第25話 空が割れた……!?
元ヒーラーズ軍のコハク中将とヒスイ中将が、ソフィアとセネイシアを守るようにして2人の両側に立つ。エデンが今、最も殺したいのは間違いなくソフィアだろう。だが、彼女を殺したいクローン兵は何千、何万といた。
「あのジェネラル・シップで死んだ仲間の仇だ!」
「ルベライト中将の怨みを晴らしてやる!」
「ジャスパーさんを殺し、フェール閣下の片腕を奪った裏切り者が!」
「…………」
エデンは下唇を噛み締め、額に青筋を立てる。ソフィアに対して、怒り狂っているのだろう。両腕に再びラグナロク魔法を纏う。今度はさっきよりも多い。纏っているときから、空間が衝撃に歪む。……ジェネラル・シップを半壊させたときと同等のエネルギーだ!
私は最上位シールドであるキャンセル・シールドを張る。クラスタも同じだ。だが、私たち以外は、みんなエデンに向かっていく。激しい攻撃を浴びせている。彼女の姿が炎と煙に包まれていく。
「よせっ――!」
あんなので死ぬヤツじゃない。でも、みんな、怒りでそれを忘れている。あるいは、それを知らない。
あるクローン兵が剣でエデンの腹部を刺す。あるクローン兵はナイフで背を斬る。また、あるクローン兵は槍で胸から背にかけて貫く――
「……これで、私を殺せると――」
私の予測は当たる。エデンは破壊のエネルギーで真っ黒に染まった両腕を動かす。再び自分の左右の『空間』を叩く。
「――思ったか!」
空間が裂ける。周りにいたクローン兵が、走り迫るクローン兵が、飛び込んでくるクローン兵が、――全てのクローン兵が一瞬で弾き飛ばされる。世界が崩れていくような轟音が鳴り響き、何千ものクローン兵が黒い衝撃波に引き裂かれ、バラバラになっていく。
「ハハハハ! 消え失せろッ、劣化クローン共! ハハハハッ!」
クローン兵が空中で肉片と変わり果てていく。鋼のガンシップさえも元の形を失っていく。遠くの城壁さえもが崩れ、瓦礫となって赤色の雨と肉片が舞う空を飛ぶ。
「パトラー=オイジュス! 次は貴様の番だッ!」
偶然、エデンの視界に入ったせいか、彼女は私の名を叫び、死の宣告を言い放つ。最強のクローンが、私を狙って走ってくる。背筋が凍りつく。殺される……!
だが、彼女の後ろに誰かが降り立つ。……剣闘士レーリアだ。その身体は、仲間のクローンたちの血で濡れていた。
「なんだ、貴様……」
「失せるのは、お前だ」
白い衝撃派を腕に纏ったレーリアは、目にも止まらぬ速さで、エデンを下から上へと殴る。顎に彼女の拳を喰らった。首の骨が折れただろうか? いや、まだ生きている。血を吐いたエデンが落ちてくる。
だが、レーリアには次の準備があった。自身の剣にラグナロク魔法を纏わせていた。エデンの顔から血の気が引いていく。さっきと同じだ。レーリアもラグナロクの力が使えることなんて、彼女は知らなかったんだ。
「レーリア、お前ぇッ!」
「お前は、やりすぎだ」
呟くように言い、剣闘士はその剣で、エデンの脇腹を斬りつける。かつての七衛士筆頭は、なすすべもなく、砕けた地面に叩き付けられる。その瞬間、耳が痛くなるほどの轟音が起こり、コンクリートの地面に大きな亀裂が入る。亀裂から衝撃波が飛び出す。恐ろしいほどの威力だ。
「ぐっ、ぁあっ――!?」
崩れゆく地面。硬い地面が、深い森が、大きな山が、レーリアの剣に纏わせた破壊魔法の威力によって、お腹に響く低い地鳴りを響かせながら裂けていく。それだけのエネルギーが、エデンの身体を襲っている。
「ぐっ、ぅぁあッ、レー、リアぁッ……!」
砕けた地面に倒れるエデン。深く大きな亀裂に、瓦礫と共に飲み込まれそうになっている。彼女の周りには、彼女自身が吐き散らした大量の血が流れている。だが、その目はしっかりと、大地を裂いた剣闘士を睨んでいた。
「おのれぇッ……! この、ゴミ野郎がぁッ!」
「クッ、ぅぁッ……!」
レーリアが剣を落とす。彼女も血を吐いて、砕けた膝をつく。魔法の使い過ぎと攻撃の反動だ。身体が耐えきれていない。レーリアが死んでしまう!
私は剣を握り、手をついて必死で立ち上がろうとしているエデンに向かって走る。私がやらないと、レーリアの行動が、命を削った攻撃が無駄になってしまう!
「クッ、なんて衝撃波……!」
エデンやレーリアの攻撃によって生み出された衝撃波が、まだそこら中で猛威を振るっている。ここにいるだけで身体に大きな負荷がかかる。
でも、それでもやらないと……! 私は政府軍人! みんなの自由と平和を取り戻すために、命が続く限り戦い続けるんだッ!
「――私がやる」
「え!?」
「ルベライトの仇だ!」
「アーカイズ!」
背中に背負った小型ジェット機で一直線に飛ぶアーカイズ。その右腕は真っ黒に染まっていた。ラグナロク魔法を限界まで纏った結果だ。
「ぐっ、クッ、アーカイズ……!」
レーリアから受けたダメージが大きすぎるせいで、エデンはまだ立てないでいた。彼女の顔には焦りが色濃く出ていた。
弟子を殺されたも同然の戦闘士は、真っ黒な拳をエデンの腹部にめり込ませる。それは怒りを込めた攻撃だった。
「なッ――!?」
弟子の心を弄んだ残虐なクローンの周辺空間が歪んでいく。でも、それは一瞬だけだった。大型の爆弾なんかどこにもないのに、空間に響き渡る爆音が鳴り響く。それは、アーカイズの攻撃によって生まれた衝撃波の轟音だった。
今までにない衝撃波が、レーリアの入れた横の亀裂に対し、今度は縦に入っていく。その亀裂は、地面はもちろんのこと、近くの森や山、――そして、空を覆う厚い濃い灰色の雲さえも引き裂いていた……!
「空が割れた……!? …………ッ!!?」
空を視界に入れたとき、私は信じられないものを目にした。そして、それは今後何十年と生きても、見ることはできないであろう光景だった。
「城が……!」
エデンの丁度真後ろにある大きな城――ヒーラーズ・グループ時代から君臨し続けた巨大な要塞に亀裂が入っていく。縦の亀裂の延長線だった。太い亀裂から、小さな亀裂が枝分かれして入っていく。そこから新たな爆発的な衝撃派が起こる。
石造りのヒーラーズ本部要塞が、見る者を圧倒させるほど巨大な暗黒城が、亀裂からの爆発と共に、激しく音を立てて崩れていく。――アーカイズが起こした破壊魔法の威力だ。それをエデンは全て身体で受けている。
「――――!」
アーカイズの拳から離れていくエデンは、もはや目の焦点が合っていなかった。完全に、意識が飛びつつあった。




