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「いっぱいのお菓子やお酒、それにご飯ものやお餅もあったわ。昨夜は宴会だったのよ」
「そっか。それはすごいね」
「花蓉様は優しいから好き。女官長は厳しいけど、昨夜はいなかったしね。みんないっぱい羽を伸ばしてたわ」
ショウリンはまだ、花蓉妃をみたことがなかった。
いや、大勢の中の一人としてならあったかもしれない、けれど。
それでもこんなにも小燕がなついている花蓉妃は本当にいい人なのだろうなと、そう思う。
肉まんを食べ終わると小燕も満足した様子で。
「じゃぁあたしはお水を汲んで戻るわ。ショウリンまたね」
軽やかな足取りでゆく小燕を見送ると、ショウリンもその場を離れた。
次は湯殿の掃除。
そう思い浮かべながら、とぼとぼと歩く。
宦官からも、下女たちからも、距離を置かれていたショウリンの仕事は主に色々なところの片付けや掃除。
宦官の仕事は色々とあるが、力仕事は体の大きい宦官の役目でありショウリンには回ってこなかった。
それは、直属の上司が宦官唯月であったというのが大きい。
宦官ではあるけれど高級官吏の彼は、今朝は紫微殿に赴いているのだが、他の宦官たちは唯月預かりのショウリンに対しては深く関わろうとはしないので、唯月からの指示がない日、ショウリンはただただ毎日の日課に則って雑務をこなしてゆくのみだった。
下女たちからは、相手にされていなかったというのが本当のところ。
掃除程度の雑務しかこなせないショウリンに対して、何を頼むわけでもなく。
そばにいても野良猫でもいるかぐらいにしか感じず、視界に入れず、自分たちの仕事をするのみ。
そんな扱いのショウリンに構うような奇特な者は、小燕くらいしかいなかったのだ。
浴場は広く、幾つもの湯船があった。
大理石の湯船は小さな池のように広く、一人用の壺湯には滝のような湯が注ぐ。
蒸し風呂、水風呂、薬湯、歩き湯など、数多くの湯を設えた浴場は、後宮で働く大勢の女官が同時に入っても余裕の広さがあり、中央の大理石の白湯には、常に天然の温泉が流されていた。
中央の湯船の掃除には湯を全て落とす必要があったため、掃除をするには早朝の誰も利用しない時間が選ばれていた。
この時間なら、誰も入りにこない。
後宮中が朝餉の支度に追われ、忙しく動き回っているこの時間であれば――
宦官にはこの浴場を使用する権利はない。
上級妃は宮の外で肌を晒すことが無いため、もっぱら皇帝が滞在し政務も行えるほど広い玉后宮に建屋や部屋をもつ中級妃や下級妃、各宮殿に使える女官が使用するのがこの後宮大浴場であったのだった。
下女は、といえば、やはり浴場を使うことはできない。
せいぜい寝る前にタライに貰い湯を注ぎ、身体をふくくらいしかできなかった。
温泉の湯を堰き止め、湯船の湯を抜く。
掃除のために無人となっているとはいえ、大人の宦官が浴場に足を踏み入れるのは女性たちよりよく思われなかったせいもあり、ショウリンが現れるまでは湯船の掃除はもっぱら下女の仕事でもあった。
「もったい、ない、よね……」
捨ててしまうお湯。
流したお湯は水路に流れるため、下女たちの洗濯にも使われることになる、けれど……。
どうせ湯船を洗うときにはかなり水浸しになるのだから、と。
灰色の着物を脱ぎすみっこの台座に置くと、お湯が流れ切る前に湯船に足を踏み入れる。
柄の長いブラシで大理石の湯船を擦り洗いをしていくショウリン。
腹掛け型の褻衣一枚になり、半ばお湯に浸かりながら湯船の壁から洗い流していく。
誰もいないこの時間だからこそ、できることだった。




