第82話 会合
いつも誤字報告ありがとうございます
「さぁ、行きますよ!」
昨日、【三叉槍の魔法使い】の解散会を行なって、ブラッキーさんは王城へ、ホワイティさんは神殿へと帰って行った。
僕はバンさんと同じ宿を取り、朝から王都の冒険者ギルドへ来ていた。
冒険者ギルドに到着すると、待ってましたとばかりにラピリカさんに出迎えられて、今に至る。
今日の日没頃に会合があるらしい。
前もって予定は聞いてなかった。というか、決まってなかったそうだ。
Sランク冒険者は長期依頼や緊急依頼を受ける場合がある。Sランクが受けるんだから、重要度も非常に高い依頼だ。
そういうのがあるから、ある程度の日程を決めておいて、日程を調整するそうだ。
今回の場合は、どうやら僕待ちだったみたいで、今日の夕方までに冒険者ギルド本部で顔見世をして認定を受けた後、Sランクの会合に出てお披露目をするそうだ。
「これにて登録を完了し、バルバライド王国冒険者ギルド本部がキズナをSランクとして認定しました」
ここは冒険者ギルド本部。僕達がよく行く冒険者ギルドではなくて、冒険者はほとんど見かけない。
事務方の人ばかりで、皆が山積みの書類と格闘していた。
四階建ての建物で、一階がそんな感じ、二階は登録をしてもらった階で、幾つかの会議室のようなものがあった。三階以上はお偉いさんの部屋らしい。
「冒険者カードは先に渡していますので既にSランクではありましたが、これでキズナ様も晴れて国家認定のSランク冒険者になりました。後は、他のSランク冒険者との会合です。交流会みたいなものですので、気楽に参加してください」
Aランクまでは冒険者ギルドの裁量でランク付けを出来るのだが、Sランクともなると対国家間の戦力としても捨て置けないため、本来国とは一線を置いている冒険者ギルドもSランク冒険者については報告と認定の義務が生じる。
対魔物のスタンピードは冒険者の召集は義務ではあるし、Sランク冒険者も例外ではない。
だが、他国と戦争になった場合、国から召集はされるが冒険者の場合は義務ではない。
義務ではないが、高戦力のSランクが勝手気ままに戦場に参入するのは危険なのである。
戦場では戦略や戦術を使う。
その際に、勝手気ままに暴れられると戦術の破綻となり、自軍の危機を誘発する恐れもある。
だから、前もってSランク以上の冒険者については国の認定も必要となるわけだ。
そういった内容も含めた講習が終わる頃には、結構いい時間になったので、このまま向かう事になった。
朝からなのに夕方まで掛かるって、どんだけって思うだろうけど、午前中は服屋に連れて行かれ、あーでもないこーでもないをされ、昼食後に講習も受けたので登録を終わったのは夕方になってしまった。
ラピリカさんに連れられ入った建物では、既に多くの人が待っていた。
教室ぐらいの部屋には正面を除いた三辺の壁に沿うように長テーブルが並べられていた。
そのため中央には大きな空間がある。
正面となる位置には教壇のように立つとちょうどいい高さの机があり、部屋に入ると真っ直ぐにラピリカさんが立ち台に立った。
それを合図にざわついていた部屋の中が静かになる。
僕はラピリカさんに手を引かれてたので、ラピリカさんの横に立つ事になってしまった。
全員から無言の注目を集めるので非常に居心地が悪い。
中には殺気を飛ばして来る人もいたが、さすがにここで行動を起こす人もいないだろうとスルーした。
「では、Sランク以上の冒険者定例会を始めます。本日の進行は、ランガン支部の私、ラピリカが務めます」
周囲を見渡し、空席が無い事を確認して自己紹介を始めるラピリカさん
続いて僕の紹介に入った。
「こちらにいるのが、今期新たにSランクの仲間入りを果たしたキズナ様です。今後、バルバライド王国を担えるランガン支部のホープですので、皆様どうぞよろしくお願いします」
ラピリカさんの紹介に大袈裟だと思いつつも、この場では何も言わない方が得策だと重い、丁寧に頭を下げた。
だって、格好は装備なんてしてなくて服を着てるけど、基本強面のおっさんが多いけど、エロそうな熟女とか、キラキラ装飾のおばさんとか、お年寄りも何人かいて、同年代なんていないんだから。
「ではキズナ様、今から料理が運び込まれてきますので、給仕のお手伝いをお願いします」
「?」
言葉の意味は分かるけど、なんで? や、なにが? って意味の“?”だ。
