第23話 ソフィア、久しぶり
【ダーク・サンクチュアリ 暗黒城 中庭】
暗黒城の中庭。城壁・正門と要塞内との間にある広いエリアだ。小型飛空艇離着陸場としての用途もあるのか、地面はコンクリートだ。
見渡す限り、薄く霧がかった中庭にも誰もいない。辺りは不気味なほどにまで静まり返っている。だが、中庭の中央に来たときだった。
「…………!」
城内から誰かが歩いてくる。白い服を着た少年――セネイシアだ。片手に変な青色のスティックを持っている。先端に青色のクリスタルがある。魔法発生装置の一種だろうか?
「セネイシア閣下……」
「ソフィア、久しぶり」
セネイシアは私たちの前にまで歩いてくる。彼の後ろから、黒いレザースーツの上に白いコートを羽織ったクローン兵――ヒーラーズ親衛兵が続く。全員で30人ほど。
更に私の後ろ――正門から、黒いレザースーツを着た大勢のクローン兵が入ってくる。臨時政府所属のクローン兵じゃない。……ということは、ヒーラーズ軍のクローン兵だろうか?
「パトラー、クラスタ。安心して。後ろのクローン兵は私たちの味方よ」
「えっ?」
「ヒーラーズ防衛部隊の兵士。エデンを恐れて逃げ出したのよ」
そう言うと、ソフィアは再びセネイシアの方を向く。
「……ソフィア、やっぱり僕を捕まえにきたのかな?」
「ええ、閣下のためです」
「そう…… でも、僕は僕の夢がある。捕まるワケにはいかない」
「世界の治癒と優しい世界の創設でしたね。でも、セネイシア閣下、それは……」
「ごめん、ソフィア…… せめて、痛くないようにするから……」
「セネイシア閣下、どうか私の話をお聞きになってください!」
ダメだ。話にならない。エデンがいない内にセネイシアを捕まえるのが得策だ! 私は剣を手に、大きく飛び、ヒーラーズの少年リーダーに迫る。
「ま、待って、パトラー!」
「エデンがいない今がチャンスなんだ!」
私はセネイシアに斬りかかる。少年は、私に向けて杖の先を向ける。青色のクリスタルから、衝撃弾が飛ぶ。
「やっぱり、魔法発生装置か」
私は魔法シールドを張る。だが、着弾した衝撃弾は、私の体をいとも簡単に吹き飛ばす。激しい衝撃に、空中で何度も咳き込む。コンクリートの地面に背を打ち付ける。
でも、私はすぐに立ち上がる。威力は強いケド、ジェネラル・シップで戦ったフェールの魔法弾ほどじゃない。動きも遅い。エデンも、アーカイズも、レーリアもいない。いける!
私は攻撃に怯まず、再びセネイシアに向かって走り出す。また魔法弾が飛んでくる。私はそれを軽く避けていく。
「う、うわっ……」
セネイシアはやみくもに魔法攻撃を繰り返す。だが、狙いはめちゃくちゃだ。たぶん、軍事訓練は一度も受けたことはない。あの武器の使い方も知らない。所詮、ヒーラーズのリーダーでも、ただの普通の少年だ!
私は剣を鞘に戻す。剣を出すほどじゃない。“これ”で十分だ! 魔法発生装置を内蔵したハンド・グローブ。それを装着した手を振る。その瞬間、一本の電撃が少年の胸を貫く。
「あっ、ぐっ……!」
セネイシアは血を吐きながら、その場に膝をつく。杖がコンクリートの地面を、音を立てて、転がる。もう、勝敗は決した。私は痛みに苦しむ少年の前に立つ。その私の後ろに、ソフィアとクラスタが駆け寄ってくる。
「セネイシア閣下っ……!」
「ソ、ソフィ、ア……」
「……なんで、戦ったのですか? パトラーとあなたじゃ勝負にさえならない。それすら分からなかったのですか……?」
地面に横たわり息を荒げるヒーラーズのリーダーは、かつての戦術士に視線を移す。
「僕の、夢の終わりが、見えたから…… 僕がリーダーとして、責任取って、…死ねば、エデンやアーカイズ、レーリア、そして…ソフィアも、助かるって、思ってっ……」
セネイシアはもう瀕死だ。この様子じゃ、何の防御魔法もしていなかったらしい。……最初から死ぬ気だったんだ。ヒーラーズのリーダーとして……
「…………! セネイシア閣下っ……!」
「ごめん、ね…ソフィ――」
「ソフィア!」
クラスタが叫ぶ。ほぼ同時に、彼女はソフィアとセネイシアの前に飛ぶ。その手には剣が握られていた。
「えっ?」
大きな金属音が鳴り響く。空中で何かの衝撃を受けたクラスタが、ソフィアとセネイシアの間に倒れ込む。
「――邪魔を……」
クローンの冷たい声が広場に響く。ふと、城の中腹にあるテラスを見れば、青い服を着た髪の長い1人のクローン軍人が立っていた。――エデンだ。
「エ、デン……?」
セネイシアがテラスに視線を向ける。すると、エデンはそこから中庭にまで飛び降りてくる。静かな音と共に着地する。
「苦しむ少年を楽にしてやろうと思ったんだがな……」
恐ろしいほどの冷たい表情で、エデンは言う。ソフィアが彼女を睨み付ける。その瞳には、明らかな憎悪が宿っていた。
さっきのクラスタの剣から鳴り響いた金属音は、エデンが放った斬撃を止めた音だったんだ。斬撃の飛んでいた方向の先には――動けないセネイシアがいた。




