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スペースかぐや編4

 何はともあれ、八岐大蛇はいなくなった。

 その後に残ったのは半壊した京の都。華々しい姿とはかけ離れた瓦礫の山だった。

 鈴鹿や陰陽師たちの喚んだ雨雲によってもたらされた雨で、都が炎の海に沈むことは免れたが、やっぱりそれでもヒドイ有様だ。

 八岐大蛇の燃えかすの中から烏帽子がぴょんと出て、晴明が飛び出した。

「ぶはーっ! 死ぬかと思った」

 うわっ、すっげー役立たず。

「ママからもらった〈火鼠の皮衣〉を下に着てなかったら燃え死んでた」

 ぶっちゃけ役に立ってないんだから死んでも……。

 雉丸は震えるポチを抱きかかえて歩いていた。

「大丈夫だったかいポチ?」

「怖かったよぉ」

「もう心配しらないよ、俺がそばにいるから」

 猿助は瓦礫の下敷きになった桃を探していた。

「姉貴どこだよ返事してくれよ!」

 瓦礫の山を掘り進み、そこから出ていた手を引っ張って、桃の体を釣り上げた。

 反動で猿助は桃の下敷きになって、爆乳に顔を埋めた。

 いつもだったらここで怒りの鉄拳とかが飛んできそうなのだが……。

 桃は酷く落ち込んでいた。

「アタイの物干し竿が……物干し竿が……これからどうやって洗濯物を干したらいんだい!」

 そこかっ!

 桃は決意を固めたようにビシッと立ち上がった。

「こうなったら!」

 こうなったら?

「喰ってやる!」

 なにを?

 桃は地面に落ちている八岐大蛇の尾に向かって行って、尾っぽの先にいきなりかぶりついた。生食!?

「物干し竿の敵だよ!」

 ガキッ!

 桃の歯が痺れた。何か堅いものを噛んでしまった。さすが物干し竿を折った尾。

 不思議な顔をしながら桃はその尾を調べはじめた。

 すると、なんと尾の中からズルズルと骨が出てきたではないか……って当たり前だろ!

 その骨の長さは物干し竿に匹敵するほどで、白く美しいそれはまるで鋭い剣のようであった。

 桃はその骨を持ってこう言った。

「よし決めた。今日からこれを物干し竿の代わりにするよ!」

 その桃の一連の行動を見ていた猿助は唖然とした。

「姉貴……骨を武器にするって、原始人じゃないんだからよぉ」

「アタイを原始人なんかと一緒にしないでおくれ。ようするにこれが骨じゃなくて、立派な武器として認められればいいんだろう、だったら相応しい名前をつければいい話じゃないか?」

「……そういう問題なんスか?」

「あんたのクナイを貸しな」

 わけもわからないまま猿助は桃にクナイを貸した。

 すると桃はクナイで骨に文字を刻みはじめた。

「今日は雨も降っていることだし……天叢雲剣ってのでどうだい?」

「どうって言われても……」

「剣って名前を彫ったんだから、今からこれは剣さ。カッコイイだろう?」

 桃は天叢雲剣を構えて見せた。たしかに様になっている。

 でも、そーゆー問題なのか?

 桃の新しい武器も見つかり、こちらも一段落。

 その頃、かぐやは灰の中で光輝く宝玉を掘り起こしていた。

「これは……〈竜の頸の玉〉」

 かぐやがその宝玉を手に取った瞬間、辺りは雷光が奔ったように眩い閃光に包まれた。

 誰もが何が起こったのかとかぐやのほうを見るが、光で眼が潰されて何も見ることができない。

「ふふふふっ、おーほほほほほほっ!」

 光の中から聞こえた高らかな笑い声。

 桃にも勝るとも劣らないシルエットが描き出された。

 黒く艶やかな髪は地に着くほど長く、小さな服から張り出した爆乳、明らかに丈の合っていない着物から伸びた美脚、その付け根はパンツ丸見え状態で、小さなパンツがかなり食い込んでしまっている。

 紅い瞳が世界を見据えた。

「長かった……嗚呼、長かった……ついにかぐやは記憶を取り戻したわ!」

 そこにいたのはナイスバディの美女に姿を変えたかぐやだった。服は幼女のままだから、なんだから肌の露出がスゴイことになっていた。

 かぐやは桃に視線を向けた。

「よくも今まで雑に扱ってくれたわね。積もり積もった復讐の念を……ああっ」

 いきなりかぐやが貧血でも起こしたように地面に手をついてしまった。

「はぁはぁ……ダメだ……エネルギーが足りない」

 はっきり言って何が何だかわからない。

 いきなり美女に大変身をしたかぐや。

 そして独りで勝手に弱ってるかぐや。

 何がしたいの?

