#106 久しぶり、二人きり
今日は、久しぶりの夕夏と二人きりのデートだ。俺も少しずつ慣れてきたのか、最近はデートの定義を気にすることもない。俺と夕夏は恋人なのだから、二人で出かければそれはデートだろうと、そう考えている。
「お待たせ―」
夕夏は俺を見つけると、顔を明るくして小走りで駆け寄ってきた。白を基調した涼しげな格好と被った帽子が視覚的に涼しい。
「あっついね」
駅前の日陰から出た夕夏が、うんざりしたような声で言う。日頃はどうしてもエアコンに頼った生活をしてしまう。そのせいで、こうして外に出たタイミングで夏の恐ろしさを再確認するのだ。
「って、友哉君日向で待ってたの!?」
「あー、そういえばそうだったな」
改札を出てすぐ分かりそうなところにいようと、なんとなくここに立っていた。今思えば、日陰で休むこともできたな。
「こんなに暑いんだから、熱中症になっちゃうよ! 大丈夫? 頭フラフラしたりしない?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。飲み物も持ってきてるし」
俺は手元のペットボトルを掲げ、中身を流し込む。喉が大きく鳴ったのは、体が水分を求めていた証だった。
すると、突然頭部に僅かな重みを感じる。そこに伸びているのは、夕夏の腕だ。
「しばらくこれ被ってて」
そう口にする夕夏の外見は、さっき合流した時とは違っていた。白金色の髪が露わになり、夏の陽光を眩く照り返している。
夕夏の腕が離れた後、俺は答え合わせをしようと自分の頭に手を乗せる。
そこにあったのは、夕夏がたった今まで被っていた帽子だった。
「いいのか?」
「私は、さっきまで電車で涼んでたからいいの」
彼氏なら、彼女の体を大事にするべきだが……まぁ、心配されている時点で見栄の張りようもないか。
「それなら、とっとと店の中に入ろう。店内なら二人とも安心だ」
「うん、そうだね」
店舗までの道中は、夕夏の厚意に甘えることにして、歩き出す。わざわざ確認を取ることもなく、自然とお互いの手が重なる。
それでも、初めて手を繋いだ頃から高揚感は薄れていない。ただ、近頃は安心感が加わるようになった。手に伝わる夕夏の温度が、彼女が近くにいるということを実感させてくれるからだ。
握り返される力を感じながら、夕夏もそう思ってくれていたらいいと期待する自分がいた。
「いいもの見つかるといいなー」
「店はたくさんあるんだ。一個くらい見つかるだろ」
俺達が、今日商業施設にやってきた目的は一つ。『お揃いの物を身に着ける』という、青春ノートの項目を埋めるためだ。
夏祭りではそれらしいアイテムを見つけることができなかった。ということで、次のイベントである長野旅行を見据えて、買い物に来たのだ。
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