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須藤さんは可愛い。  作者: 椎名 京
番外編
21/21

須藤さんの親友。

家は母子家庭で、家事とかも一通りうまくできるし、勉強も元々そこまで好きじゃなかった運動も頑張って、人より大分できるようになっていた。


でも、別に“一番”とか“完璧”とかに対する執着は薄くて、ただ単に今まで育てて来てくれた母に将来恩返しができるくらいに優秀であればよかった。


そう、小学生のときにすでに考えていた。





だから、弱いようで強かな、それなのにどこか脆くて、完璧でいる自分が大好きな、そんなあの子が美しく見えて仕方なかったの。








私の親友の須藤 伊咲は、かなり面倒な人種である。



外見は、私なんかの言葉では表すことすら許されないような、もう天使みたいな、人形みたいなそんな子。

イメージ的にはフランス人形。

色素が薄くてハーフにすら見えるのに、純日本人。

あんだけ人間離れしてる可愛さなら色んな意味でいじめられても仕方がないのに、感心すらしてしまう猫被りでそんなことをされているのは見たことがない。


外見、頭脳、運動神経、それらが圧倒的に優れている自分が大好きなくせに、誉められると完璧な作り笑いでそんなことないよー。とか言ってる。


人気者だし基本敵はいないし、でもごく稀に攻撃してくる人がいる。

そんな人に対しては、悪意ある言葉をのらりくらりとかわしつつ、自分に利益があるように動く。

そしてさりげなく相手の分が悪いように仕向け、陥れたところで自ら手を差し出し救い出す。


そんなこんなで、須藤 伊咲信者は増える一方。

「そんなうすらキモい信者は私にはいねーよ?」と、悪人顔で笑ってた。

きっと、ああいう人たちのことは“信者”枠にも入れてないんだろう。


ああ、ほんとに、あいつは性格が悪い。

なのにどうして、私は須藤 伊咲のことが嫌いになれなくて、病んで狂って救いようがないあいつのことがずっとずっと美しく綺麗に見えるんだろう。










──────────────



「何してんの」



すっ、と大きな瞳を細めて、小学生とは思えない大人びた顔でそう私たちに言い放ったのは、同じクラスの天使。



今まで私に暴言を吐きながら、おまけに今にも掴みかかる勢いだった目の前のやつらが、天使の姿を見て怯む。




その日の須藤 伊咲は機嫌が悪かったのか、いつもの愛想のよさはない。

答えない私たちにイラッとしたような視線を寄越して、ゆっくりと私に近づいた。



「何これいじめ? ウケるー」



口元はいつものように弧を描いているのに、目は全然笑ってない。

その表情がやったら綺麗で、感情が全く見えなくて、いつもに増して人形に見えて、そのとき少しだけゾッとした。


そんな須藤 伊咲に腕を引っ張られ、座り込んでいた私は意外と強い力によって立ち上がった。


私の横に並んで、目の前のやつらを無表情で見つめる。

嫌悪もない、本当に無感情のその表情で。


明らかに被害者の私には、なぜか軽蔑の目を向ける。

嘲られてるようで気分が良いものではなかったけど、それでもそんな感情ですら向けてくれたことを嬉しく思った。




「っいさ、」

「うーん、とりあえずどっか行って?」



いつもの可愛い声で、いつものように可愛く首を傾けているけど、私は恐怖しか感じなかった。


いそいそと去っていくそいつらを眺めていると、ねぇ。と可愛い声がして、我に返る。

あっ、じゃあ私も。と逃げるようとすれば、は? と至極不機嫌な顔で呼び止められた。



「こっちはさぁ、ただでさえ不機嫌だったのに、私に関係のない胸くそ悪いものまで見せられたわけよ。わかる? スルーするのも須藤 伊咲の評判的にどうかと思って、助けてあげたんだよ? この“わ た し”に関係ないのに、だよ? ことの重大さを理解してるの、君は」



ねーえ。と可愛い声で黙りこくった私の返事を促す須藤 伊咲は、全く、少しも、微塵も、可愛くなくて明らかにいつもと違った。


大体、その自己中なセリフを一息で早口で言い切るような人じゃない、いつもの須藤 伊咲は。



「まあ、いいけど。何あれいじめ?」

「……さあ、クズがする行為の理由なんて考えたくない」

「…………へぇ。まあ、いじめなんかブスたちの僻みだからね。普通にあんたが可愛いからでしょ、よかったね」



ははは、とカラカラ笑う。

でもやっぱりほんとに笑ってはいなくて、いつものにこにこと笑う須藤 伊咲はどこに行ったんだ。

それに、ブスとか。言わないよね、あの天使は。

てか、その天使に誉められた……のかな、誇ってもいいの?