ラピリカさんの合図で大勢の給仕係が入ってきて、中央のスペースに机が運び込まれ、そこにどんどんと料理や飲み物も運び込まれる。
給仕係もいて、料理を取り分けて配られて行くのだが、飲み物に関してはグラスしか配膳されていない。
飲み物は僕に注いで回れという事らしい。
ワイン樽と果実汁樽とエール樽が机の上に置かれ、樽の下に付けられた栓を抜いてピッチャーに注がれた。
そのピッチャーを持って注いで回れという意味らしい。
片手にワインの入ったピッチャーを持つと、果実汁のピッチャーを持った給仕とエールのピッチャーを持った給仕が後ろに付いてくれた。
端からという事らしいので、一番端にいたモヒカンの大男に注文を聞いた。
「ワインでいいですか?」
「いや、俺は一杯目はエールって決めてんだ。エールを頼むぜ」
新人の役割なんだろうと割り切って、ラピリカさんから言われるまま従って全員に飲み物を注いで回った。
その際に、色々と言われたが、一番多かったのは「若いな」「若いわねぇ~」という感想だった。
誰もバカにしたり喧嘩を売ってきたりしない。
入って来た時に殺気を放った人も、「俺の殺気に反応しねぇとは、ここにいる価値ありだな」とか言ってニヤリと笑っていた。
要は試しただけだから、敵対はしないぜって言いたいらしい。
周りの人達も反応しなかったところを見ると、通過儀礼のようなものだと思う。
飲み物が全員に行き渡ると、年配の男性が正面の立ち台に立って乾杯の音頭を取った。
何でも、王都のギルドマスターらしい。
冒険者ギルド本部からも何人か来ているのは飲み物の給仕をしている時に挨拶も兼ねていたので、その時の自己紹介で教えてもらったので分かっている。
そういう人達を差し置いて、王都のギルドマスターが乾杯役をするのだから、それなりに偉い人なんだろう。
乾杯が終わると再びラピリカさんが立ち台に立ち、各支部の近況や、現在進行中や完了した依頼なんかの情報交換会が行なわれた。
皆、座って飲んだり食ったりしながらなので、和やかな雰囲気で進行されていた。
やはり上位魔物の討伐情報が多く、龍の情報には食事の手が止まるほど、皆の注目を集めていた。
ダンジョンの情報も多かった。
ダンジョンでは多く稼げるので、ダンジョン中心に活動している冒険者も多く、この場では最新のダンジョンの情報を聞く事ができるのだ。
聞いた情報を書き留める冒険者も多かったが、それ以上に本部職員やギルド職員は全員が大急ぎでペンを走らせている。
その間も、あちこちから「おかわり!」の声で飲み物を注いで回った。
一応、最初に注いだ飲み物は覚えてるけど、二杯目からは別の飲み物だったり、ある程度飲んでから別の飲み物に変わったりと、色々と我が侭を言って来る。
それでも、その都度対応していると、注文する側も笑顔で声を掛けてくるようになってきた。アルコールが入って来ている事もあり、少し世間話も入って来る。
どうやら、親睦の意味もあって、新加入の者にはこういった役割をさせてるのかもしれない。
「坊主、若いのにSランクたぁ、どんな依頼で推薦されたんだ?」
初めに聞かれたのは一番端のモヒカンの大男。顔は怖いが、話し方で気さくな印象を受ける。
「依頼に入ってないものが多かったのですが、決め手になったのは護衛依頼ですかね?」
「はぁ~? なんで俺に聞くんだ? 坊主には覚えが無いのか?」
「いやぁ~、思い当たる事は色々あるんですけど、決め手になったのは冒険者カードの履歴を見られたからだと思います。でも、依頼って言われると護衛依頼かな、と」
スタンピードの時に倒した魔物は全部履歴に書かれてたし、ダンジョン踏破階層も書かれてた。
あの時は収納袋を持ってなかったから討伐部位なんて納めてないし、どっちかっていうと無かった事にしたいぐらいだった。
どうやって倒したのかとか聞かれたくなかったからね。
「ほぉ、依頼以外って事ぁ、大物でも倒したか。ん? 何を倒したんだ?」
「何をって、色々倒しましたけど、単独でのダンジョンの階層更新かな? いや、大量魔物討伐? 盗賊退治や地龍討伐は護衛依頼中だったし、ポーション作成機は冒険者ギルドに関係なかったか。上級薬草の採取なんかは貢献度が高かったと思うけどS級推薦ほどでは無いだろうし、パーティでのダンジョン制覇はS級になってからだし、魔道具作成機はもっと最近だし、何が原因だったんでしょうね」
「「「十分だわっ!」」」
周りで聞いてた人達からもツッコまれた。
なんで?
