第27話 コマンダー・セア准将
過信、慢心、油断……
力を手にした者の悲惨な運命。
己の力が悲劇を招く。
自己の強大な力が、自己を滅ぼす――
エデンの死。
それを聞いた俺は、“あの日”のことを思い出していた。
あれは、もう、2年半以上も前のことだ――
――SC 2012年2月17日 【科学都市テクノシティ テクノミア=エデン】
コスーム大陸北部テクノ州。当時、国際政府に対して反乱を起こした連合政府は、飛ぶ鳥を落とす勢いを持っていた。すでに大陸西部7州を制圧し、世界の半分以上が俺たちの手にあった。もはや、国際政府滅亡は時間の問題。そう言われていた。
――事件は、そんなときに起こった。
「メディデント閣下、テクノ州を制圧しました」
ひざまずく若い女性。連合政府七将軍の1人――ケイレイトだ。一方、イスに座る男はメディデント。複数いる連合政府リーダーの1人だ。
「ご苦労だ、ケイレイト…… だが、――」
メディデントが俺の方に視線を向ける。
「メタルメカ、君の部下はどういうつもりかね?」
「はっ……」
メタルメカ。コード・ネームで呼ばれた俺は、その場でひざまずく。彼の言うことは、もっともなことだった。
「なんだ、文句があるのか?」
後ろに控えていたフィルド・クローンが俺の前に進み出る。その服には乾いた血が飛び散っていた。だが、彼女はそれを隠そうともせず、メディデントに歩み寄る。
「コマンダー・セア准将、君は味方まで殺したそうじゃないか」
「クローン23匹、人間31匹、市民が数百、軍用兵器までは数えられなかったな」
コマンダー・セア――後のエデンは全く詫びる気もないようだった。それどころか、笑みさえも浮かべていた。
テクノシティの戦い。ここで国際政府軍と激しい戦いになった。コマンダー・セアの戦い方は異常だった。敵味方問わず殺すという、メチャクチャな戦い方をする。
「そうか、まぁいい……」
メディデントは引き下がると、イスから立ち上る。そのとき、広い円状をした部屋の扉が開く。外から、オレンジ色の髪の毛をした若い女性――コメットと、白銀の髪の毛をした男性――パラックルが入ってくる。メディデントと同じ連合政府リーダーだ。
「あら、コマンダー・セアじゃない。――連合政府の思惑通りに働いてくれない道具。久しぶりね」
コメットはそう言いながら、用意されたイスに座る。パラックルも、コマンダー・セアを蔑むような目で見ている。このクローン准将、連合政府内でもかなりの不人気だ。
「さっさと、国際政府総帥グランド殺害の件、最終調整を始めようか」
パラックルが最初に話を切り出す。今、国際政府総帥グランドを暗殺しようという話が持ち上がっていた。俺たちはそのプロジェクト・チームだった。……とは言っても、話す内容などほとんどなかった。いや、1つだけ重要な事項ある。
「本日話すのは、作戦にコマンダー・セア准将を入れるかどうかだ」
「……話すまでもないな」
コマンダー・セアはニヤリと笑いながら言う。実力だけなら、彼女は申し分ない。それは誰の目にも明らかだった。だが、……彼女は嫌われているのだ。
「…………。……賛成の者は?」
手を上げるのは誰もいなかった。
「は? 冗談だろ?」
コマンダー・セアはこの状況に唖然とする。ムリもない。この任務が完遂すれば、彼女は階級が1つ上がり、少将になる予定だった。それに、政府総帥グランドと最高議長マグフェルトは自身の手で殺す、とまで豪語しているのだ。
「……そうか」
コマンダー・セアはそう言うと、俺の方に向かって来る。その顔には、いつもに増して険しいものがあった。
「メタルメカ将軍――」
「…………?」
「――政治家の延々とした議論、ムダだと思わないか?」
「なにが言いたい?」
「私はずっと思っていたんだ。力ある生き物が全てを支配すればいいと…… 力ない者は従っていればいいんだ」
コマンダー・セアは俺に背を向け、再び連合政府リーダーたちの方を向く。まさか……!
