第19話 みなさん、気を付けてください……
【ジェネラル・シップ 前頭甲板 最高司令室】
大きな扉が左右に開く。私たちはジェネラル・シップの前頭甲板へと到達した。この大型飛空艇の最高司令室だ。
司令艦を高度に改造した将軍艦。最高司令室の造りは、軍艦や司令艦とは全く異なるものだった。この広い空間は、まるで王の間かと思うような感じだ。
低い半円状の段差が連なるその上に、背の長い白色のイスがある。そこに座るのは、メイド服を着たクローン。……第三次国際政府討伐軍総司令官にしてヒーラーズ掃討部隊管理官の魔導士フェールだ。
「ようそこ……、ジェネラル・シップ前頭甲板――最高司令室へ」
フェールが丁寧に挨拶をする。落ち着いた声に、穏やかそうな顔つきだが、何か本能的に危険なものを感じ取る。彼女は強い。戦闘士アーカイズや剣闘士レーリアに劣らぬ実力者の持ち主だ。
私たちが黙っていると、フェールはそっと立ち上がる。
「みなさん、気を付けてください…… もう、戦いは――始まってますから」
「なにっ?」
「…………!」
私がそう言ったときだった。後ろから勢いよくサファイアに突き飛ばされる。私の身体は前頭甲板の床を転がる。それとほぼ同時に、私のいた場所に何かが刺さる。
「いてて…… …………!」
「パトラーさん……!」
私のいた場所には、大きな食事用ナイフが突き刺さっていた。上から降ってきた刺さり方だ。……私の頭を狙って――
「フフ、また会ったな」
「ジャスパー!」
ヒーラーズ掃討部隊一般幹部のジャスパーだ! そうだ、彼女は大きなナイフやフォークを作り出し、それを武器に戦うクローン軍人だ。
気が付けば、フェールは目を閉じたまま、宙に浮かんでいる。ま、まさか、ゾイサイトのように私の姿をコピーするんじゃ……
「いえ、“あのコピー技はゾイサイト特有の技です”…… 安心してください」
「な、なんだ、よかっ――?」
今、私、声に出して話したっけ?
「貴女の心は、私の前では裸も同然です。私は人の心を読めますから……」
フェールは私の疑問に答えるように、言葉を発す。確かに間違いなさそうだ。それにしても、ゾイサイトといい、フェールといい、ヒーラーズ精鋭部隊の幹部は特殊魔法さえも使ってくるのか……
「クッ、なんて野郎だ!」
「ナイフやフォークを次々と……」
ルビーとクラスタの声だ。そっちを見れば、2人はジャスパーと戦っていた。辺りには槍のような食事用ナイフが何本も突き刺さっている。あっちも心配だけど、こっちも大変だ。なにしろ、フェールは上級幹部(七衛士)だ。
サファイアが素早く青色の弓を引き、勢いよく半透明状をした紫色の矢を飛ばす。空気を切り裂きながら、矢はフェールの心臓を目がけて飛ぶ。彼女はまだ目を閉じている。行けるかっ!?
「サファイアさん、酷いです」
一言、呟くと、フェールは手を上げる。その途端、白色をした魔法弾――衝撃弾が飛ぶ。衝撃弾は矢を木端微塵に砕く。矢も威力は強かった。だが、あの衝撃弾もすごい威力だ。
「私の魔法をお褒め頂き、ありがとうございます。パトラーさん……」
「クッ……!」
フェールは目を開ける。私は強力な魔法シールドを張る。何かしてくる、というのが直感で分かった。それに、彼女は魔導士。魔法攻撃がメインのハズだ。
「いい判断です……」
「私の判断をお褒め頂き、ありがとうございます。フェールさん」
「…………」
今のはマズかったか?
フェールは、白く美しい両腕をそっと動かす。まるで何かを操るかのように、変な動きをする。まさか、ナイフでも……
「“プレゼント・衝撃弾”。私はこの技をそう名付けましょう……」
「…………!?」
フェールの目の前から何発もの衝撃弾が飛ぶ。私を目がけて、次々と迫ってくる。1発目が、剣を盾に、防御態勢に入った私に着弾する。途端、凄まじい衝撃波が私を襲う。私の身体は床を転がる。強力な魔法シールドを張っているのに……!
「フェールっ! 私がいるよ!」
「サファイアさん……」
サファイアが弓を限界まで引く。3本の矢がセットされている。
「私はこれを“プレゼント・アロー”って名付ける」
「…………」
私は飛んできた強烈な衝撃弾の痛みに耐えながら、サファイアの攻撃を見守る。彼女が手を放す。その途端、3本以上の大量の矢が雨のごとく宙に飛ぶ。矢が飛ぶ瞬間、次の矢が作られ、飛ばされるらしい。
「…………!?」
今までずっと冷静だったフェールの表情が変わる。おびただしい矢が彼女を襲う。だが、フェールは魔導士。すぐに物理シールドを張り、多くの矢を防いでいく。
私は身体がバラバラになりそうな痛みを覚えながら、必死に立ち上がる。ハンド・グローブに内臓された魔法発生装置を使い、フェールの元に向かって走る。走りながら、電撃を溜める。
「はぁッ、はぁッ……! く、喰らえっ!」
私は電気の槍を飛ばす。それは、フェールの背から胸を貫く。雨のような矢と傷に気を取られていた魔導士は、私の動きに気が付かなった。何の防御もなしに、攻撃を完全に喰らう。
フェールは浮力を失い、空中からたくさんの矢が散らばる床へと、血を吐きながら倒れる。幸いなことに、彼女が倒れる直前に、矢の雨は止まっていた。
「パ、パトラー……」
「クラスタっ!」
クラスタが近づいてくる。その後ろではジャスパーが倒れていた。でも、クラスタも重傷だった。脇腹をナイフで斬られたのか、たくさんの血が流れていた。ルビーも似たような状況だった。
「み、みなさんっ……!」
「…………!」
ルベライトがたくさんの部下とともに最高司令室に入ってくる。ちょっとタイミングがまずいかも。あちこちに飛び散った血を見ながら、私はそう思った。
「ルベライト、すまない。これは……」
「あそこを見てください!」
「…………?」
私はフラフラになりながら、ルベライトが指さす方向に視線を向ける。
「なッ……!?」
ジェネラル・シップの最高司令席。さっきまでフェールが座っていた場所だ。そこに、フェールやジャスパー以外のクローンが座っていた。
「フフフ……」
「な、なんであんたがここに――!」
白いイスに座るクローン軍人は不敵に笑う。……あの経済都市エコノミアシティでも会った。戦闘士アーカイズや剣闘士レーリア、魔導士フェールら七衛士の筆頭である――
「――親衛士エデンっ……!」