「名前は?」
「えっ、はい、キズナです」
「キズナか。俺はダイモンだ。で? キズナはいくつだ」
「十五歳です」
「ってーこたぁ、まだ一年経ってねーのか」
「登録してからですね? はい、十五歳の誕生日に登録をしたので、まだ半年も経ってませんね」
「その歳で、そんだけの事をしたのか……確かにS級だな」
「はい! うちのホープですから!」
どっから出てきたラピリカさん! あんた、さっきまで対面の職員達と話してなかった?
ある程度司会進行も終わって、職員に混じって飲み食いしながら話してたと思ってたのに、いつのまに……
「はいキズナ様、ひとつ思い出しましたのでこっちに来てました」
「何を思い出したんでしょうか。あまりいい予感がしませんが」
「はい、ダンジョン制覇してからキズナ様だけ冒険者カードを見せて頂いてませんので、忘れない内に確認させて頂こうかと。他の三名の方は確認したのですが、ひとつだけ疑問に思ってる事がありまして」
「ここでですか!? いや、ここには他の人達もいますから」
「大丈夫です。ここのいらっしゃる方々はSランク以上の方と職員のみです。あえて見ないとは思いますが、見たとしても吹聴して回る方はいません」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
断ってるんだけど、「はい」と言って手を出すラピリカさんには逆らえなかった。
仕方なく冒険者カードを渡すと、ラピリカさんが確認していく。
皆、興味津々といった感じでラピリカさんに注目している。
ただ、目の前のモヒカン大男さんだけはあまり興味が無いのか、僕に別の質問を投げかけてきた。
「おい坊主。そういやお前ぇ、腕輪をしてねーな。冒険者だったらどんな時でもしてろって言われてねーのか?」
そう言って、僕とラピリカさんを睨む。
そう言えば忘れてたけど、皆は装備の上から態と見えるように腕に装着してるんだけど、僕の場合は色が色だけにジャケットの中に装着している。
それを装着してないと思われたらしく、モヒカン大男さんに指摘されてしまった。
してるんですけどね。と言って、少しだけ脱いでチラッと見せた。
だけど、それだけで「なんだその色は!」と言われてしまった。
確かに分かるよね。中央は内なる気に関する色だけど、外縁は魔力に関する色だもんね。
チラッと見えただけでも黒光りして光ってたよ。
中央部分は黄色が濃いほど気力が高いんだけど、僕の場合は黄色を通り越えて真っ赤になってるからね。
ここにいる人の中にもそんな人はいない。
いるのはどちらか一方で、黒に近いグレーと薄黄色までだ。これならノスフェラトゥさん、バンさん、キュラ君の方が色は濃い。
あの人達は魔物だからってのもあるかもだけど、潜在能力を示してるんなら、やっぱりここにいる人達は少し低い。
熟練度や経験則なんかもあるので一概には言えないけど、ソロでは難しいかもしれない。
実際、ここにいる人達はパーティリーダーだけで、四~六人でパーティを組んでると後から知った。
あまり他人を詮索するものではない、というのが冒険者のルールらしいので、聞きたそうにはしていたが、意外と誰も聞いて来なかった。
結構な情報を話した後にそう言われても釈然としないんだけどね。
ある程度時間が経つと締めの挨拶などはなく、順次解散して行き、僕もラピリカさんと一緒にお暇させてもらった。
最終的には全員の名前もパーティ名も聞かせてもらったが、ほとんど覚えてない。
モヒカン大男さんだけはそのまま名前もモヒカンだったので鮮烈すぎて忘れる事は無いと思う。
これで、今抱えている僕の用は終わりかな。
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時間は少し戻って、パーティ解散直後の事、キズナとバンと別れたブラッキーとホワイティは王城に向かっていた。
ホワイティの行き先は教会なのだが、教会は王城の近くなので向かう道中は同じなのだ。
「ホワイティ、私はやるわよ」
「私も負けませんよ」
馬車は用意せず、二人で徒歩での移動だった。
「もうお金はこれ以上渡しても有り難味が無いだろうし、私は私のできる恩返しをするわ」
「はい、キズナはポーションだけでも相当のお金を現在進行形で稼いでいますからね。私も私にできる事でキズナをサポートします」
「何がいいかよね。爵位なんかあってもキズナには足枷になるだけでしょ?」
「はい、私もそう思います。教会からの使徒というのも同じでしょうね」
「領地はどうかな?」
「薬草畑とか作りそうですけど、いらないでしょうね」
