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第83話 旅立ちの前に

いつも誤字報告ありがとうございます


 翌朝、ラピリカさんと共に王都を出てランガンの町へと向かった。

 ブラッキーさんとホワイティさんは王都に残ると言うし、バンさんは宿に帰って来なかった。

 バンさんの事だから心配しなくてもいいと思うんだけど、バンさんもランガンの町で活動するって言ってたから一緒に帰ろうと思ってたんだけどな。


 僕の場合は活動拠点はどこでもいい。経験値が多く稼げるところが理想の活動拠点だ。

 経験値を稼いで、たくさん友達をスキル【クロスオーバー】で喚んで、母さんが持たせてくれた短剣を長剣にするまで成長させて『クロスオーバー』の世界に帰るのが僕の目標だ。

 だから経験値を多く稼げるところが理想なんだけど、ランガンの町って森に深く入ると結構いるんだよね。

 森の奥まで一日で往復できるところにいるんなら、ランガンの町を拠点にしてもいいかとも思ってる。

 森の最前線と呼ばれてるフロントラインの町でもいいんだけど、なんとなく僕と合わないとも感じてるんだ。

 何がって言われると困るんだけど、本当になんとなくなんだ。

 もう少しランガンの町で活動して、物足りないようなら何処かに移ればいいかと考えている。

 だって、時間はまだまだあるのに、短剣はもう半分以上成長してるんだから、焦る事は無いんだよ。まだこの世界に来てから半年も経ってないんだから。

 短剣を渡された時に、何十年何百年掛かるか分からないって言われた時には『この世界で永住するのかな』って思えたぐらいだ。

 少しぐらい時間が掛かったからって、それから思えばどうって事無い。のんびりやって行っても十年も掛からないんじゃない? と、最近ではちょっと楽観視してる。

 だって、もう半分以上伸びてるんだから。と言っても、シャードルさんクラスはもう喚びたいと思わないんだけど。

 だって、またレベル一桁とかってイヤだもん。


 そんな事を考えたり、ラピリカさんと今後の活動なんかを話してたら、いつの間にかランガンの町に到着していた。

 こうやって人と話してると時間の経つのって早いよね。

 ダンジョン内では、ブラッキーさん達とあまり話してなかったけど、魔石やアイテム回収で時間の経つのは早かったけど。


「さて、キズナ様。馬車で話してた通り、まずは薬草採取をお願いします。最近では薬草の質も上がり、買い取り価格が上がって来ましたので薬草採取を行なう冒険者が増えて来たとは言え、まだ最上級のハーフムーン草を採って来れる冒険者はいません。ハーゲィ様でも未だにハーフムーン草の納品はされていないのです」


 ハーフムーン草は最上級じゃないんだけど。僕の中では下から二番目の薬草なんだけどな。


「なのにメメジー様の工房からは矢のような催促をされて困っているのです。キズナ様、どうかよろしくお願いします」

「はい、任せてください。籠一杯でいいんですよね?」

「はい、それで当面の分は確保できます。工房もハーフムーン草から作るポーションは時間が掛かるようなので」


 確かに僕の作ったあの魔道具じゃ時間が掛かるね。

 誰かが作れるようになれば早いんだけどな。

 じゃあ、今日の内にさっさと終わらせて、明日は森の奥に行こうかな。


 ラピリカさんと冒険者ギルドで別れ、そのまま初心者の森へ。

 そこから少し奥に入ってみんなを喚び出した。


【クロスオーバー】ピッピ、キラリ、カゲール、ウーリン、ノムヤン、テン、ポット、パン、ついでにダン。


「「「キズナ様~!!」」」


 先日までダンジョンに籠ってたお蔭で、妖精軍団ぐらいは余裕で喚び出せるぐらいの余裕はある…はず。

 ダンジョンでは全然戦わなかったけど、経験値がパーティ共有で入って来たお蔭で結構レベルが上がってる。

 鑑定したわけじゃないけど、レベル一〇〇を超えた感覚ぐらいは分かるようになった。


 そりゃあね、何度も一〇〇を超えたからね。なんとなくだけど分かるようになったよ。

 レベル一桁だったらもっと分かるけどね。


「これこれ~」

「マリア様からの手紙とお土産~」


 なんだろ。手紙は分かるけど、お土産って……カバン?


「これは?」

「マリア様からだよー」

「今回は特別だってー」

「特別?」

「ジェミー様が言ってたー」

「ジェミーさんが? いつも母さんを止める役なのに、そのジェミーさんからって……」


 いったい何があったの? 修行中の僕には不干渉じゃなかったの?

