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魔獣と加護の力



「えっ……」


一瞬何が起きたのか分からなかった。

いきなり学園の内側から黒い物体が飛び出し、大空へ羽ばたく。

晴天な青空には不似合いなソレを見つめていると、



「魔獣だっ!みんな早く避難しろ!!」


「っ、ココっ!逃げるわよ!?」


「わっ!」


誰かの叫び声が聞こえた。

お母様は切羽詰まったように言うと私を抱き上げ、走り出す。

周りの人々も同じように逃げていた。


しかし、走り出してすぐに大きな影がかかり、思わず上を見上げた。そこにいたのは黒くて大きな鳥だった。私が今まで見た小さくて可愛い鳥とはまったく違う。鋭い嘴と爪に恐怖を与えるような目付きに怯え、お母様の洋服を握りしめた。



あっという間に街の中心地まで来た魔獣は大きな翼を使い、暴風ともいえる風を起こし、木や建物を次々に破壊していく。


私達の前になぎ倒れた木が道を塞いでしまった。お母様はすぐに違う道を探し、そちらに向かおうとしたその時、女性の悲鳴が聞こえた。



「あっ…!」


その方向を見ると小柄な女性が恐怖で腰を抜かし蹲っていた。その腕の中には小さな赤ちゃんが。赤ちゃんは泣き声をあげており、その声に反応した魔獣はその親子に近づこうとする。



「ーーーだめぇ!!」


咄嗟に私は魔獣に向かって大声をあげていた。


ピクッと身体を揺らした魔獣は私達の方に視線を向けた。ギロッと目を剥き出すようにして睨み、地面に着地する。




「フォース夫人!ご無事ですか!?」


「わたくし達は大丈夫ですので、あちらの女性と赤子の避難をお願いします。」


魔獣の背後から剣を持ってやって来たのは王宮騎士団。その内の1人がマリアンナに声をかける。彼女は魔獣の視線を外さないまま、冷静にそう告げた。



「しかしーー、」


「早くして下さい。迷ってる時間はありません。」


騎士の言葉を断ち切り、ぴしゃりと言い放つマリアンナ。実際、マリアンナとココティアーナの周りは倒れた木や崩れた瓦礫で道を塞がれており、追い詰められていた。彼女と会話した騎士は、一番危険な状態である公爵夫人と令嬢を優先しようとした。しかし、マリアンナの言葉に彼は別の騎士に指示を出し、端で蹲る親子を避難させた。



『ギュルルルッーー』


魔獣は唸り声をあげる。それは何かに苦しんでいるようにココティアーナは思えた。


すると、騎士らは魔獣の注意を自分達に向けようと攻撃をしかける。剣を振ると、鋭い風が魔獣の身体を傷付けた。


 ーーすごい。剣はただ斬るだけでなく、魔力を剣に纏わせて攻撃することが出来るんだ。



初めて見たココティアーナは目が釘付けになる。だか、魔獣はあまりダメージを食らっていないようで、



「くっ…!なかなかしぶといな。こいつは一体……、」


「魔法学園の教師による情報だと、Bランクらしい。」


「デュラン団長!Bランクって、かなり上位の魔獣ではないですか!?」


「あぁ、普段は実技の為に学園が調教して、管理を行なっている。だが、何故か暴走をしてしまったようだ」



どうやらこの王宮騎士団を取り纏める団長ジャック・デュランが合流したようだ。騎士らとは少し違う服装を身にまとい、スッとした切れ長な瞳は冷静に周りの状況を見つめる。



「俺が最初に行く。その後に続けて、その隙にフォース夫人達を保護しろ」


「分かりました。」


デュラン団長の言葉に部下らは頷く。それを合図に団長は剣を抜き、構えたその時、魔獣は先程より大きく苦しそうに唸り声をあげ、処構わず、攻撃をし出した。



大きな破壊音にビクッと身体を震わすココティアーナにマリアンナはぎゅっとさらに抱き寄せ、



「大丈夫よココ。貴方のことは必ずお母様が守るわ。」


「おかあしゃま…」


安心させようと優しく微笑むマリアンナを見つめ、ココティアーナは少しだけ俯いた。



 私があの時、魔獣に向かって声を上げたせいでお母様を危険な目に合わせてしまった。



じわじわと涙が溢れそうになり、堪えるように唇を噛み締める。あの親子を救いたいと思った。でもその結果、お母様を巻き込んだ。

まだ、何も出来ないくせに勝手な事を……。



「っ、危ないっ!?」


「っ!」



騎士の焦るような叫び声にハッと顔を上げると魔獣は私達に向けて、炎のようなものを放った。目の前に広がるソレに声も出せずにいると、



「ーー水よ。我が身を守れ」


お母様はそう強く呟くと、突如水の膜が現れ、私達を包み込んだ。


魔獣が放った炎は水の膜により、蒸発していく。驚いた私はお母様を見上げた。



「わたくしの加護は水神様。守りと癒しの力を貸して下さるの。」


「すいじん、しゃま……、」


初めて見る加護の力に圧倒される。


しかし、魔獣は今もまだ炎を吐き続ける。普通ならこんなに長く吐き続けることは出来ないと思う。これがBランクの力なのだろうか。



「くっ…、」


さすがのマリアンナもキツくなってきたのか、額に汗を流す。



 こ、このままじゃあ、お母様の魔力が……!


以前、アルファが言ってた。加護の力を使用する時は本人の魔力も必要だと。



 何とかしないと!でも、私に何が出来る…?


マリアンナの腕の中で守られ、ただ見つめる事しか出来ない。自分の無力さにココティアーナはぽろぽろと涙を零した……その時、



『ぼくたちの力を使って。ココ、祈って!』



ココティアーナの耳元で聞こえた重なる2つの声。そして、限界が近いマリアンナの震える手を見た瞬間、彼女は無我夢中で祈った。



 ーーーお願い!この魔獣を助けて!!



両方の手を胸の前で繋ぎ祈ると、ココティアーナの身体は白い光を放ち、その光を浴びた魔獣は気絶した。


その時、魔獣の身体から黒いモヤが消え去った事は誰も気付かないのであった。





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