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第6話 その太陽はまぶしすぎて

第六話です。

塞ぎ込むアイリーンのもとにクリスがやってきます。

アイリーンは最後手紙を受け取ります。

その手紙の内容とは……?

 それからの日々は、ほとんどを自室で過ごした。




 アイリーンにとってその出来事は刺激が強すぎた。


 呪いだとか、死だとか、対岸の火事だった出来事が突然隣に座ってきたのだ。




 目立つまいと、謎を追うまいと、目を背けてきたことは確かに否めない。




 だがそれは。




 目をつぶり寝たふりをしていた私を。


 つぶった瞼越しに覗き込んできた。




 そううまくはいかないぞ。




 お前は殺される運命だ。


 あの折り曲げられた女のように。




 お前も私に呪い殺されるのだ。




 まるで首元に冷たい刃物を当てられた時のように、私は身じろぎ一つせず自室に引きこもり続けた。




 髪の毛はぼさぼさ。


 いつもすっぴん状態。




 日常生活を放棄した体は少しずつ重みを増していく。


 ……体重が増えたってわけじゃない。




 ……筋肉が衰えてきたのだ。




 たまに外に出ると、城の雰囲気も重かった。




 あの一件から城は、「本当に」呪われてしまったかのように暗く重くなってしまった。




 あでやかな貴婦人たちの舞を見ることもなくなってしまった。


 あの色とりどりの蝶はどこに行ってしまったのか。




 ……いや、私が変わってしまっただけか。 




 あの豪華絢爛なお茶会は今でも行われている。


 ただそれを見る私の心の方が色を失ってしまったのだ。




 アイリーンは図書室で何冊かの本を借りると、それを持って一日中自室へ引きこもるのだった。






 クリスがアイリーンの部屋を訪れたとき、アイリーンはテーブルに突っ伏して昼寝をしていた。




 本を読むのも飽きてきた頃だった。




「アイリーン殿!」


「クリス様!? どうしたのですかいきなり」




 慌てたサラの声が遠くで聞こえる。




 腫れた目をこすりながら顔を上げると、クリスがアイリーンの目の前にいた。




 ……正直もう髪がぼさぼさだろうと、腫れた目をしていようと何も感じなかった。




「いや、アイリーン殿が病に倒れたという噂を耳にしてな」


「倒れた……何それ、私倒れてなんかいないよ?」




 つい生前の口調で答えてしまう。




「い、いえ倒れてなんかいませんわ」


「倒れていないのか。それなら良かった!」




 クリスは何でもないことのように頷くと、アイリーンに封に入った手紙を渡した。




「ならこの手紙は読めるな。ぜひ読んでくれ」


「分かりました」




 そう言ってアイリーンは封を開けようとする。




「待て待て、私のいないところで開けてほしいのだ」


「なぜ?」


「そういうことになっているのだ」




 頬を掻くクリスに釈然としない思いを抱きながらも、アイリーンは素直に開ける手を止めた。




「それで良い」




 クリスはほっとした様子で言う。




「ところで本当に体の調子は大丈夫か?」


「……大丈夫、だと思います」


「無理はするな。私には分かる。アイリーン殿は無理をしている」




 自分の命が危ないというのに、クリスはそれでも他人の体を気遣う。


 まさに王の器とでもいうのだろうか。




 アイリーンはつい尋ねてしまう。




 どうして同じように命を狙われている私と違って、そんなにいつも通り生きられるのか。


 怖く……ないのか。




「クリス様は怖くないのですか?」




 クリスは私の言葉を受け止めて、言った。




「怖くないことはない。私だって怖いさ。しかしそれは私にチャンスを与えてもくれたんだよ」




 アイリーンはクリスを見る。




「もし私が明日死ぬ運命だとしよう。しかし私にはやらなければならないことがあるとする。ならばどうするか。今日やればよいのだ」




 クリスは朗々と言った。




「人は私の事を痴れ者だと言うかもしれない。だが私は思うのだよ。死は私に行動するチャンスをくれたのだと。いつまでも先延ばしにしないで今やるというチャンスをね」




 アイリーンは言葉を失った。




 この人根っからのポジティブ人間だ。




 どうしようもないくらい明るい太陽のような人間だ。


 明るい日差しの裏に隠した暗い感情を覆い隠すことができるくらいの。




「もしアイリーン殿も何か悩んでいるのであれば……。前に進め。私のように吹っ切れればよい。案外快適だぞ?」




 こんなにクリスがアイリーンに饒舌にしゃべったのは初めてのことだった。




 無意識に。




 アイリーンはクリスの手を両手で包み込んだ。




「クリス様も無理なさらないでください。その胸中、私には測りかねますが、お辛い時は胸の内を 話してしまって良いのですよ。明るさとは暗さの裏返しなのですから」


「あ、ありがとう。励ますつもりが私が励まされてしまったな……」




 クリスの顔が赤くなるのを見て、アイリーンは手をパッと離した。




「も、申し訳ありません、私ったら手を」


「よ、良いのだ。私はもう行かねばならない。その手紙、読んで頂けると幸いだ」




 クリスはそれだけ言い残すと、逃げるように部屋を出て行ってしまった。






 アイリーンは手紙を開ける。


 それは舞踏会開催のお知らせだった。




 五月某日、大広間にて。




 アイリーンは読み進める。




 流麗な言葉で綴られた言葉……。




 そして。




 最後には少し小さな文字でこう書かれてあった。




「ぜひ私と踊ってほしい、アイリーン殿」




 




 もし死が逃れられないものだとしたら。


 


 クリス様はそれまでにやりたいことをやると言った。




 私ならどうする?




 私なら。


 私なら死の方をどうにかしてしまう。


 


 死の方に道を開けてもらうのだ。


 


 私はその先に行きますから、あなたはあちらの方へどうぞ。




 だってやりたいことは一杯で、すぐには満足できなさそうだし。


 私にはこの呪いもついているのだから。


 


 私は溜まっていた息を吐きだす。


 


 体が軽い。




 どこまでも飛んでいけるくらい。




 ……やっと小説のタイトルを思い出せた。




 『呪いに愛された悪役令嬢は城の秘密を解き明かす』




 確かこんなタイトルだった。


 


 だったら。




 私はもう一度息を吸う。


 体に陽の光を蓄えるように。




 私ならきっとこの城の秘密を解き明かせる。




 小説の続きが分からないのなら。


 私がこの物語を編集すれば良い。




 今までやってきたように。


 何回も何回も書き直して。




 死の文字が。


 原稿から消えてなくなるまで、何度だって。

これで第一章終了になります。

第七話は朴訥な衛兵ジャックが出てくる予定です。

お付き合いいただきありがとうございました!

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