パーティー
ーーーわぁ!人がたくさん!
さすが王族主催のパーティーといった所か、多くの貴族達が会場内で待機していた。
煌びやかな装飾にテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる。
「私から離れないようにね。」
「、はい!」
ご馳走に気を取られていたら、ダンティールにそう注意され、慌てて視線を彼に向けるココティアーナ。
そんな彼女にクスクスと楽しそうに笑うダンティールの部下達。
「本当に可愛らしいお嬢様ですね。」
「閣下が愛でたくなる気持ちが分かります。」
にこにこと微笑む彼らにココティアーナは恥ずかしそうに俯き、ダンティールのジャケットの裾を掴んで隠れると、
「お前らにはやらんぞ。」
「私達のことを幾つだと思っているんですか…。」
じと、と部下に牽制するダンティールに思わず突っ込む彼らなのだった。
時間になるとファンファーレが鳴り響き、タンザナイト国の王であるクロスロードが王妃と王太子と共に姿を現す。
フォース家では楽しそうに話してたクロスロードであったが、やはり公の場では王に相応しい威厳のある顔付きと堂々とした立ち回りをしていた。
ーーー本当に王様だ。
なんて失礼な事を思うココティアーナ。疑っていたわけではないが、あの日のクロスロードの雰囲気は穏やかだったのに今はその影すら感じられない。
挨拶が終わり、フリータイムとなる。
みんな各々と顔見知りの人と会話を交わし始めた。
「ココ。お腹が空いただろう?何、食べたい?」
ダンティールの言葉に、やっほい!と内心嬉しくてバンザイするココティアーナは気になる料理を取ってもらった。
端に用意されたテーブル席に腰掛け、さっそく食べ始めると、部下の1人がダンティールに声をかける。
「すまないココ。少し挨拶をしてくるから、ここで良い子に待っているんだよ?」
「はい。分かりました!」
こくんと頷き、ダンティールを見送った後、また食べ始めるココティアーナ。
「何を召し上がってるのですか?」
「海老のクリームソースがけです。とても美味しいですよ!」
先程、ダンティールを呼びにきた男の部下が代わりにココティアーナの側に付いた。
彼はダンティール直属の部下であり、秘書の役割も果たしている。
「ここの魚介類はとても新鮮で美味しいと評判ですからね。私も後で食べてみます。」
にこっと笑顔を見せる彼の柔らかな雰囲気に緊張が解けたココティアーナは会話をしながら、ダンティールの帰りを待つのであった。
「ココ。」
「お父さま!挨拶は終わったのですか?」
暫くして帰ってきたダンティールはテーブルをちらっと見ると、ちゃっかりデザートまで頂いてるココティアーナにクスッと笑い、
「うん。後は陛下達の挨拶のみだね。その時はココも一緒に挨拶するんだよ。」
「はい、もちろんです。」
頷くココティアーナであったが、王太子の顔が頭に浮かぶと、なんだか胸がドキドキし始める。それを掻き消すように手元にあるプリンに意識を向けると、
「フォース公爵様。」
今度はタンザナイト国の人に話しかけられていた。お父さまって本当に忙しい人だな。と思いながら、プリンを口にする。
ーーーんん!おいしいっ!とろけるプリンなんて私好み!
なんて絶賛していると、
「ココ。さっそくだけど陛下達の所に行くよ。」
口端についたプリンの欠片をナプキンで拭いながら、ダンティールはそう言った。
「は、はい……!」
ちょっと待って、心の準備が……!
