#104 迫る、決戦の時
ユニーク2000PV、ありがとうございます。
「桃、戻ってきたよー」
場所取りを終えてからしばらくして、夕夏が井寄を連れて戻ってくる。無事(?)に話は終わったみたいだ。
「先輩、なんて言ってた?」
「第一試合がうちの高校で、それが終わったらまた入口に来てほしいって」
九条の問いに、井寄は簡潔に答える。森口先輩が設定した返事のタイミング、それは試合の終了後だった。
「じゃあ、最初の試合は勝ってもらわないと困るな」
「なんで?」
「森口先輩だって、連敗は嫌だろ」
「あー……」
納得したような声を出した夕夏だったが、同意は得られない。あれ、優しさのつもりだったんだけど……。
すると、夕夏が肘で俺を小突いてくる。
「友哉君、お主も意外と悪よのう」
「いやいや、悪くないだろ! 俺は先輩の心の傷をだな――」
「新宮君も正直に言って。私はむしろ、連敗すればいいと思ってる」
「僕も同感だね。ただ、薫が試合に出るから複雑な心境ではあるけど」
「おい聞いたか? こっちの方がよっぽど悪だろ!」
俺の反論に、夕夏は目を丸くする。想像以上に、みんなが不満を抱えていたらしい。
そんな悶着を見て、井寄は堪えきれない様子で笑い出す。
「あははっ、みんな怖いって! 私は大丈夫だから、心配しないで!」
当事者の井寄が、一番不安定なはずだ。それなのに、俺達の中で一番笑顔を見せていた。
その笑顔を引っ込めて、井寄は目線を影に落とす。
「もうここまで来たら、やるしかないよ。引き止められたら嫌だなって思うけど、また断り切れないのも嫌だから」
声に込められた決意が、井寄の覚悟を表していた。井寄が進むというなら、俺達はその背中を見守るだけだ。
真夏日のうだるような暑さに包まれながら、しんとした静寂に支配される。今日はセミがよく鳴いていた。
「ほら! 変な空気はおしまいにしてさ! もうすぐ試合でしょ!」
二度手を叩いて、井寄が空気を変えようとする。
グラウンドに目を向けると、出場校の紹介を兼ねた入場が始まろうとしていた。
「あれ、薫じゃないか?」
茂木は、自校の列から目敏く堂島を見つける。堂島の体格だと、先輩達と並んでも貫禄がある佇まいだ。しかし、その面持ちはいつになく緊張に満ちていた。
「珍しいな」
「うん、イメージにないかも……」
堂島の新しい一面に、夕夏も驚きを隠し切れていない。
背丈的に顔が飛び出てくるからこそ、一度気になると目が離せなくなってしまう。本番、果たしてあの固まり具合で動けるのだろうか。
「手と足、同じ方から出したりしてないよね?」
「さすがにそれは……」
と言っても、入場してくる瞬間を俺は見ていない。茂木に視線を送ると、彼は首を横に振った。
「ないみたいだ」
「良かった、それじゃあ試合にならないもんね」
そんな状態で活躍しようものなら、高校サッカー界の伝説になる。
運悪く試合は一番最初だ。緊張を解く猶予は、堂島にほとんど残されていない。今日までに、堂島がどれほど練習に身を費やしてきたかを知っている。その成果を発揮するための手伝いを、俺達がするんだ。
「みんな、試合が始まったら全力で応援だ。声出すぞ」
ファンの声援が力になると、各世界のスター達は言っていた。俺は今日、それを証明してみせる。
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