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黒い夢と白い夢Ⅵ ――漆黒の楽園――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第7章 闇の園 ――ダーク・サンクチュアリ――
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第26話 僕のこと、好き、だった……?

 “それ”は、私がエデンのことを、本当に命ある生き物かと疑うに十分すぎた。


「アー、カイ、ズ……」

「な、なんて…ヤツ、だ……」


 アーカイズが倒れる。自分の攻撃に耐えられなかったんだ。当然だ。あれだけの攻撃を撃てるだけでどうかしている。気が付けば、レーリアも気を失っている。なのに――


「ハ、ハハ……」


 なんで、エデンだけは倒れないんだ? 生き残っているクローン兵たちもエデンが生きているという事実に、呆然としている。

 彼女の後ろでは、巨大な暗黒城が瓦礫の山と化している。近くの山や森もめちゃくちゃだ。あれだけ濃かった霧さえも完全になくなってしまっている。……アイツはなんで、原型を保っているんだ? 単純に考えて、エデンは暗黒城よりも頑丈だということになる。


「クッ、うぁっ……! さ、ぁ…次は、誰だ……?」


 口から血を流しながら話すエデン。その足取りはおぼつかない。目の焦点も完全にはあっていない。おそらく、意識が飛ぶ寸前なのだろう。瀕死状態といったところか。

 何千人ものクローン兵の猛攻、レーリアのラグナロク魔法を纏った剣の攻撃、アーカイズのラグナロク魔法を纏った拳を二度。砕けた地面、裂けた大地、崩れた要塞、割れた天空。――なぜ、エデンは生きている?

 いや、だが、もう彼女は瀕死だ。たとえこの場を逃れても、このあと生きていけるかどうかはかなり怪しい。生き延びても、身体に深い後遺症が残るレベルだ。


「……レーリア、アーカイズ。無駄にはしない」


 私は剣を手にする。絶望の空気が広がる中庭を、私は歩いて行く。いや、もう中庭とは言えないか。何もかもが砕け、引き裂かれて、ひっくり返されてしまった感じだ。私は大きな亀裂を飛び越え、エデンのいる大地に飛び乗る。


「…パトラー=オイジュ、ス…… 次は、お前がっ……!」


 口を開くたびに、エデンは血を吐きだす。彼女の腹部には穴が開いていた。胸にかけて、皮膚が裂けている。そこからおびただしい量の血と……原形を保っていない内臓器官がはみ出ている。

