第84話 森の深部に行く前に
いつも誤字報告ありがとうございます
朝、ランガンの町を出ると、そのまま森に直行した。
方角は決めてるからどの場所から入っても大差ない。
「ピッピ、この辺は強い魔物以外はスルーするからね」
「そうなの? だったら、この辺りにはもう強い魔物はいないよ。昨日、倒した奴ら以外はもっと奥だよ」
「じゃあ、ちょっと急ぎ目で行こうか」
「いいわよー」
また一番手に選ばれたピッピはご機嫌だった。
この世界に来て一番目に喚ばれたのもそうだが、今回の順番でも一番だった事がピッピを超ご機嫌にさせていた。
「楽しそうだね」
「そう見える?」
「うん、いつもより楽しそうだよ。ずっと笑ってるじゃん」
「そんな事ないわよ。でも、楽しいのは当たってるかな。うん、楽しいよ!」
「そっか、ピッピが楽しいんなら僕も楽しいや」
「キズナ様より私の方がもっと楽しいんだから!」
そう言って、いつもの二割り増しのスピードで森を抜けて行くピッピ。
当然、スピード自慢のキズナも付いて行く。『クロスオーバー』で一番早いと自称しているキズナだ、妖精のピッピ程度に負けるわけが無い。
「ピッピ! 周りの確認もしてる?」
「してるわ! 今日の私は絶好調ー! 羽の調子もすこぶる快調ー!」
「おお! 早い早い!」
森の中なら得意の風の妖精ピッピだから、気分が乗ってる今はいつもより早い。
それでも余裕で付いて行くキズナ。
そんな二人が戦闘を避けて猛ダッシュで森を駆け抜けて行く。
昼前だというのに、既に元ノスフェラトゥの城をとうに過ぎ去り、吸血鬼達の本拠地でもある現在のノスフェラトゥの居城に到着していた。
「ここ、寄るの?」
「う~ん、どうしよっか。特に用は無いんだよね」
「じゃあスルー?」
「そだね、獣人さん達の方が気になるし、そっちに行ってみよっかな。でも、場所を聞いてないんだよね」
「獣人が沢山いる場所が分かればいいの?」
「そうだけど、ピッピ分かるの?」
「ちょっと待ってね」
そう言うとピッピの陰がどんどんと薄くなっていき、そしてピッピの気配が消えた。
「あれ~? それってシルフィーナさんの技じゃん! ピッピもできるようになったんだ」
ダンジョンでキズナが何もしてないにも関わらずレベルが上がったと同様に、こちらの世界でキズナと同行している妖精達もレベルが上がっていた。
もちろん、キズナの持っている加護『マリアの加護』によるところが大きい。
様々な加護を統合して纏められた『マリアの加護』の中にはパーティ経験値に影響を与える加護もあった。
ひとつはパーティ内経験値共有。ひとつはパーティ内経験値等分配。そして、ひとつはパーティ内経験値否分割。
パーティ内経験値等分配とパーティ内経験値否分割が対立しているように見えるが、これが上手く共鳴しあって相乗効果を出していたのだ。
四人パーティで魔物を倒した場合で一例を出すとこうだ。
まず、パーティ内経験値共有で誰が止めを刺してもパーティ全員に経験値が行き渡る。
魔物を倒した経験値を一〇〇とすると、パーティ内経験値等分配が経験値を四等分しようとする。
そこをパーティ内経験値否分割が等分を止める。四等分させなくするのだ。
すると、一〇〇ある経験値が分割されない状態で四人全員に行き渡る。四人共に分割されない一〇〇の経験値を受け取る事ができるのだ。
パーティメンバーが六人までなら採用される加護なので、今まで少人数でしか組んだ事のないキズナには適用されていた。
因みに喚び出されている『クロスオーバー』の住民は、喚び出されている間はキズナの眷属という恩恵を受けるのでパーティメンバーにはカウントされない。更にその眷属の恩恵の効果で、キズナ一人当たりに配当される経験値と同じだけ経験値を受け取っている。
キズナのように経験値補正やレベルアップ補正を持っていなくとも、得られる経験値が豊富なため何もせずに楽々レベルアップするのだ。
しかも、キズナのようにレベルダウンをする事が無い。これもスキル『クロスオーバー』を伝授したマリアからの追効果だった。
『マリアの加護』、正に何でもありだ。