 いつもならブレーキ役なのに自分から口添えするなんて、何があったんだろう。


「中身は?」

「今までキズナ様が『クロスオーバー』に送ってたものだよ。保管場所はそのままにしておきますからってジェミー様が言ってたよ」


 あー、それでか。ジェミーさんからの伝言はその部分だね。

 ダンジョンでメイさんに持って来れないか頼んだやつだよ。特別に収納バッグを持ってくるのもジェミーさんが許してくれたんだろうな。

 だって、もう僕が収納袋を持ってるって知ってるから止めても無駄だって母さんあたりが言ったんだろう。


「あとねー」

「ん? まだなんかあるの?」

「スラスマッシュ見せてねってー」

「ぐはっ!」

「それメイ様も言ってた。ダンジョンでずっと一緒にいたのに見せてもらってないって」

「ぐぼぉぉぉ!」


 なんで? なんで知ってんの!? 何処まで広まってんの!?

 今、この瞬間に、帰る作業はゆっくり時間を掛けてやる事に決定した。このままのペースで急いで帰るとダメージが大き過ぎる。

 スラスマッシュの流行ってる『クロスオーバー』の世界に帰りたくなかったのだ。

 ようは、レベル上げは何処までもやるけど、高位の人達は召喚しないって話だ。

 レベルを上げるのはいい事だからね。


「あ、まだ伝言があるの」

「そうだった! まだあった!」

「なるべくバルバライド王国から離れなさいって言ってた」

「バルバライド王国から離れろって? まぁ、砦町の件があるから、あまり近付かない方がいいとは思ってたけど、なんで母さんがそんな事言うんだろ」

「知らなーい」

「……そうだろうね。じゃあ、今日は薬草集めをするよ。ハーフムーン草を中心に集めてくれる?」

「「「はーい!」」」


 妖精達には理由までは教えないだろうね。

 でも、面倒事には進んで首を突っ込みなさいって言ってたのに、なんでだろうね。

 ま、他にも行くとこは沢山あるし、今は候補から外してもいいかな。

 だったら、選択肢は三つ…いや、四つかな。

 北から北西に掛けてがバルバライド王国だから、このままランガンの町にしばらく留まるか、北東にある吸血鬼達の縄張りの更に森の奥に行くか、王都を超えて西に行くか、あとは南に行くかだね。


 北西の森の奥と南に興味があるなぁ。

 レベルを上げるなら魔物の多いところがいいもんね。目の赤くなってない魔物だっているかもしれない。

 そしたらこの世界でも友達ができるかもしれないしね。

 南は海があるはず。海産物ってこの世界に来てから食べてないし、久し振りに食べたいよね。

 王都の向こうの西側は山脈があるけど、その先に行くには時間が掛かりそうだし、行くとしたら北西か南かな。

 後は、残るか行くか、だね。

 解放した獣人達も気になるし、吸血鬼の縄張り経由で北西を目指すか。

 一週間も薬草集めすれば十分だろうしね。


 そんな事を考えてる内に、山のように薬草が集まった。

 皆まだまだ集めそうだし、ポットちゃんとパンくんには薬草集めから抜けてもらって、食事の用意を頼んだ。

 僕は、香辛料を作るための木の実や葉を集めて回った。

 途中、ビッグボアやホーンタイガーなどもいたので狩っておいたが、もう解体済みの龍やオークを大量に返してもらったので当分は食料素材に困らないんだけど、まだ森のそんなに深くない場所なので念のために狩っておいた。


