第64話 怪しいのは……?
俺達がキャンプに戻ってみると、そこにはまだ他の連中は誰一人帰っていなかった。
チャラ男辺りは適当に数体狩って、即キャンプに戻ってるかと思ったんだが……。
「どうした? まだ日が沈むには早い。それとも、もう十分に魔石を集めてきたのか?」
俺達が帰って来たのを見て、教官が話しかけてくる。
キャンプには他に教官が数名いるようだが、兵士達の姿が見えないな。
「それ所じゃないわよ! なんかすんごいヤバイ狼の魔物に襲われたんだけど!?」
「何? 狼の魔物だと?」
……ううん。
教官のこの反応は、本当に知らなかったように見えるなあ。
アレは教官連中には知らせずに行ったのか?
「そーよ。何とか倒す事は出来たんだけど、流石にあんなのに何度も襲われたら危険よ」
「そうだな。正直俺ら以外が襲われたら全滅してただろう。ほら、こいつがその魔物の魔石だ」
「これはっ……。確かにこのような魔石を落とす魔物なら、お前達の言う事も間違っていないのだろう」
魔石というのは、単純に強い魔物が大きいサイズになるという訳でもないようだが、それでもただのゴブリンが拳大の魔石を落とす事はない。
上位種ならそれもありえるんだろうけど。
「今回の魔物狩りでは魔甲玉の携帯は禁止されているが、あんな魔物が出るようなら逃走用に携帯しておきたい」
「む……。分かった、他の教官と話してくるから少し待っていてくれ」
そう言って走り去っていく教官。
ジッと観察をしていたが、あれで演技をしていたんならアカデミー賞ものだな。
教官が全員知らされていないかどうかまでは分からんが、少なくとも今の教官はシロのように思える。
そんな事を考えていると、近場にいた教官たちを引き連れて、先ほどの教官が戻ってきた。
気功教官の姿もあるが、マンサクタイプの教官がいない。
まさか権助どんの後を付いていってるんじゃないだろうな?
「話はティベリオから聞いた。ルーベンスに襲われたらしいな?」
「ルーベンス?」
「巨大な狼の魔物の事だよ。その巨体の割に動きも俊敏で、これまで多くの人間の命を奪ってきたのだ」
ティベリオというのは先ほど俺達が報告した教官で、彼は確かタンゾータイプ――根本の魔甲機装の教官だ。
以前根本から話を聞いたことがあった。
そして今話しているのが、リュースイタイプの教官になる。
沙織の教官は彼のはずだが、こちらは沙織から話題に上ったことはなかった。
……にしてもルーベンス、ねえ。
「何故そのような魔物が潜んでる森に、魔甲玉も持たせず向かわせたのですか?」
「いや、元々この森でルーベンスを見たという報告例も、襲われたという話なども聞いたことはなかった。奴が暴れていたのは、王都より北にある魔族領との境界付近にある森だ」
なるほど。
そこでルーベンスとやらを捕らえて、俺達への当て馬……当て狼にした訳ね。
「へえ、流石教官ですね。樹里の言ったヤバイ狼の魔物ってだけで、種類まであっさり特定するなんて」
「……これでも私は魔族だけでなく、魔物との戦闘経験も豊富なのでな」
とは仰ってますが、明らかに動揺を見せたな。
俺のアイセンサーは、ハイスペックな頭脳も使って詳細に相手を観測する事が出来る。
それこそ相手の筋肉の動きなども詳細にな。
まあ、普通の人がみたらそこまで大きな反応には見えんだろうが、俺にはバレバレバレリーナだぜ。
そもそも、狼の魔物といっても種類は結構多い。
どうせ奴は、俺達が魔物の事に詳しくないだろうと思って適当ぶっこいたんだろうが、俺はこまめに情報収集は行っているんでね。
こっそり城の書庫に忍び込んで、片っ端から書庫の内容を脳内ハードディスクにコピー済なんだよ。
そこに検索を掛ければ……ほら。
フォルラウだのガルベロスだの、ヤバイとされる狼の魔物の情報もヒットする。
樹里が「大きい狼の魔物」とでも説明していたら、確かにルーベンスが思い当たったかもしれんが、ヤバイ狼の魔物ってだけなら他にも候補はあるはずだ。
「そんなもんですか。まあ、とにかくそういった訳なんで、この後の魔物狩りの予定をキャンセルするか、魔甲玉の携帯許可をもらいたいんですが?」
「……お前達はどう思っているのだ? 見た所負傷した様子はないようだが……」
「ま、正直あんなのがうろついてる所に戻りたくはないな」
もう一度あんな奴が襲ってきたら、今度こそ根本がちびっちゃうだろう。
まあ、今回の魔物は仕組まれたもんだったけど。
「……いいだろう。今日は一旦魔物狩りについては中止とする。お前たちはテントに戻って休んでいるといい。ティベリオは、兵士達を呼び集めておいてくれ。ルーファスはシュフの奴を探してくれ」
「分かりました」
「分かったぜ。ってか、アイツは教官の癖にどこほっつき歩いてんだあ?」
リュースイタイプの教官の指示に従う二人の教官。
前々から思ってたけど、いつも前に出て話しているガムシャータイプの気功教官が一番偉い訳ではなく、このリュースイタイプの教官が一番偉いっぽいな。
てか、あの気功教官の名前、ルーファスっていうのか。
無駄にかっけーな。
見た目的には「ロドリゲス」って感じなんだけど。
それと話の流れからして、権助どんと愛を育んでいるマンサクの教官って、シュフって名前なのか。
いつも訓練の時は教官、教官って呼んでるから名前とか知らんかったわ。
シュフって名前の割に、全く男経験はなさそうな所は面白い。
意図せず教官二人の名前を知る事になったが、あのリュースイタイプの教官と、傍にいたボーシュタイプの教官の名前は結局分からんままだ。
まー、別にそんな事はどうでもいいんだけど。
「良かったな根本。今日はこれでカリキュラムが終了したぞ」
「は、ははは……。そうですね、あいつは例外だったのかもしれないですけど、今すぐ森に戻りたくはなかったので、助かりましたよ」
「じゃ、俺達はテントに戻るとするか」
「ちょっと待ってよ。どーせテントに帰ったってする事なんてないでしょ? ならあたし達とここで話でもしようよ」
「話って……別にいつもちょこまかと話はしてるだろ?」
「なによ? 別にそれでもいーじゃない」
結局樹里に押し切られ、俺達はしばらく四人でペチャクチャとお喋りをして時間を過ごす事になった。




