スペースかぐや編5
漆黒の夜空に浮かぶ二つの月。
一つは白く淡い光で地上を照らし、もう一つは紅く妖しい光で地上を恐怖で覆う。
紅い月の名はラビットスター。宇宙海賊スペースかぐやの巨大宇宙船だ。
今宵も空から舞い降りたうさ耳美女軍団が、選りすぐりのイケメンばかりをさらって天に昇っていく。
スペースかぐやの目的は私情を挟んで桃の首を取ること。ついでにジパング全土のみならず、全世界を植民地にすること。そして、奴隷のうさ耳カチューシャ着用の義務化。
奴隷はエネルギープラントとして、かぐやたちにエネジーを供給する。スペースかぐやは生命体からエネルギーを吸って糧としているのだ。それはまさに吸血鬼のような存在。
それゆえに、宇宙海賊スペースかぐやの美女軍団は宇宙吸血姫と呼ばれているのだ。
人間狩りのために地上に降り立ったときが迎え撃つチャンス。だが、ひとたび天に昇ってしまえば手が出せない。
夜空の下、屋根の上で寝ころんでいる桃。
「あんたの妖刀であの紅い月まで行けないのかい?」
もちろん尋ねられたのは鈴鹿だ。
「できるもなら妾がとっくにやっておりますわ。嗚呼、ダーリンが心配で今宵も眠れるか……」
あれから猿助がどうなったのかわからない。もしかしたら干からびたカスが、宇宙空間に投げ捨てられているかも知れない。
超科学で攻めてくるスペースかぐやの進撃はすさまじい。ジパングが乗っ取られるのは時間の問題だろう。
でも、相手はあの星々の向こう。
雉丸に膝枕されていたポチが星空を指差した。
「あっ流れ星!」
キラキラと尾を引きながら消えた流れ星。願い事を唱える時間もなかった。
雉丸が難しい顔をして、急に瞳を見開いて口を開いた。
「そうだ、かぐやが乗って来た乗り物はどうなったんだ?」
そういえばそんなものがあったようななかったような。
あれはたしか……どうなったんだっけか?
急に鈴鹿がビクッと背筋を振るわせた。
「きゃっ!」
振り向くとそこには第三のお月様……じゃなくってハゲ頭。
「ふぉふぉふぉ、わしの出番のようじゃな」
亀仙人が鈴鹿のケツを撫で撫でしながら登場。
そして、いきなり鈴鹿にピンタされて屋根の下に転げ落ちた。
さよならエロ仙人!
いや……いつも通りしぶとく生きていた。
虫の息で屋根を這い上がってくる亀仙人。
止めを刺そうと鈴鹿は蹴り落とそうとしたが――。
「トラ柄のパンティーが見えとるぞ」
「きゃっ!」
鈴鹿は袴を押さえて後ろに下がった。桃だったら構わず蹴っていただろう。
命拾いをした亀仙人は鼻血を垂らしながら、本人はカッコよく決めたつもりで地上を指差した。
「あれを見よ!」
ここにいた全員であれを見ると、そこにはかぐやが乗ってきた竹形飛翔体があった。
あの村からわざわざここまで運んできたということは?
「わしの天才的な頭脳で修理したぞい。あの星の船に乗れば紅い月まで行くことができる……ような気がする」
自信ないんかいっ!
桃が力強く立った。
「おもしろそうじゃないか。あのお空の向こうに行けるなんて、ジパング一の絶世の美女に相応しい人類初の偉業だねぇ」
失敗したら行き先はあの世だが。
桃が行くと決めたら彼らもついて行く。
「俺は桃さんの行くところならどこまでも」
「ボクも行く行くぅ。お星様がキラキラで楽しそぉ!」
二人の他にやはり鈴鹿も決意を固めていた。
「もちろん妾も同行させていただきますわ」
あの宙へ羽ばたく仲間が揃った。
桃はひょいと軽い身のこなしで屋根から飛び降りた。
「てめぇら、アタイの足手まといになるんじゃないよ!」
こうしていつに桃はジパングを飛び出し、舞台は広大な宇宙の海へ!
が、その前に――。
「本当に動くのかいこれ!」
ギュウギュウ詰めの〈星の船〉内部。もともと一人用だったらしく、大人三人と子供一人のアトラクションではない。なかり苦しい状態だった。
外にいる亀仙人から無線機で指示が出される。
《そこの赤いボタンを押すんじゃ》
赤いボタン何かどこにあるんだ?
ギュウギュウ詰めで体を動かせる状態にない。
桃が叫ぶ。
「誰だ今アタイのケツ触ったのは!」
ノーリアクション。きっと不可抗力だが、誰も名乗り出る気配はない。出たからここで惨劇が起こる。
一番小柄なポチが体の間を縫って赤いボタンを見つけた。
「あったよ、ボクが押しちゃっていい?」
瞳をキラキラに輝かせて押す気満々。
桃がゴーを出す。
「押せ、さっさと押せーっ!」
「はぁ〜い♪」
ポチッとな。
轟々と駆動音を響かせながら〈星の船〉が揺れた。
バランスを崩した雉丸の顔面が爆乳にダイビング!
「…………」
慌てて雉丸は顔を離した反動で後頭部を壁に強打。
嗚呼、猿助がいないばかりに、いつの役回りが雉丸に……不幸だ。
「てめぇ、さっきケツ触ったのも雉丸だな!」
「ち、違います信じてください!」
暴れようとする桃だが、ギュウギュウの状態では手も足も出せなかった。
〈星の船〉がまた激しく揺れた。
スピーカーから亀仙人の声が響く。
《おお、飛んだぞ!》
ジェット噴射しながら〈星の船〉が天に昇っていく。
かろうじて桃も丸い窓から外の気色が見れた。
「都がもうあんな遠くだ」
すっかり雉丸への怒りも覚めていた。
ポチもはしゃぎながら窓の外を眺めている。
「わぁ〜い、飛んだ飛んだぁ」
「あのぉ、妾はぜんぜん見えないのですが?」
ギュウギュウ詰めなので仕方ありません!
あの夜空に浮かぶ紅い満月に〈星の船〉は還っていく。
しかし、それに乗るは桃たち一行。
果たして桃たちはスペースかぐやに打ち勝つことができるのか!
むしろ、無事に着くことができるのかっ!?