「キズナ様ー、あっちにいるみたい。でも、なんか少ないよ?」
「おかえりピッピ。人が少ないの? 狩りにでも出かけてるのかな?」
ノスフェラトゥさんは場所を提供するとしか言ってなかったしな。
森の中だから農業をできる環境でも無いだろうし、食材を集めるなら狩りか採取だろうしね。
「まずは遠くから様子を見てみよう」
「え? 行かないの?」
「様子が分かればいいんだ。困ってるようなら助けに入るけど、順調そうなら寄らなくてもいいかな」
「なんで? 友達じゃないの?」
「友達……とは言えないかな。知り合いってぐらいだと思う」
「えー、キズナ様は知り合いってより恩人でしょ?」
「恩人って、そんな大袈裟なもんじゃないって。ちょっと手助けしてあげただけだよ」
「ふ~ん、『クロスオーバー』の人達を喚んで町から救い出して、衣食住を無償で渡してあげて、ここまでの道中に必要なものをタダであげた人の事を知り合いって言うんだ。へぇ~」
そうやって並べられると、確かにただの知り合いじゃないかも。
でも、恩人ってレベルじゃないよね? 大した労力は使わなかったし。ちょっと脳筋が多くて会話にならないのが辛かっただけだから。
「あー、確かに獣人達って会話のキャッチボールが下手よね。寄ると時間食いそうね」
やっぱりピッピも分かってるじゃないか。あの人達と会話するのって疲れるんだよな。
コガネマルには名付け…ではないけれど、進化の手助けをして懐いてたからちょっと会いたいと思ったけど、トゥーラの相棒だしね。それに人が少ないんなら、コガネマルも狩りに出掛けてるだろうし、獣人達が困ってないか遠くから見るだけでいいでしょ。
ピッピに先導されて来てみると、樹が生えてない場所に連れて来られた。
「へぇ、森の中にこんな場所があるんだ。これって自然に出来たのかな?」
「うん、そうだと思う。ここって魔素が少ないもん」
「あ、確かに」
この世界に来て視認できるようになった魔素。
森の中と比べて、この拓けてる場所は魔素濃度が薄い。それが原因なのか、樹はほとんど無く何軒か家が建っていた。
「これって……」
「なになに?」
「魔素が少ないから魔物も寄り付きにくくて安全地帯になってる?」
「うん、なってるね」
「じゃあ、他の場所も魔素を少なくすればここみたいになるのかな」
「一時的にはなると思う。でも、魔素って湧き出るところがあったり、流れで魔素溜まりになったりしてるから、魔素を散らしても元に戻ると思うよ」
「そうなんだ、それは知らなかった。だったら、流れを変えたり湧き出る所を止めたりできないもんかな」
「普通はできないね。でも、キズナ様ならできそー」
そうなんだよね。僕って、魔力操作が得意じゃん? 今なら魔素が見えてるんだし、何とでも出来そうな気がするんだよ。
下手な事をすると生態系を変えて、人の住むとこに魔物が行っちゃうと困るので今はやらないけど、どんな風になるのかちょっと試してみたいね。
「キズナ様ー、悪い顔になってるよー」
「えっ!?」
そ、そうかな? 初の試みができそうだから、つい嬉しくなっちゃったけど、悪い顔にはなってないと思う。
「ここは特に問題無さそうだね。食料もあるみたいだし、寂れた雰囲気も無いね」
「そうだね。あちこちから炊煙が上がってる割に、近くに魔物もいないみたいだし、平和に暮らしてそう」
集落と呼べるほどの家々が建ってる。見た感じ大きさにバラつきはあるけど二~三〇軒ほど。
魔物に襲われた風は無いし、洗濯物や肉を干してるところもある。
井戸も見えるし、来たばかりで大変な部分はあるだろうけど平和そうに見えるね。
「じゃあ、さっきの話の件で試したい事もあるし、魔素溜まりに行ってみようよ。場所わかる?」
「分かるけど……キズナ様、大丈夫?」
「大丈夫だよ、魔力操作には自信があるし。それに、この近所じゃなくて、もっと森の奥に行けばいいでしょ?」
「そうだね。ここから遠くに離れたとこまで行けばいいかな。他にも試したい事もあるし」
「他にも!? キズナ様、無茶はダメだからね!」
「わかってるって」