そんなココティアーナの心境など関係なく、陛下達の元へ向かう事となった。
ーーーーーーーーー
「やぁ。楽しんでるか?」
「はい。私達までご招待いただきましてありがとうございます。」
「お前との仲だからな。」
そう言って笑うのは王であるクロスロード。それをダンティールの横で見てたココティアーナは話の流れに乗るように、優雅にカーテシーをした後、にこっと微笑み、
「国王様。本日はご招待いただきましてありがとうございます。」
「あぁ。初めてのタンザナイトはどうかな?」
「はい!初めての海にとても感動しました!」
「そうか。あの海岸は私も気に入っていてね。時間があったら、足でも浸かってみるといい。」
そう言って、ココティアーナの頭を撫でるクロスロードに周囲は一瞬、騒めいた。
「ロードから話を聞いてたけど、本当に可愛いお嬢様ね。」
「あ、ありがとうございます…!わたくし、ココティアーナ・フォースと申します。お会い出来て光栄でございます。」
ココティアーナは深々と礼をした。そんな彼女を褒めたのはクロスロードの妻であるペルル・タンザナイト。背中まである空色のウェーブヘアはサイドにゆったりと纏められ、そこ散りばめたパールとラメがキラキラと光り輝く。そして、マーメイドラインのドレスを美しく着こなし、優しく微笑むペルルは実は人魚姫なのでは…、と思うぐらい綺麗な王妃であった。
ペルルと挨拶してる間も見惚れるココティアーナに、ふふっと小さく笑った彼女は、
「ほら。トワも挨拶なさい。」
「!」
ペルルの言葉にどきり、と脈打つココティアーナ。彼はゆっくりと前に出て、
「……初めまして。トワズロード・タンザナイトと申します。お会いするのを楽しみにしてました。」
にこっと微笑むトワズロード殿下。
ネイビーブルーのチェック柄の3Pスーツにブルーグレーの蝶ネクタイ。ブラックネイビー色の髪の毛はパーマを生かし、全体的にふわふわとした無造作ヘアだった。
「嬉しいお言葉をありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
目が合い、ドキドキと鼓動が止まらず、それを必死に耐えながら挨拶をなんとかこなした私。
ーーー初めまして。って言ったけど、もしかして誰にも言わないでいてくれてるのかな?
お父さまと挨拶を交わす彼を見つめていると、不意に目が合ってしまった。
「っ!」
「……、」
ぴくっと驚く私にトワズロード王子は一瞬目を丸くしたと思ったら、ふっと目を細める。その表情は同じ5歳児とは思えない色気を出し、
「父上。ココティアーナ嬢に庭園を見せてきてもいいですか?」
「うちの方のか?」
「はい。」
「いいよ。念の為、サイを連れていくように。」
クロスロードがそう言うと、くるりと振り向いたトワズロードは手を差し出し、
「ココティアーナ嬢。僕と一緒に庭園に行きませんか?見てもらいたい花があるんです。」
「え、えっと……」
ちらっとお父さまを見上げると、行っておいで。とでもいうように小さく頷いたので私は殿下の手を取り、
「はい。是非ご一緒させてくださいませ。」
「よかった。それじゃあ行こう。」
トワズロードは手を繋いだまま、ココティアーナと護衛騎士のサイを連れて、会場を後にした。
その一部始終を見ていた貴族達は内心驚愕していた。この夜会は王族、または王族から招待された者を除く、12歳未満の者は参加することが出来ない為、王太子に自分らの子供と直接会わす機会は中々ない。
ーー娘には王太子妃を。
ーーー息子には側近を。
そう願う親達が少しでも繋がりを持とうと、王太子に積極的に話しかけるのだが、結果が乏しくない。何せ、王があの切れ者のクロスロードだ。血を受け継いだ王太子も5歳ながら聡明であり、あのルックスと柔らかな笑顔で鮮やかに大人の欲心を躱してしまう。
そんな心境の中でのパーティーでまさか他国の令嬢が王族から招待され、王太子と良い雰囲気に、しかも王太子自らエスコートして会場を後にしたのだ。
そこでひとつ浮上したのは、
ーーー他国との婚約。
それが王族同士ならよくある話だが、公爵令嬢となると不満に思う者も現れるであろう。しかし、ルピシル国のフォース公爵家といったら、タンザナイト国では知れ渡った家名であり、故に外交での交流はとてもやり易く、信頼が厚い。恐らく、反対派は少ないだろう。
はぁ、と貴族達は淡い希望がなくなったかもしれない。と溜め息をつくのであった。




