表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

第27話 コマンダー・セア准将

 過信、慢心、油断……


 力を手にした者の悲惨な運命。


 己の力が悲劇を招く。


 自己の強大な力が、自己を滅ぼす――


































































 エデンの死。


 それを聞いた俺は、“あの日”のことを思い出していた。


 あれは、もう、2年半以上も前のことだ――


 





 ――SC 2012年2月17日 【科学都市テクノシティ テクノミア=エデン】


 コスーム大陸北部テクノ州。当時、国際政府に対して反乱を起こした連合政府は、飛ぶ鳥を落とす勢いを持っていた。すでに大陸西部7州を制圧し、世界の半分以上が俺たちの手にあった。もはや、国際政府滅亡は時間の問題。そう言われていた。

 ――事件は、そんなときに起こった。


「メディデント閣下、テクノ州を制圧しました」


 ひざまずく若い女性。連合政府七将軍の1人――ケイレイトだ。一方、イスに座る男はメディデント。複数いる連合政府リーダーの1人だ。


「ご苦労だ、ケイレイト…… だが、――」


 メディデントが俺の方に視線を向ける。


「メタルメカ、君の部下はどういうつもりかね?」

「はっ……」


 メタルメカ。コード・ネームで呼ばれた俺は、その場でひざまずく。彼の言うことは、もっともなことだった。


「なんだ、文句があるのか?」


 後ろに控えていたフィルド・クローンが俺の前に進み出る。その服には乾いた血が飛び散っていた。だが、彼女はそれを隠そうともせず、メディデントに歩み寄る。


「コマンダー・セア准将、君は味方まで殺したそうじゃないか」

「クローン23匹、人間31匹、市民が数百、軍用兵器までは数えられなかったな」


 コマンダー・セア――後のエデンは全く詫びる気もないようだった。それどころか、笑みさえも浮かべていた。

 テクノシティの戦い。ここで国際政府軍と激しい戦いになった。コマンダー・セアの戦い方は異常だった。敵味方問わず殺すという、メチャクチャな戦い方をする。


「そうか、まぁいい……」


 メディデントは引き下がると、イスから立ち上る。そのとき、広い円状をした部屋の扉が開く。外から、オレンジ色の髪の毛をした若い女性――コメットと、白銀の髪の毛をした男性――パラックルが入ってくる。メディデントと同じ連合政府リーダーだ。


「あら、コマンダー・セアじゃない。――連合政府の思惑通りに働いてくれない道具。久しぶりね」


 コメットはそう言いながら、用意されたイスに座る。パラックルも、コマンダー・セアを蔑むような目で見ている。このクローン准将、連合政府内でもかなりの不人気だ。


「さっさと、国際政府総帥グランド殺害の件、最終調整を始めようか」


 パラックルが最初に話を切り出す。今、国際政府総帥グランドを暗殺しようという話が持ち上がっていた。俺たちはそのプロジェクト・チームだった。……とは言っても、話す内容などほとんどなかった。いや、1つだけ重要な事項ある。


「本日話すのは、作戦にコマンダー・セア准将を入れるかどうかだ」

「……話すまでもないな」


 コマンダー・セアはニヤリと笑いながら言う。実力だけなら、彼女は申し分ない。それは誰の目にも明らかだった。だが、……彼女は嫌われているのだ。


「…………。……賛成の者は?」


 手を上げるのは誰もいなかった。


「は? 冗談だろ?」


 コマンダー・セアはこの状況に唖然とする。ムリもない。この任務が完遂すれば、彼女は階級が1つ上がり、少将になる予定だった。それに、政府総帥グランドと最高議長マグフェルトは自身の手で殺す、とまで豪語しているのだ。


「……そうか」


 コマンダー・セアはそう言うと、俺の方に向かって来る。その顔には、いつもに増して険しいものがあった。


「メタルメカ将軍――」

「…………?」

「――政治家の延々とした議論、ムダだと思わないか?」

「なにが言いたい?」

「私はずっと思っていたんだ。力ある生き物が全てを支配すればいいと…… 力ない者は従っていればいいんだ」


 コマンダー・セアは俺に背を向け、再び連合政府リーダーたちの方を向く。まさか……!


