる。慣れた手つきで荷物を片付けると、デスクのマウスに触れる。デスクトップが表示され、白い文字がいくつか流れている。ログを読み返し、北原は自分が外に出ている間に、誰か体調を崩していないかなどをチェックする。が、いつものこと、誰からも呼び出しはない。
ネットを操作し、掲示板の書き込みもチェックする。
こちらにも新しいものは増えていない。
そこまで確認してから、ようやく北原は肩の力を抜いた。