「……君とか、あんたじゃないから。槙瀬 小南だから」

「うん、知ってるよ? 当たり前じゃん、同じクラスだし。バカにしてるの?」

「……じゃあ、名前呼べばいいじゃない」

「何で迷惑かけられてるのは私なのに、この私の可愛い声であんたの名前呼ばないといけないの? なっぞー」



あははっ、と目は笑ってないのに口角だけ上げて笑う。


いつもは演技してるんだなって、そう思った。

それを知れて、なぜか私はひどく嬉しかった。



でも、いつも可愛いなぁって見てたみんなに見せる須藤 伊咲の作り笑いが、私は世界で一番大嫌いになった。











────────────



「あれさぁ、小五? とかだったじゃん? なぜかすっごい覚えてるんだけど、小五であの会話怖すぎね」

「何それ覚えてない」



ケーキに向かっていた綺麗で大きな瞳が私を映す。

きょとん、と首を傾げる仕草は可愛いんだけど、あの日をなぜか思い出してしまう私は、少しだけ恐怖を感じたりする。


まあ、今は。

信頼もされてるし、伊咲が私に嫌悪とかを向けてくるなんて考えてないけど。

ていうか、伊咲の怖いところはほとんどの人には感情を向けないことだ。

それは、嫌悪を持たれるよりもずっと怖い。



「……てか、覚えてないの? ファーストコンタクトだったのに」

「小南、彼氏に記念日忘れられた彼女のようだねウケる」

「伊咲がウケるー。とか言うときは笑ってないよね」

「うーん? 笑ってるときもあるけど?」



失礼だなぁ。と呟きながら、ストローに口をつける伊咲は、何度見たって綺麗。

可愛い系なのに、綺麗とか美しいとか感じてしまうのは、あまりにも人形らしい端麗さのせい。

美人は三日で飽きるらしいけど、ほんとに美しさが並外れちゃってるこいつは飽きない。

話したことない期間を入れても10年はこの整いすぎてる容姿を見てるけど、いつもいつも怖くなるくらい美しい。




「何で伊咲さ、完璧に猫被ってたくせにあのときはおもっきり素だったんだろうね」

「知らね」



……興味がないわけね。

それとも照れ隠しか?

この美しすぎる親友兼幼馴染みはツンデレ属性だと私は思ってる。




「お父さんとかお母さんが朝から喧嘩でもしてて情緒不安定だったんじゃない」



こいつ、覚えてんじゃねーの?

まあ、いいけどさ。







伊咲がここまで軽く親のことを話せるようになったのは、高谷のおかげだ。

認めたくはないけども。









小学校のときに出会った天使を、救いたくて私はもがいた。



心の中では自分が幼すぎることに気づいていたけど、それでも天使の真っ黒な感情を吐き出せるような場所を作ってあげたくて、何度も物好きだねぇ。と一掃されたけど、しつこく話しかけた。






あのとき確かに、この子を守りたいと思ったのだ。



そんな力はこの子より劣ってる自分にはないけど、それでも。


無表情で、無感情な、そんな伊咲が守ってきた須藤 伊咲を壊したかった。

余計なお世話だと言われても、私の自己満だった。

それでよかった。












────────────



「何。何で小南が泣いてんの。死ぬの?」

「……だって、伊咲は悪くないじゃん! 伊咲らしくないじゃん、何がしたいの、どうしたいの、それでいいの!?」




一気に捲し立てた私を見る伊咲の目には、私なんか映ってないことに気がついていた。


伊咲なんかより子供の私。


伊咲がつらいのはわかってた。

泣きたいのもわかってた。

でも泣かない理由も知ってた。



「うん、私はつらいよ? でも私がつらいからって何? 何か変わるの?」



もっともな伊咲の言葉に、とても悔しくなって、伊咲じゃないけど初めて無力な私が嫌いだと思った。




「ねぇ、小南。私のこと嫌いになった?」



ゆらゆら揺れるその瞳。


期待してるの?

私が伊咲を嫌うことを?


でも、不安なの?

嫌なの? つらいの?



お願い伊咲、私はわからないから。

だから、教えて。





「……ならないよ、何でなるの。意味わかんない、」

「うん、だよね。でも私、死にたいなぁって思ってるよ?」



いつもの軽口に、いつものように乗ってはあげられない。

だって、それ本気なの?