「もう、お前たち政治家が権力を握る時代は終わりだ! 連合政府リーダー共!」

「なにっ!?」

「なんだと!?」

「あ、あなた自分が何を言ってい――」


 コメットのセリフが終わらぬ内にコマンダー・セアは剣を抜く。


「時代は戦乱の時代! 力ある生き物だけが全てを支配する時代だ!」


 そう叫び、彼女は俺が止める前に、連合政府リーダーたちに向かって飛ぶ。その身体からは確かな殺意と狂気が放たれていた。


「お前たちをここで殺し、連合政府を、国際政府を、世界を滅ぼし、私は全ての支配者になってやる!」

「こ、このクローン……!」

「クローン如きが何を言っている!」

「あなた達、あれを廃棄処分にしなさい!」


 コメットの命令で護衛の騎士型ロボット――バトル=パラディンが出てくる。2体のバトル=パラディンは槍を手に、コマンダー・セアを刺し殺そうとする。

 だが、彼女は片腕に白い衝撃波を纏い、その拳で1体のバトル=パラディンを殴り壊す。合金で出来た騎士型ロボットは、たったの一撃で殴り壊された。


「閣下、お下がりを!」

「ヤツを殺せ!」

「至急、全ての連合政府リーダー及びティワード総統閣下にお知らせを!」


 スーツを着た数人の連合政府護衛官と、黒い人間型ロボット兵器――バトル=メシェディたちが、ハンドガンやアサルトライフルを手に、コマンダー・セアを射殺しようとする。パラックルやメディデントも強力なハンドガン――リボルバーを手に持つ。


「ハハハ! そんな人数で私と戦うのか!?」


 黒い雲状のエネルギーを腕に纏うコマンダー・セア。ラグナロク魔法だ。アイツ、そんな高度魔法まで使えるのか……!


「私と戦いたかったら、10万人の精鋭を用意しろッ!」


 身体の銃弾を何十発と受けながら、コマンダー・セアは叫ぶ。彼女は護衛官やバトル=メシェディに近づくと、目にも止まらぬ速さで倒していく。血や破片が舞い散る。


「よ、よせッ!」


 メディデントの片腕ともいわれる側近さえも、コマンダー・セアは拳で殴り殺す。本気で連合政府リーダーたちを殺す気だ。


「死ね、コメット!」

「や、やめなさい!」


 左手でコメットの首を掴んで持ち上げると、右拳にラグナロク魔法を纏う。アレで頭を殴れば、木端微塵になる!

 俺は左拳をコマンダー・セアに向け、ワイヤーを飛ばす。それは、彼女の首に巻き付く。間髪入れずに強烈な電撃をほとばしらせる。悲鳴が上がり、彼女はその場に倒れ込む。


「うっぁッ……! メ、メタルメカ、お前とて強者じゃないか。なぜコメットやパラックルなどの弱者に従う!? 逆らう者は全て殺せばいいじゃないか!」


 コマンダー・セアはワイヤーを掴み、それを無理やり引っ張る。俺の身に纏う装甲服とワイヤーは繋がったままだ。俺の身体は宙を舞い、壁に叩き付けられる。その壁にヒビが入る。


「あ、ぐっ……」


 俺は床に倒れ込む。全身を覆う装甲服のおかげでダメージは少ないが、なんて力だ。あんな力を持つクローンは他にいない。


「よくもメタルメカを!」


 ずっと俺の後ろに控えていたケイレイトが、鋭い刃を持つブーメランを手に、コマンダー・セアに向かっていく。よせッ……!

 ケイレイトはブーメランで何度も激しく狂気のクローンに斬りかかる。だが、コマンダー・セアは片手に持った剣でその攻撃を全て防ぐ。何度も金属同士が触れ合う音と小さな火花が飛ぶ。


「ケイレイト、連合七将軍の女はその程度か?」

「クッ……!」


 コマンダー・セアはラグナロク魔法を纏わせた剣を軽く振り、ケイレイトのブーメランは斬り壊す。弾き飛ばすんじゃなくて、斬り壊しただと!?

