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#105 決着のゴール

 結果、堂島達は試合に負けた。俺を含め、観客は選手を全力で応援していた。だが、それは敵も味方も同じこと。最終的に試合を左右するのは、フィールドのプレイヤーなのだと痛感した。


「惜しかったね」


 茂木が悔しさを滲ませて言う。結論だけ言えば、俺達の不安は杞憂だった。堂島の強張りは、試合が開始してすぐに解れた。


 DFを務める堂島は、攻め気に溢れる相手校の攻撃を防ごうと善戦。そのおかげで、連続失点は避けることができた。それと並行して先輩達は得点していき、前半は一進一退の攻防といえる戦いだった。


 流れが変わったのは、後半の途中。相手校が交代で投入してきた選手が、スタミナが有り余っているという強みを活かして、強引にDFを突破してきたのだ。


「後半からの勢いすごかったけど、まさか一点も入れられないとは思わなかったよ」


 夕夏も肩を落としている。相手校の猛攻は、こちらが攻めに転じる隙を与えなかった。その攻めを防げなかった責任を堂島が感じていると、グラウンドから立ち去る彼の背中を見て察した。


 そして、初戦で敗退したということは、この時点で森口先輩の連敗が決定したというわけだ。


「じゃあ、私行ってくるね」


 試合が終わり、井寄は観戦場所に背を向け歩き出す。向かう先はもちろん、森口先輩の待つ会場入口だ。

 井寄の後ろ姿が小さくなるのを見送り、俺達は顔を突き合わせて話を始めた。


「……どうする?」


「私は心配」


「僕もだ。桃は求めてないかもしれないけどね」


 全員考えることは同じのようだ。俺達も観戦場所を離れ、少し遅れて決戦の場へ移動した。


「ねぇ、あれじゃない?」


 夕夏の声で、指差す方へ目を向ける。入口から繋がる廊下、本来部外者が足を踏み入れられないところで、井寄と森口先輩の姿を見つけた。


 二人は、すでに何やら会話をしているようだ。声も聞こえなければ顔も見えないが、まだ核心には触れていないということだけは分かる。


 俺達は、部外者のいけるギリギリのラインを攻めて、近くの柱に身を隠した。

 そこから様子を伺おうと、顔だけを飛び出させる。


「もう少しいいとこ見せられると思ったんだけど……」


「あはは……」


 なんとか声を聞くことには成功した。


 話題は、さっき終わったばかりの試合だ。そういえば、堂島に注目しすぎて森口先輩の活躍については全く気にしていなかった。そもそも、ポジションはどこなんだ?


「せっかく井寄さんに来てもらったのに、今日は格好悪い姿見せちゃったね」


「格好悪いのはずっとでしょ」


「ちょっと瑠璃! 聞こえてちゃったらどうすんの……!」


 ぼそりと毒を吐いた九条を、夕夏が小声で窘める。


「あ、そういえば堂島って井寄さんの――」


「先輩」


 森口先輩のマシンガントークを、井寄は短い言葉で遮る。森口先輩は、狼狽を声に乗せて井寄に問いかけた。


「……どうしたのかな?」


「先延ばしにするの、やめませんか?」


「……なんのことかな」


「私は、告白の返事をしにきたんです」


 はっきりと、森口先輩の未練を断ち切るように井寄は切り出した。

 肝心なところで尻込みするのが、森口鉄平という男なのだろう。告白はしたが、目立ったアプローチはできない、答えを聞けないから話を一向に本題に進めない。


 ここまでくると、なぜ告白ができたのかも疑問だ。ひょっとして、今日の最初会った時のように他の先輩達にそそのかされてその気にでもなったのだろうか。


「そ、そうだよね、ごめん時間取らせて……」


「答えだけ言います」


 井寄はそこで言葉を切る。答えを告げるための深い呼吸音が、ここまで届いてきた。


「ごめんなさい、先輩の告白は受けられません」


 そう言って、井寄は頭を下げた。


「そ、そっか……理由って聞いてもいいのかな?」


「それで先輩が納得してくれるなら」


 これは、井寄なりの棘だったのかもしれない。自分が持っているナイフを、相手の奥に刺し込むための念押しに思えた。


「うん、納得するよ」


 その答えを聞けて安堵したのか、はたまた恋人の存在を思い浮かべたのか、穏やかな口調で井寄は口を開いた。


「私、付き合ってる人がいるんです。先輩に告白された時はまだだったんですけど、それでも私はずっと彼が好きでした」


 なんとなしに茂木の方を見ると、さすがに恥ずかしいのか頬をほんのり染めていた。


(そりゃ、みんなに聞かれてたら照れるよな)


 まさかこんな展開になるとは思わず、勝手に話を聞いている現状を、井寄に申し訳なく感じる。


 しかし、その後悔も空しく、井寄の語りは続いていく。


「私も、きっと彼もあのままの関係でいいかなって満足しようとしてました。もし先輩が告白してくれなかったら、私達は今も変わらなかったと思います」


「だから」と、井寄は区切るように口にする。


「先輩には感謝してます。フった相手に言われたくないかもですけど、これが私の本心です。ありがとうございました。それから、ごめんなさい」


 最後にもう一度頭を下げた井寄。ここに、ひと夏の恋物語は幕を下ろした。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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