 DやEランクの冒険者にはちょっと荷が重い魔物だったからね。

 折角、薬草採取要員が増えて来てるみたいだから、被害が出ないようにしたいもんな。


 その日の収穫は相当なもので、一週間掛かると予定していたものが一日で集まってしまった。

 皆、張り切って頑張ってくれたので、大量にハーフムーン草が集まったのだ。

 前までならどうやって持って帰ろうかと思うところも、今は収納袋があるし、大量にあっても困らない。


 お礼に皆には香辛料探しで見つけたこの世界特有の植物で、茎糖と糖葉から砂糖を抽出してお菓子を作ってあげた。

 小麦粉は買ってたし卵は森に生息するウッドバードの卵を獲って来た。

 窯はすぐにできるし、火は自前の火魔法と薪で十分だ。


 ポットちゃんとパンくんが手伝うって言ってくれたけど、二人も振舞われる立場だから断った。

 二人が作った方が美味しいんだけど、それは気持ちの問題だ。


「みんな、今日はありがとう。もしかしたら、明日から移動になるかもしれないから、一気には喚べなくなるかも」

「「「え――――!」」」

「じゃあ、私が一番ね!」

「違うよ! 僕だよ!」

「いいえ! 私よ!」

「私だってー!」

「僕だよー!」


 皆が口々に言い争うものだから、「喧嘩するならスラピー達にしようかな」って言ったらすぐに争いは終わった。

 その代わり、誰かを連続で喚ぶのは無しという約束をさせられた。

 その方が公平だし、今のレベルなら助けてもらわなくても大丈夫なんだけど、僕も一人は寂しいからね。


 皆にお別れを言って待ちに戻ると冒険者ギルドに直行した。


「ラピリカさん、約束のものを持って来ました」

「約束のものって、もしかして薬草?」

「はい」

「もう!? ですか?」

「え、まぁ、そうですね」

「……キズナ様ですからね」

「なんですか、それ」

「Sランク冒険者様ですねって事です」

「はぁ、なんか釈然としませんが、まぁいいです。何処に出しましょう」

「……ここじゃ、無理なんですね。倉庫へお願いします」

「わかりました」


 こめかみを押さえて溜息交じりで指示をされたので、あまり刺激しても良くないだろうと思い、すぐに倉庫に向かった。

 今までだと籠で納品してたけど、今日は籠は無い。

 指示された場所に置くと非常に残念そうな顔をされた。

 理由を聞いてみると、僕の作った籠の評判が高く、売らずにこの倉庫で使われてるのだそうで、今日も期待してたらしい。


 そんな事言われても、今日は、というか収納袋があるので今後は作らないと思う。

 でも、期待されて悪い気はしないので、時間のある時にでも作って持って来てあげようかな。


 受付に戻り、今後の予定をラピリカさんに報告した。


「ラピリカさん、明日か明後日ぐらいにこの町を立とうと思います」

「えっ!? どちらに行かれるのですか?」

「少し別の国や町も見て回ろうかと」

「そう…ですか……でもキズナ様。キズナ様はこの町のSランク冒険者として登録をしましたので、一年以上町に戻らないと資格が失効してしますのでご注意ください」

「そういう規則がありましたね。大丈夫です、この町は好きですし一年以内には戻れると思います」

「それなら結構です。残念ですけどキズナ様も冒険者ですから、あまりこの町だけに縛るのも私の立場上よくありませんから」


 Sランク冒険者は冒険者ギルドの財産だったか。講習の時に言われたね。

Sランクがいない町の方が多いから、色んな町に寄って手助けをするようにと。

 だったら南か西に行った方がいいのかな。


「あの、ラピリカさん。まずは森の奥に行けるだけ行ってみようかと思ってるんです。そうなると町ってありませんよね?」

「森の奥!? あー、でも、森の奥でしたら一週間ぐらいで帰って来ますね。いいでしょう」


 一週間? なんで一週間で帰って来るって思ってるんだろ。

 まぁ、いいって言うんだからいいんだよね?

 報告も終えたし、買出しは特にないし忘れてるものがあったとしても明朝で十分だからそのまま宿へと帰った。


「ラピリカ! キズナはもう帰って来たか!」

「はい、約束より多くの納品も済ませて宿へ戻られました。アルガンさん、キズナ様に何かご用でしたか?」

「ちっ、もう帰っちまったか。久し振りに手合わせしてやろうかと思ってたんだがな」

「またそんな事を……」

「明日でもいいか。明日、キズナが戻って来たら引き止めとけよ」

「キズナ様は明日から遠出をするとおっしゃってましたよ」

「なにっ! 何処へ行きやがるんだ!」

「キズナ様はSランクになったのですから、色んな町に回って頂かないといけないのです。アルガンさんもご存知でしょ?」

「そうだったな。で? キズナは何処に向かうって?」

「まずは森の奥に向かうそうです」

「そうか。なら、三日で戻って来るな。戻って来たら引き止めとけよ」

「キズナ様でしたら三日以上は森に居そうですけど。一応、戻って来たらお伝えしますが、立ち合いをするかはキズナ様次第ですよ」

「三日以上も居れるもんかい! 俺だって最高は三日だ。森の奥の魔物のレベルは相当高いからな。キズナだって三日とせずに帰って来るさ」

「そうでしょうか」

「あん? じゃあ、俺は三日に夕食を賭けるぜ」

「乗りました! 私は四日以上でお願いします」

「おっ、今日はノリがいいじゃないか。おしっ! 成立だな」

「タイラント・ボアの……いえ、ドラゴンステーキですね、ごちそう様です」

「なっ! ちょっちょい待て! そんな金無ぇぞ! タイラント・ボアでギリだ!」

「いいえ、待ちません。賭けは成立しました」

「お、おい! ラピリカ!」

「自信がおありなんでしょ?」

「そ、そりゃあるが……わかった! キズナが俺より長くいれるわけがねぇ! 三日で構わねぇ!」

「ごちそう様です」

「いいや! 俺の頂きだ!」


 結果、ラピリカの勝ちで決まるのだが、果たしてキズナは何日で戻って来るのだろうか。


連休って、何故か用が重なる。

家に籠りたいのに……

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