獣人達の暮らしについては問題ないと判断し、ピッピと二人で再び森を猛スピードで駆け抜けた。
狩りに出ている獣人達がどこにいるのかは知らないけど、周辺は吸血鬼達の縄張りだし、問題がありそうな強い魔物は吸血鬼達が討伐してるだろ。たぶん夜に。
ノスフェラトゥさん達、上位の者は昼でも普通に活動できるけど、ワンランク下がると厳しいからね。
「あそこね」
「あー、確かに濃い。ひと目見ただけで分かるよ」
「強い魔物も周囲に結構いるから気をつけてね」
やっぱ魔物もいるんだ。弱い魔物は魔素濃すぎると死んでしまったりする場合もあるみたいだけど、強い魔物は逆に自分の力として取り込むからね。
強い魔物達で縄張り争いでもしてるのかもしれない。
でも、やっぱりピッピには分かるんだな。
「ピッピ、ひとつ聞くけど、どうやって魔物や周囲の探知ってしてるの?」
「んー……なんとなく?」
「……じゃあ、聞き方を変えるよ。周囲の何を探知してるの? 例えば気配とか魔力とか動きとか」
「何を……なんだろ? モヤモヤする感じ? 自分のテリトリーに邪魔者がいるような感じ?」
「いや、聞いたのは僕なんだけど……」
ピッピは感覚派だったかー。いわゆる天才肌ってやつだな。
僕は何度も何度も同じ事を繰り返して覚えていくタイプだから、感覚派の説明は分かり難いんだよ。
ピッピの説明は分からないので、試したかった事をやってみるか。
まずは目に見えてる周囲の魔素の中でも、濃い目のところに立ち手で触れて魔力操作を行なってみる。
「……」
「……」
「……」
「……何も起こらないね」
ピッピには魔素が視認されてないと思うけど、それでも何も感じないから結果として何も起こってないと口に出たのだろう。
「うん、これじゃダメみたいだ」
「あきらめる?」
「いいや、次はこうだ」
自分の魔力を少しだけ出して維持する。徐々に細く伸ばして周囲の魔素と繋げるように操作してみた。
自らの魔力は一メートルほどしか出してないけど、その先の魔素を使って魔力操作をする感じで操ってみた。
「お……?」
「んん?」
「あ…これ……行けるかも」
自ら出した魔力と周囲の魔素とが混ざり合って行き、一メートルあった自らの魔力が周囲の魔素の溶け込んで行く。
先の方から溶けるように消えて行き、最終的に自ら出した魔力は全部消えて、周囲の魔素を操れるようになった。
まずは魔素で流れを作ってみる。
風が吹くように右から左へ流したり、下から上へ流したりして操れる魔素の量を確認する。
これって……魔力操作の応用なんだけど、操れる量の限界って無いんじゃない?
次に、魔素で色んな形を作ってみる。
兎の形や猫の形を作ってみる。
影絵みたいでちょっと楽しい。
ひとりでニヤニヤしていると、魔素の見えないピッピが「何かやってるみたいだけど、何やってるか分かんないからつまんない!」って機嫌が悪くなり出したので、当初の目的を試してみる。
捜査できる範囲を徐々に伸ばして行き、操作できる範囲内に動くものがあればそこに集中してみる。
わかるよ! どこにどんな魔物がいるか凄くよく分かる! シルエットが分かるから魔物の種類まで分かる。
あっ! 強さまで分かる!? ちょっと違うか。魔力の強さが分かるんだ。
大半は魔力の強さイコール魔物の強さだけど、例外がいないわけではない。保持する魔力量が少なくても強い魔物はいる。
人間でもそうだ。例えば統括のアルガンさんなんか魔力は乏しいけど気力が多いから強い。そういう魔物もいるからね。
だけど、今まで殺気しか分からなかったのに、周辺探知ができるようになっただけ進歩したよ! うん、満足!
「あー! キズナ様! 探知できるようになった!?」
僕の違和感に気付いたのか、それとも探知しているところに何か違和感があったのか、ピッピが正解を言って来た。
「うん、できたよ。でも、これって『クロスオーバー』の世界でも出来るのかな? この世界限定な気がする」
「それでも凄いよ、キズナ様! これは還ったら報告だね!」
誰に……かは分かってる。母さんだね。でも、喜んでくれるかな?