むしろ、気づいてるはずなのに、私に嫌われようとしてるみたい。


私は伊咲ほどじゃないけど頭がいいからさ、気づくよそのくらい。

そんな作戦に、進んで引っ掛かってあげるなんて優しいこと、してあげないから。



「でも、私は今生きちゃってるからねぇ」





どうしたもんかなぁ。と呟く伊咲を見て思った。




私は多分、須藤 伊咲に無敵でいてほしかったのだ。














────────────



「……伊咲」



小学六年生のときだったか、伊咲の綺麗な綺麗な顔の左頬が腫れていた。


何それ。って聞こうとすれば、伊咲の作り笑いで一線を引かれて踏み込めない。



わかんない、意味わかんない。

何でなんだろう。


伊咲は、性格悪いし自己中だしナルシストだけど、でも愛されるはずの人間なのに。


伊咲の左頬に気づいた担任は伊咲にそれとなく訪ねていたけど、伊咲が素直に口を割るはずもない。

素を知ってる私ですら辛うじて見抜けられるくらいの完璧な作り笑いで、適当に考えたであろう理由を聞かれるたびに何回も繰り返していた。

担任は納得していなかったけど、伊咲があまりにも頑なだから、何かあったら相談してね。とだけ言ってた。




「伊咲、話して」

「何を?」



そうやって、口角を上げた伊咲を見て、その日は終わった。









数日経って、すでに伊咲の頬の腫れは引いていた。

伊咲はいつものようににこにこと周りに溶け込んで、なのに私とは目も合わせてくれなかった。


“いつものように”は、少し違う。

どこか違う。



───壊れてる。



壊れてる、狂ってる。

やだやだやだやだ。



ねぇ、伊咲。

お願いだから、歪んでても性格悪くてもそれでいいから。



いなくならないで、少なくとも私は悲しいから。




どこかへ行かないで。

置いていかないで。




ねぇねぇ、私は追い付けないだろうけど。


母子家庭だしそれなりの苦労はしてきたけど、伊咲の気持ちなんて一生理解なんかできないだろうけど。






ねぇ、お願い。





知ってる?

私は伊咲ほどじゃないけど、かなり自分本意なの。






「伊咲」

「ん? なーに、小南」



その、作り笑いは嫌い。

大っ嫌い。


多分、多分だけど、伊咲は自分のことが好きなくせに、そうやって笑顔を作るたびに自分を汚いとか思ってる。


汚くないのに。

伊咲より綺麗な人なんて、この世にいないのに。



やめて、作らないで。



腹が立つの、それ。

それ、嫌なの。



いつか言ったじゃん、胸くそ悪いもの見せられて、って。


私のそれは、伊咲のその作り笑いだよ。




パァン、と響いた音。

珍しく目を丸くして驚く伊咲。



……一応、右頬なんだよ?

いや、ごめんね、怒らないでよ。

怒るとは思ってたよ、知ってたよ。

人に触られるの嫌い?

いやそこじゃない気がするんだけど、まあいいや。


え、何で?

だって私、そんな伊咲大っ嫌いだし。




「何、笑ってるのよ」

「……小南って、おかしな人だねぇ……」



しみじみとそう言われる。

うーん、特にいつもなら気にしないけど、伊咲に言われるのだけは不本意だわ。



「……伊咲、綺麗なあんたが好きだよ」

「あー……、うん、まあ。完全に信じてあげるのは無理だけどさ、可愛い私を好きだって言う小南は嫌いじゃないよ」




素直じゃないなぁって、心の中で笑っておく。











────────────



「高谷、遅い」

「怒ってる須藤さん、可愛いね」

「だからそれは私が一番知ってる」




高谷と出会ってバカになって。

やたら涙脆くなって。

おまけに数ヵ月しか経ってないのに好きになっちゃって、付き合っちゃって。


すんなりとはいかないけど、それでも拗れまくってたお父さんたちとの仲も良好になってきて。



悲しいことが増えて、楽しいことが増えて、嬉しいことが増えて。

感情が溢れそう。



そうだなぁ、伊咲らしくないけど、そんな伊咲もありかもしれない。




もっと愛されていいんだよ。

誰かに甘えれなかった分、もっとわがまま言ってもいい。


あ、でも私にはやめて。

高谷にして。





愛して。


ちゃんと、わかってあげるから。



不器用でも拙くても失敗しても、何があっても伊咲らしいわって笑い飛ばしてあげるから。




倒れるなら、こっちにきて。

あんたは大丈夫だから。






愛して。



どんなに重くても、どんな愛でもいいからさ。

それと同じくらい、返してあげる。







「伊咲」




「うん?」




「好きよ。ずっと」







「…………ほんと、物好きだねぇ」









今のあんたの笑顔が、一番美しくて綺麗だわ。









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