 顔を上げたかぐやの視線の先に猿助が移った。

「そうだ……サルがいたわ」

 かぐやは地面を滑るように走り瞬時に猿助を拉致した。

 そして、猿助の顔を自分の胸に押しつけた!?

 燃え上がる煩悩。

「うぉぉぉぉ最高だぜ!」

 パフパフ地獄に囚われた猿助の活力がグングン急上昇した。

 妖しく笑うかぐや。

「このエネルギーすべていただくわ」

 かぐやが猿助の唇を奪った!?

 次の瞬間、猿助の体から青い炎のようなオーラが抜け出て、それがすべてかぐやへと吸収だれてしまった。

 このオーラはすべて猿助の生命の源だ。かぐやは生命体のエナジーを喰らっているのだ。

 猿助の体が指先から萎れていくのが見えた。

 しかし、ナイスバディに抱かれている猿助は新たなエネジーをどんどん生産する。枯れて咲き、枯れては咲きの繰り返し。

 かぐやのエナジーがどんどん膨れあがっていく。

 何が何だかわからないが、桃はとにかく止めなくては思い、新たな武器の試し切りを行った。

「喰らえかぐやぁッ!」

 いくつかの間接に分かれた天叢雲剣は竹のように撓った。

 突如かぐやの周りに発生したバリア。

 天叢雲剣は弾かれ、桃も大きく吹き飛ばされた。

 しかし、桃はあきらめない。

「まだまだ!」

 再び振るわれた天叢雲剣。バリアにぶつかりそこで止まった。

 震える桃の腕。力が込められているのがわかる。

「うぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!」

 バリアが硝子片のように弾け飛び、天叢雲剣がかぐやの頭上から振り下ろされる。

「くっ!」

 かぐやは片手で天叢雲剣を受けた。その手から真っ赤な血が滴り落ちた。

 だが、かぐやは月のように微笑んでいた。

 天叢雲剣を押し返すかぐや。その手に傷はもうない。抱かれた猿助の顔はゲッソリやせ細ってた。

 猿助からエネジーを吸い続けている限り、かぐやは無敵なのだ。

 だったら猿助を倒せばいいじゃん?

 迷わず桃は猿助に攻撃を仕掛けた。

 ひょとかぐやは猿助を抱きかかえながらその攻撃をかわした。

「見たサル? あなたのご主人様は、あなたの命なんてミジンコに命ほどとも思ってないのよ。あんなクソババアのところにいないでかぐやと一緒に来る?」

 爆乳に顔を埋めながら猿助はうんうんとうなずいた。

 ダメだ猿助は完全に魔性の虜になっている。

 それに激怒したのは桃だけではない。嫉妬の炎を燃やす鈴鹿もだ。

「行け小通連、大通連!」

 宙を飛ぶ妖刀がかぐやを串刺しにせんとする。

 かぐやは笑いながらそれを自ら喰らった。

 小通連がかぐやの手のひらを貫通した。だが、すぐに小通連はヌルりと血ごと抜け落ち、その傷を再生してしまった、

 さらにゲッソリする猿助。そろそろひなびた仙人の域に達しはじめた。

「ダーリン!」

 悲痛な声をあげる鈴鹿。かぐやを攻撃することは猿助に危害を及ぼすことになるのだ。ただし、猿助本人は至福の顔をしているが。

 すぐにポチを抱えた雉丸もやったきた。

「なにがあったんだ?」

「あれかぐやたんじゃないのぉ、たくさん牛乳飲んで大きくなったんだねぇ!」

 牛乳の代わりに猿助のエネジーをグビグビ飲んでます。

 かぐやは首からぶら下げていた“鍵”を天に翳した。

「早く迎えに来いやコンチキショー!」

 すると、どこからともなく未確認飛行物体が現れた。

 円盤形のその乗り物はかぐやの上空で止まると、地面に向かって光の柱を発射した。

 桃たちが唖然とする中、光の柱に吸い上げられてかぐやが天に昇っていく。

「サルはエネジーポットとしてもらっていくから!」

 UFOに乗り込もうとするかぐやを鈴鹿が大通連に乗って追った。

「ダーリンを返して!」

 だが、UFOから発射されたビームが鈴鹿に直撃した。

 小通連でかろうじて防ぐが、鈴鹿は硝煙の中から地面に向かって落ちていった。

 かぐやと猿助を乗せたUFOが飛び去る。

 ワープ航法をしながら宙に消えたミステリー。

 超常現象スペシャル、京の都に突如現れた未確認飛行物体!

 朝廷は宇宙人の関与を否定。

 さらわれた被害者は未だ消息不明。

 そんな感じで瓦版の見出しを飾るのだろう。

 でも、ふと現実に返って辺りを見回してみると……怪獣大戦争の爪痕が。

 嗚呼、瓦礫の山。

 ぶっちゃけかぐやとか猿助のことより、目先の復興が先だった。

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