「もう、お前たち政治家が権力を握る時代は終わりだ! 連合政府リーダー共!」
「なにっ!?」
「なんだと!?」
「あ、あなた自分が何を言ってい――」
コメットのセリフが終わらぬ内にコマンダー・セアは剣を抜く。
「時代は戦乱の時代! 力ある生き物だけが全てを支配する時代だ!」
そう叫び、彼女は俺が止める前に、連合政府リーダーたちに向かって飛ぶ。その身体からは確かな殺意と狂気が放たれていた。
「お前たちをここで殺し、連合政府を、国際政府を、世界を滅ぼし、私は全ての支配者になってやる!」
「こ、このクローン……!」
「クローン如きが何を言っている!」
「あなた達、あれを廃棄処分にしなさい!」
コメットの命令で護衛の騎士型ロボット――バトル=パラディンが出てくる。2体のバトル=パラディンは槍を手に、コマンダー・セアを刺し殺そうとする。
だが、彼女は片腕に白い衝撃波を纏い、その拳で1体のバトル=パラディンを殴り壊す。合金で出来た騎士型ロボットは、たったの一撃で殴り壊された。
「閣下、お下がりを!」
「ヤツを殺せ!」
「至急、全ての連合政府リーダー及びティワード総統閣下にお知らせを!」
スーツを着た数人の連合政府護衛官と、黒い人間型ロボット兵器――バトル=メシェディたちが、ハンドガンやアサルトライフルを手に、コマンダー・セアを射殺しようとする。パラックルやメディデントも強力なハンドガン――リボルバーを手に持つ。
「ハハハ! そんな人数で私と戦うのか!?」
黒い雲状のエネルギーを腕に纏うコマンダー・セア。ラグナロク魔法だ。アイツ、そんな高度魔法まで使えるのか……!
「私と戦いたかったら、10万人の精鋭を用意しろッ!」
身体の銃弾を何十発と受けながら、コマンダー・セアは叫ぶ。彼女は護衛官やバトル=メシェディに近づくと、目にも止まらぬ速さで倒していく。血や破片が舞い散る。
「よ、よせッ!」
メディデントの片腕ともいわれる側近さえも、コマンダー・セアは拳で殴り殺す。本気で連合政府リーダーたちを殺す気だ。
「死ね、コメット!」
「や、やめなさい!」
左手でコメットの首を掴んで持ち上げると、右拳にラグナロク魔法を纏う。アレで頭を殴れば、木端微塵になる!
俺は左拳をコマンダー・セアに向け、ワイヤーを飛ばす。それは、彼女の首に巻き付く。間髪入れずに強烈な電撃をほとばしらせる。悲鳴が上がり、彼女はその場に倒れ込む。
「うっぁッ……! メ、メタルメカ、お前とて強者じゃないか。なぜコメットやパラックルなどの弱者に従う!? 逆らう者は全て殺せばいいじゃないか!」
コマンダー・セアはワイヤーを掴み、それを無理やり引っ張る。俺の身に纏う装甲服とワイヤーは繋がったままだ。俺の身体は宙を舞い、壁に叩き付けられる。その壁にヒビが入る。
「あ、ぐっ……」
俺は床に倒れ込む。全身を覆う装甲服のおかげでダメージは少ないが、なんて力だ。あんな力を持つクローンは他にいない。
「よくもメタルメカを!」
ずっと俺の後ろに控えていたケイレイトが、鋭い刃を持つブーメランを手に、コマンダー・セアに向かっていく。よせッ……!
ケイレイトはブーメランで何度も激しく狂気のクローンに斬りかかる。だが、コマンダー・セアは片手に持った剣でその攻撃を全て防ぐ。何度も金属同士が触れ合う音と小さな火花が飛ぶ。
「ケイレイト、連合七将軍の女はその程度か?」
「クッ……!」
コマンダー・セアはラグナロク魔法を纏わせた剣を軽く振り、ケイレイトのブーメランは斬り壊す。弾き飛ばすんじゃなくて、斬り壊しただと!?