 ケイレイトのブーメランを壊したコマンダー・セアは、彼女の胸倉を掴む。無理やり自分の方に引っ張り寄せると、その腹部を拳と膝で強く殴りつける。彼女の口から血が飛び、床に膝を付いて倒れる。


「た、助け、てっ…… メタル、メカっ……!」

「ケイレイト!」

「まずはお前だな、ケイレイト」


 コマンダー・セアは右腕にラグナロク魔法を纏う。


「よせ、やめろっ、やめてくれ!」

「……お前の“恋人”が肉塊に変わる瞬間を見届けろ、メタルメカ」

「助けてッ! メタル――グラディウス!」

「…………!」


 床に倒れ、もはや起き上がる力もないケイレイト。彼女が俺の名を呼ぶ。


「グラディウス? ほう、メタルメカの名か。最後に面白いのが聞けたな」

「セア、お前ぇッ!」


 俺はコマンダー・セアに向かって走る。俺の腕にラグナロク魔法が纏われていた。それに、あの女は気が付かない。


「ハハッ、そんなに怒るな。なんなら、ケイレイトのクローンでも作れば――」


 余裕そうな表情を浮かべながら、コマンダー・セアは俺の方を向く。その途端、顔色が変わる。


「しまったッ、お前もラグナロク魔法を――」


 そう言い終らぬ内に、俺の拳はクローンの腹部に打ち込まれる。一瞬だったが、俺の手に何かが砕けるかのような感覚が伝わる。

 コマンダー・セアは吹っ飛ばされ、硬いクリスタルで造られた扉を叩き壊し、廊下に飛び出す。――廊下には、何十人もの護衛官が待ち構えていた。


「うわっ、コイツは」

「撃てぇ!」

「生かしておくな!」


 スーツを着た護衛官たちは一斉にリボルバーの銃口を向け、コマンダー・セアの腹部に銃弾を撃ちこんでいく。力強い音が何度も鳴り起こり、やや大きな銃弾が彼女の身体にめり込んでいく。


「ま、待てっ、ぁぐっ、ぃ……!」


 白い石で造られていた床に、真っ赤な血が飛び散っていく。もはや、コマンダー・セアはほとんど抵抗できないでいた。何十発と強力な銃弾が浴びせられる。


「待ちなさい」

「…………!? コメット閣下!」


 護衛官たちを掻き分け、現れるコメット。彼女は瀕死となったコマンダー・セアに近寄る。その髪の毛を掴んで、無理やり身体を上げさせる。


「ぁ、ぅ…… こ、ろっ――」

「フフ、殺して欲しい?」

「…ぅ、コメ…ト……!」

「――ダメよ。殺さない」


 なに!? 俺はケイレイトを抱き起しながら、信じられない言葉を耳にする。あの連合政府リーダーは何を言っているんだ!?


「あなたは死なせない。私に逆らい命を狙った罰を上げる」


 そう言うコメットはどこか狂気的だった。狂気に満ちたコマンダー・セアを造り出した連合政府のリーダーも、また狂気で満ちているのか……

 コメットの命令を受けた護衛官たちは、コマンダー・セアを腰の後ろで手を組ませ、その手首に魔法を大きく封じる手錠を付ける。


「デスペリア支部」

「…………!?」

「あなたはそこで死ぬまで拷問され、泣き叫んで命乞いをすることになる。その日が楽しみね。――連れて行きなさい」

「はっ!」


 コメットの命令を受けた護衛官たちは、彼女を無理やり引きずっていく。デスペリア支部か。1ヶ月前に完成した連合政府の特殊拷問施設。重度な犯罪を犯したクローンたちを収監する施設……

 いくらコマンダー・セアでも、あの施設に入れられれば終わりだろう。死ぬまで拷問なら、今ここで死んだ方がマシかも知れない。

 だが、本当にそれでいいのか? 今、あの女を殺しておかないと、万が一、デスペリアから脱獄すれば、世界はメチャクチャになる。俺はこの時、何となくだが、イヤな予感がしていた。






















































 そして、その予感は、当たることになる。


 この事件から9ヶ月後、コマンダー・セアは連合政府リーダーのヴァイスを殺し、「ヒーラーズ・グループ」の事実上の支配者となった――

  <<タイム・ライン>>


◆SC 2011年

 ◇2月

  ――ラグナロク大戦勃発(連合政府の台頭)。


◆SC 2012年

 ◇2月

  ――コマンダー・セアが連合政府リーダーたちを殺そうとするが、失敗に終わり、デスペリア支部に収監される。

 ◇11月

  ――コマンダー・セアがデスペリア支部からヒーラーズ本部へと移送される。

 ◇12月

  ――コマンダー・セアとシア(後のセネイシア)がヴァイスを殺し、「ヒーラーズ・グループ」は事実上、崩壊する。

  ――『黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――』


◆SC 2014年

 ◇8月

  ――ヒーラーズ軍による第一次~第三次国際政府侵略が行われる(本作、第1章~第6章)。

 ◇9月

  ――コマンダー・セア(エデン)が死亡する(本作、第7章)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