「だったら、王家の力を使ってどこの町でも無許可で入れる通行証なんかどうかな」
「いいですね、でしたら私は他国の教会の力も使って、どの国にも行ける無許可で通れる国境通行証にしましょうか」
「それいいわね! でもそんなので私達が受けた恩を返せると思う?」
「思いません……」
「そうよね、私達の魔法がここまで上達したのは間違いなくキズナのお蔭。ダンジョン制覇なんて副次効果みたいなもんよね」
「はい、今の私なら司教様どころか教皇様よりも凄い回復魔法の使い手だと思えます」
「私も自画自賛になっちゃうけど、筆頭宮廷魔道士より上だと思う。しかも、キズナって教え方も上手いでしょ?」
「そうなんです。今私達が使える魔法は他人にも教えられますよね」
「そうなのよ。今なら無敵魔道士軍団を作れるって思えるの」
「私も回復師を量産して王都から、いえこの国から病人や怪我人を一掃できそうな気がします」
「それをねぇ……」
「はい、その程度で恩返しとはとても言えません」
「でもねぇ……」
「本当にキズナには何をあげれば喜んでもらえるのでしょう」
「「はぁ~……」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃ランガンの町では。
「テルーエさん、いい物を見つけました! これはダメージ軽減するアクセサリで、毒などの状態異常にも少し効果があるみたいです!」
「なにっ!? でかしたラッチ! 大量に購入するぞ!」
「前回の利益から既に購入しました! あと、状態異常回復ポーションも買えるだけ買って来ました!」
「ホントかっ! よし! これで六一階層からの先が見えた!」
「ところで、ウータエさんとハナノエさんは何処に行かれたのですか?」
「ふむ、二人は食料探しだ」
「食料? 食材ではなく食料ですか?」
「そうだ。我々の中で誰が料理を作ると言うのだ。食料で間違っておらん」
「そ、そうでしたね」
女性が四人もいるのに料理が出来る者がいない。
元々ラッチ・テイカウトはローデンハルツの軍人で冒険者ではない。
流石に軍服は目立ちすぎるので冒険者風の服や装備を購入したが、軍属でも事務方だったのでハッキリ言って弱い。
軍では食事も配給されるので料理を作った事も無い。どれだけ贔屓目に見てもダンジョンでは役立たずであった。
なのに何故いるか。それはハナノエに拉致されているからだ。
それなのに何故ラッチは逃げ出さないのか。
それは、逃げるのも怖いが、砦町に戻ってもする事が無いからだ。
力仕事が苦手なラッチは待ちの復興作業から逃げて詰所に籠って、事務作業をしてただけなのだ。戻るのは、ある程度復興が終わり、復興費用などの事務方の仕事が出来てからでいいと思っていたのだ。
「ただいま~」
「あ、おかえりなさい、ウータエさん、ハナノエさん」
「……ただいま」
「こっちはハナノエの収納魔法にバッチリ用意できたよ。そっちは?」
「ふむ、ラッチがいい物を見つけてくれた。これだ」
それは指輪であったりネックレスであったりしたが、魔力膜(薄)の付与が施されたアクセサリーだった。
「これは?」
「……魔力がある」
「そうなのだ。どうやらこのアクセサリーは身体を覆う膜を作ってくれるらしい。これを多く身に付ければ状態異常など無いも同然だ!」
「「「おおー!」」」
何故かラッチも一緒に感動している。
「あと、これもラッチが見つけたのだが、状態異常回復ポーションも多めに確保できている」
「「「おおー!!」」」
「これで六一階層も万全ってわけね!」
「じゃあ、準備もできた事だし行きましょう!」
「「「おおっ!!」」」「あれ?」
ラッチもノリで返事はしたが、何かおかしい事にようやく気付いた。
「あの、私って一緒にダンジョンに行く必要がありますか?」
「何を言っている、あるだろ」
「え?」
「……そう、ある」
「もうメンバーだもんね」
「え?」
「このアクセサリーやポーションを集めたのはお前だろ。そんな功労者であるラッチが行かずにどうする」
「い、いや、どうもしませんけど……っていうか、足手まといなだけなんですけど」
「六〇階層までも足手まといだったか?」
「えと……はい」
「それでパーティが危機に陥ったのか?」
「い、いいえ」
「なら、よいではないか」
「え……いいのですか?」
「良い!」
「うん、問題なし!」
「……いい」
あれ~? なんか変だな~? なんか言いくるめられた? いえいえ、そっちではなくて、いえそっちもそうだけど、何か忘れてる気がするような……? とも思いながら、三人の後ろに付いてダンジョンに入って行くラッチであった。