ケイレイトのブーメランを壊したコマンダー・セアは、彼女の胸倉を掴む。無理やり自分の方に引っ張り寄せると、その腹部を拳と膝で強く殴りつける。彼女の口から血が飛び、床に膝を付いて倒れる。
「た、助け、てっ…… メタル、メカっ……!」
「ケイレイト!」
「まずはお前だな、ケイレイト」
コマンダー・セアは右腕にラグナロク魔法を纏う。
「よせ、やめろっ、やめてくれ!」
「……お前の“恋人”が肉塊に変わる瞬間を見届けろ、メタルメカ」
「助けてッ! メタル――グラディウス!」
「…………!」
床に倒れ、もはや起き上がる力もないケイレイト。彼女が俺の名を呼ぶ。
「グラディウス? ほう、メタルメカの名か。最後に面白いのが聞けたな」
「セア、お前ぇッ!」
俺はコマンダー・セアに向かって走る。俺の腕にラグナロク魔法が纏われていた。それに、あの女は気が付かない。
「ハハッ、そんなに怒るな。なんなら、ケイレイトのクローンでも作れば――」
余裕そうな表情を浮かべながら、コマンダー・セアは俺の方を向く。その途端、顔色が変わる。
「しまったッ、お前もラグナロク魔法を――」
そう言い終らぬ内に、俺の拳はクローンの腹部に打ち込まれる。一瞬だったが、俺の手に何かが砕けるかのような感覚が伝わる。
コマンダー・セアは吹っ飛ばされ、硬いクリスタルで造られた扉を叩き壊し、廊下に飛び出す。――廊下には、何十人もの護衛官が待ち構えていた。
「うわっ、コイツは」
「撃てぇ!」
「生かしておくな!」
スーツを着た護衛官たちは一斉にリボルバーの銃口を向け、コマンダー・セアの腹部に銃弾を撃ちこんでいく。力強い音が何度も鳴り起こり、やや大きな銃弾が彼女の身体にめり込んでいく。
「ま、待てっ、ぁぐっ、ぃ……!」
白い石で造られていた床に、真っ赤な血が飛び散っていく。もはや、コマンダー・セアはほとんど抵抗できないでいた。何十発と強力な銃弾が浴びせられる。
「待ちなさい」
「…………!? コメット閣下!」
護衛官たちを掻き分け、現れるコメット。彼女は瀕死となったコマンダー・セアに近寄る。その髪の毛を掴んで、無理やり身体を上げさせる。
「ぁ、ぅ…… こ、ろっ――」
「フフ、殺して欲しい?」
「…ぅ、コメ…ト……!」
「――ダメよ。殺さない」
なに!? 俺はケイレイトを抱き起しながら、信じられない言葉を耳にする。あの連合政府リーダーは何を言っているんだ!?
「あなたは死なせない。私に逆らい命を狙った罰を上げる」
そう言うコメットはどこか狂気的だった。狂気に満ちたコマンダー・セアを造り出した連合政府のリーダーも、また狂気で満ちているのか……
コメットの命令を受けた護衛官たちは、コマンダー・セアを腰の後ろで手を組ませ、その手首に魔法を大きく封じる手錠を付ける。
「デスペリア支部」
「…………!?」
「あなたはそこで死ぬまで拷問され、泣き叫んで命乞いをすることになる。その日が楽しみね。――連れて行きなさい」
「はっ!」
コメットの命令を受けた護衛官たちは、彼女を無理やり引きずっていく。デスペリア支部か。1ヶ月前に完成した連合政府の特殊拷問施設。重度な犯罪を犯したクローンたちを収監する施設……
いくらコマンダー・セアでも、あの施設に入れられれば終わりだろう。死ぬまで拷問なら、今ここで死んだ方がマシかも知れない。
だが、本当にそれでいいのか? 今、あの女を殺しておかないと、万が一、デスペリアから脱獄すれば、世界はメチャクチャになる。俺はこの時、何となくだが、イヤな予感がしていた。
そして、その予感は、当たることになる。
この事件から9ヶ月後、コマンダー・セアは連合政府リーダーのヴァイスを殺し、「ヒーラーズ・グループ」の事実上の支配者となった――
<<タイム・ライン>>
◆SC 2011年
◇2月
――ラグナロク大戦勃発(連合政府の台頭)。
◆SC 2012年
◇2月
――コマンダー・セアが連合政府リーダーたちを殺そうとするが、失敗に終わり、デスペリア支部に収監される。
◇11月
――コマンダー・セアがデスペリア支部からヒーラーズ本部へと移送される。
◇12月
――コマンダー・セアとシア(後のセネイシア)がヴァイスを殺し、「ヒーラーズ・グループ」は事実上、崩壊する。
――『黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――』
◆SC 2014年
◇8月
――ヒーラーズ軍による第一次~第三次国際政府侵略が行われる(本作、第1章~第6章)。
◇9月
――コマンダー・セア(エデン)が死亡する(本作、第7章)。