 私はエデンから目をそむけ、彼女に向かっていく。白色の刃を持つ鋭い剣で、彼女の胸を貫く。驚いたことに、彼女は何の抵抗もしなかった。……いや、違う。


「ぅっ、ぐっ……!?」


 エデンはその場に膝をつく。彼女は確かに私を殺し、勝つという意思があった。なのに、抵抗しなかった。


「な、なぜ、身体が…動か、なっ……」


 ……抵抗できなかったんだ。もう、身体はとうに限界を超えている。連合政府の遺伝子改良によって、偶然得られた異常な生命力と魔法が、彼女を“延命”させているんだ。

 そのとき、亀裂の向こうに誰かが立つ。


「エデン」

「……セネ、イ…シアっ」


 そこにいたのは、コマンダー・セアにエデンの名を与えた少年だった。親衛士の名を持つ者が本来、守らなきゃいけない存在だ。


「さ、最期に教えて欲しいんだ……」

「ハッ、今更…なにを、だ?」

「…………」


 セネイシアは震えていた。細く弱々しい腕で、ぎゅっと拳を握る。


「僕のこと、好き、だった……? ぼ、僕はエデンのこと、好きだったよ……!」

「…………」

「エデンは、どうか、な?」


 セネイシアは無理やり笑顔を作りながら話す。だが、エデンの答えは非情なものだった。


「――バカか、お前」

「…………!」

「お前を、抱く度にっ、私は…虫唾が、走った。お前のような、子供を…この私がなぜ、抱かなくちゃ、ならんのだ……」

「エデンっ……」


 セネイシアの目から涙がこぼれる。それは頬を伝い、瓦礫の上に落ちていく。


「そ、そっか。そうだよ、ね。ごめんねっ…… でも、僕は、エデンのこと、まだ好きだよ」


 そういうと、ヒーラーズの少年リーダーは、杖を持ち上げる。杖の先端にある青色のクリスタルが光る。魔法弾を飛ばす気だ。


「じょ、冗談っ、だろ……? なんで、お前の、ような……子供に、殺されなきゃっ……!」


 エデンを愛した少年は、持ち上げた杖を振り下ろす。1発の白い魔法弾――衝撃弾が尾を引いて飛んでゆく。

 セネイシアの心を弄んだ女は、片膝を着いたまま、片腕を上げる。黒い破壊弾を飛ばそうとする。だが、もはや彼女にそんな力はなかった。

 衝撃弾が、死にゆくエデンの腹部を貫く。爆発。血と肉片が飛び散る。そして、不死身かと思われた最強のクローンは、地面に横たわる。彼女が再び動き出すことは、もうなかった。


「エデン……」


 セネイシアは杖を冷たい地面に落とす。無味乾燥な音が鳴りながら転がっていき、最後には大きな、黒い十字の亀裂に落ちていく。

 最愛の仲間に裏切られた少年は、そっと腰に装備していた剣に手をかけ、剣を引き抜く。その刃を自らの首に向ける。


「まさか……!」


 私はセネイシアを止めようと、彼の側に駆け寄ろうとする。だが、その途端、脇腹に痛みが走り、その場にうずくまる。さっきの戦いは、あまりに激しすぎた。身体への負担が私自身、限界を超えていた。

 一方、セネイシアはもう首に刃を押し当てていた。あのまま剣を滑らせれば、彼の命は消える。――死を迎える。愛していた仲間に、残酷に裏切られ、壊れた心も終わりを迎える。


「……セネイ、シア卿」

「…………!」


 あるクローンの声がした。


「レー、リア……?」


 私はうずくまりながら、虚ろな目をしたセネイシアの方に顔を向ける。気を失っていた剣闘士が、ヒーラーズのリーダーの足首を握っていた。


「あなたに仲間はまだいます……」

「ごめんね、レーリア…… 僕がバカだったから、エデンの言うがままに、みんなを戦いに行かせて…… ごめん、ねっ……!」


 そう言うと、彼は剣を滑らせ、首を斬ろうとする。


「セネ――シア卿!」


 レーリアがセネイシアを無理やり押し倒す。僅かに血の付いた剣が冷たい音を立てて転がる。


「あなたの側には、まだあなたを愛す仲間がいます。その仲間を、捨てて逝くのですか?」

「レーリア…… 僕は、もう――生きていくのが怖いし、疲れた……」


 少年の死んだような目から、涙が零れる。その口端が、少しだけ笑っているように見えた。絶望。それが、彼の心を呑み込んでしまった。――死だけが、解放になってしまっている。


「僕は…怖い……」

「シアっ……」


 レーリアがセネイシアに覆いかぶさるようにして、小柄なその身体を抱き締める。セネイシアの泣き声に混ざって、彼女の泣き声も聞こえてくる。


「パトラー……」

「クラスタ……」


 私の後ろから、クラスタが声をかけてくる。彼女の手を取り、立ち上がる。もし、クラスタに裏切られたら、私もセネイシアのような気持ちになるんだろうか……?


 徹底的に崩れ落ちたヒーラーズ本部要塞。一帯には、何十人ものクローン兵の死体が転がっていた。たくさんのクローン兵が呆然と荒野に立ち尽くしていた。

 空に立ち込める灰色の厚い雲。黒い森。薄暗い城跡。そして、泣き続ける少年と剣闘士――





















































































 ――セネイシアとは、一体なんだったのか……?

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