「ねね、どのぐらいまで分かったの?」
「だいたい…そうだね、ピッピが全力で一時間ぐらい飛んだぐらいかな?」
「凄っ! 私でも平地で見渡せるぐらいが精一杯なのに、その何倍もって……」
「魔素溜まりもわかったから後で実験しよう」
「いきなり超広範囲探知ができちゃったキズナ様の実験ってちょっと怖いけど、私がついてるから大丈夫よね?」
「なんでピッピがいたら大丈夫なのかは分からないけど、無茶はしないから」
「キズナ様!」
「な、なに?」
「信じてるから」
「う…うん……」
ピッピに見守られながら第二の実験を開始する。
実は、ダンジョンでメイさんと合体した時に感じたんだけど、ダンジョン脱出石って作れるんじゃないかと思ったんだ。
メイさん達ダンジョンの精霊って、ダンジョン内なら結構なんでもアリなところがある。
鑑定然り、マップ然り、宝物誘引然り、テレポート然り。
その中でもテレポートと、ダンジョン脱出石の魔法陣に共通する部分が多かったんだ。
どちらもダンジョン内限定だからかと思ったけど、マップや鑑定の時に作る魔法陣と共通する部分を除いても、前者の二つは共通点があった。
だからそれを今から実験して検証するんだ。
だって、瞬間移動だよ? いくら僕が速さ自慢でも、ここからアルガンの町までは半日は掛かる。
それを一瞬で行けるって、最高に楽じゃん!
カゲールくんの影移動でも速い事は速いけど、僕とそう大差ないからね。
「キズナ様…それって……」
「うん、周囲の魔素も利用して魔法陣を作ってみようかなって」
「そ、そんなのできるの!? もしできちゃったら、魔法が使い放題だよ!?」
「僕の魔力が多いのは分かってるんだけど(というか、少々多いぐらいだと思ってたんだけど、相当多いって最近知ったんだけど)初めての魔法だからどのぐらい魔力がいるか分からないし、保険的な感じ?」
「そ、そんなサラっと言われてもー。そんなのマリア様でも出来ないんじゃない?」
母さんでもか……たぶん、する必要が無いぐらい沢山の魔力を持ってるだけだと思うけど。
「こんな感じかな?」
魔法陣学は習ったし、魔力操作は得意な方だ。
目の前の何も無い宙に、イメージした通りに魔法陣を描いていく。
まずはメインとなる魔法陣を地面に描く。余裕をもって直径三メートルにした。
そのメインとなる魔法陣を取り囲むように直径一メートル程の五つの魔法陣が立つように並ぶ。
五つの魔法陣から魔力が伸びてきて、メインとなってる魔法陣の上で五芒星を作る。
そのタイミングで固定させ、足元にあった石を投げ込んだ。
シュン! シュン!
「えっ!?」
「な、なになに!?」
目の前には大きな魔石が佇んでいた。
拳より小さめの石を放り投げると、一瞬にして大きな魔石に変わってしまったのだ。
大きさは五〇センチぐらいある。今まで見た魔石の中で一番大きかった。
ヒュドラでも二〇センチ程度。RANK20の魔石と判定された。
色も黒に近い濃紺。上から二番目に質の良い魔石だった。最低でもRANK50と査定されるのは間違いないだろう。
「なになになになにー!? 手品!? キズナ様、手品覚えたのー!?」
「ちが、ちがうから! 手品なんてしてないから! 何も仕込んでないから!」
「種も仕掛けもありませーん! って、手品の定型文でしょ!」
「そうだけど、これは違うから! 瞬間移動を試そうと思ったら、なんでか知らないけどこうなったんだよ!」
「瞬間移動!? キズナ様! なにやろうとしてるのよ! そんなの上位精霊でも出来る人ってほとんどいないのよ!」
ほとんどいないのか。でも、できる人はいるんだね。
慌てるピッピのセリフを冷静に解析してると、なんだか落ち着いて来た。
誰もやった事が無い事なら慌てるのも分かるけど、出来る人がいるんならそんなに慌てなくてもいいと思う。
そう思うと、落ち着きを取り戻せた。
「何が原因なんだろ。まさか石を魔石に変える魔法なわけないし……あっ!」
「なになになにー! 今度はなにー!」
「これって……」
「だからなにー!? なんなのキズナ様ー!」
原因と思しき場所へ急いで向かう。
その間もピッピが「だからなんなの!」って何度も尋ねてくる。が、はっきりと特定できないので、まずは原因と思える場所へと急いだ。
果たしてその場所には……魔法陣を作った場所から百メートルほど移動した場所に、予想したもの、とは言い難いが、凡そ予想の範疇のものがいた。というか、あった。




