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黒い夢と白い夢Ⅵ ――漆黒の楽園――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第4章 黒の戦 ――ウォルタミア防衛師団本部要塞――
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第12話 勘違いはやめて欲しい

 それは突然だった。


「クッ……!」


 私は一瞬の出来事に、呆然としていた。


「動くな」


 クラスタの頭に押し付けられた銃口。押し付けているのは、戦闘士アーカイズだった。――クラスタがアーカイズの人質にされた。

 ハンターZ型が倒れたとき、アーカイズに大型ナイフを突きつけていたジャスパー含め、全員が気を取られていた。ヒーラーズ軍の戦闘士は、その僅かな隙を見逃さなかった。背中に背負った小型ジェット機を起動させて飛ぶと、クラスタを押し倒し、そのまま無理やり立たせ、頭にハンドガンを突きつけた。


「動いたら、この女を殺す」

「クラスタ!」


 予想だにしなかったアーカイズの行動。僅かな油断から生まれた危機。

 クラスタは私の大切な仲間だ。臨時政府のもっとも有能な指揮官でもある。絶対に失うワケにはいかない。だからこそ、アーカイズも彼女を人質に取ったんだろう。

 クリアもスギライトもタンザナイトも手が出せないでいる。アーカイズは戦闘士だ。身体能力と武器の扱いは常人を遥かに超える。ここでしくじるなんてことはない。


「……クリア、小型飛空艇を準備しろ」

「そ、そんなことできるかっ!」

「ほう、そうか」


 アーカイズはハンドガンの引き金を引こうとする。今のクラスタはシールドを張っていない。撃たれれば銃弾1つで頭が吹き飛ぶ。

 いよいよ、クラスタの死が本当になりそうな感じになってきた。私の背筋に再び冷たいものが流れる。身体が小刻みに震える。


「クラスタが死ねば、ソフィアはどうなるか。臨時政府内で居場所がなくなるだろうな」

「…………!」


 幼いクリアの表情が凍りつく。震える手で、通信機のスイッチを入れる。


「ギョクズイお姉ちゃん、小型飛空艇を準備して……」

[なにっ?]

「いいから……」


 クリアの震えた声。ソフィアのことを本気で慕っているからこそだろう。

 アーカイズがクラスタを人質に取ったまま、ゆっくりと動き出す。その目は私たちの動きを僅かにも逃さない。その動きはまさに戦闘士の名にふさわしい動きだ。

 最高指令室から廊下に出る。アーカイズの隙のない動きに、廊下のヒーラーズ駆逐兵やヒーラーズ掃討兵も手が出せなかった。

 結局、アーカイズはウォルタミア防衛師団本部要塞の屋上にまで出てしまう。屋上では、すでにギョクズイ中将によって、小型飛空艇が準備されていた。


「ご苦労、ギョクズイ」

「あんたが人質を取るとはな。ずいぶん卑怯な手だ」

「裏切ったお前たちに、卑怯などと言われたくはない」


 アーカイズはそう言うと、クラスタを連れて、小型飛空艇へと乗り込もうとする。だが、その前に、彼女は大型ナイフを持っているジャスパーの方を向く。


「……ジャスパー、お前もヒーラーズ軍を裏切るのか?」

「私はフェール閣下の弟子。フェール閣下を裏切りはしない。また、私はヒーラーズ掃討部隊所属の幹部。隊の指揮官カルセドニーさんも裏切らない」

「ほう、ご立派なことで。だが、やがてヒーラーズ掃討部隊ではなくなる。臨時政府に降伏すれば、カルセドニーは指揮官でもなくなる。それに、“給仕長”はヒーラーズ軍所属。お前がクリアやカルセドニーと共に臨時政府に降伏すれば、それはフェールへの裏切りになるぞ」

「…………」


 ジャスパーの顔に、困惑の表情が浮かぶ。このままだと、師でもある上級幹部のフェールを裏切ることになる。かと言って、ヒーラーズ軍に付けば、自身が所属するヒーラーズ掃討部隊指揮官のカルセドニーを裏切ることになる。

 アーカイズの狙いとしては、小型飛空艇を操縦する人員が欲しいのだろう。そこで、微妙な立場にあるジャスパーに目を付けたんだ。


「カルセドニーさん、あなたは臨時政府に降伏するのか?」


 ジャスパーはウォルタミア防衛師団本部要塞の屋上にいたカルセドニーに声をかける。彼女はしばらく黙っていたが、ジャスパーの問いに答える。


「――そうなるだろうね」

「そうか。では、あなたはもう指揮官でなくなる。先にお別れさせて貰う」

「……指揮官でない私が、止める権限はないよね」

「すまない。世話になった」


 ジャスパーは一言だけ言い残し、小型飛空艇に乗り込もうとする。その様子をアーカイズは笑みを浮かべながら見ていた。


「アーカイズ、勘違いはやめて欲しい」

「なに?」

「私はフェール閣下の元に帰るために、あなたを利用する。決してあなたを助けたワケじゃない。それと、私はフェール閣下がいるから戻るだけ。ヒーラーズ軍に戻るワケじゃない」

「…………ッ!」


 ジャスパーの言葉に、アーカイズの表情が険しくなる。クラスタの頭に突きつけたハンドガンの引き金を持つ手に力が入っている。だが、アーカイズは怒りを呑み込む。側を通り過ぎ、小型飛空艇に乗り込むジャスパーを見送った。


「……今度は私が私の兵団を率いて戻ってくる。首都を攻め落とし、セネイシア閣下にこの世界を献上する。世界を奪った暁には、お前たちの首を必ず斬ってやる。覚悟しておけ」


 内心、相当頭に来ているのだろう。アーカイズは声に怒りを込めながら言い捨てると、クラスタを人質にしたまま、小型飛空艇に乗り込む。

 アーカイズ、ジャスパー、クラスタを乗せた小型飛空艇は、浮かび上がり、夜空へと消えていく。私の大切な仲間が、連れ去られてしまった――

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