第33話 覇王
「分かる、分かるよ
その気の満ち方……
君は僕の見て来た、今までの中で
一番のやる気を出している
それが本気か」
「本気に近いな
俺は初めて、ここまでキレてる
タンコブ一つじゃ済まさねぇぞ」
起き上がり、面と向かうは
地下の礼堂、その場所で
柳犁、ただのムカつきで
グレイブを、ここに敵とする
「絶・亜空覇刃……」
<ドクン>
俺の能力では切れないっていう、その能力よぉ……
それでも、物理攻撃ならダメージはあるんだよな
だったら、俺は切らねぇ
「解空、鎖惨襲乎」
<グワン>
なんて、切りはするがな
この空間を、程よいサイズ感で
だがそっから出てくんのは、必ずしも
ここにあるものじゃあ、ない
<ギュルルルルルルルルル>
柳犁が切り裂いたのは、空間
現世と、自らの空間との境目を切り裂き
自空間に詰め込められた、鎖を
グレイブへと解き放つ!
<バッシィ!>
だが命中はしない!
再び、柳犁の放った攻撃は
グレイブに当たる直前で、一気に軌道が逸れた!
………………チッ、こいつも能力判定かよ
なるほど、グレイブさんの能力の前じゃあ
この能力で出した物も全部、支配の対象
この刀でぶった切ることも、鎖でぶっ潰すことも……
不可能!俺の攻撃を、当てることは叶わないってのか
てこたぁ、この喧嘩
グレイブさんをぶっ飛ばすにゃあ……
「あは、君の本気はその程度か!
まるで茹でられたパスタのように
軽く軌道を曲げられたぞ!
だから言っただろう……僕の能力の前では
君の能力は、無力とな……」
「オラ」<バギッ>
「あペルッ!」
殴ればいい
別に俺の筋力は、能力とかそんなんじゃない
だからほら、俺のパンチは
軌道を曲げられることなく、グレイブさんを殴れた
「そ、そうか……
君は、オルテンシアに教えを受けた身
なら、彼と同じ攻略法で挑んで然るべきだ
それもこの短時間で……全く同じ
物理攻撃での攻略法を思いついたのかぁー!」
物理攻撃が効くんならよぉ……簡単だ
俺のやるべきことは、ただ一つ!
とことん、ぶん殴る!
瞬間!即座に灼羅桜邏を投げ捨てた柳犁は
その素手の届く距離まで、一気に……
<ヴィシュン>
瞬間移動!
だが一歩、グレイブには届かない
強制的に一歩手前で解除された?
これも、グレイブの能力の影響か
そう考えもするが、柳犁は止まらない
ともかくその一撃を、ぶち当てる為に
そのまま突っ込む!
「ウォラ!」
力いっぱいに、全力で
今度こそ当たれば
グレイブの首など、簡単に吹き飛んでしまうような
それだけの威力を持つ拳を、躊躇なく振り回す
「いや、危ない!」
流石に拳速は、剣速を下回るのか
まだ悠に躱す事の出来ているグレイブ
しかし攻撃を2発、3発と躱されていくにつれ
かすりもしないことに、腹を立てた柳犁
そして柳犁は、少し無茶をすることにした
当たらねぇんならよぉ……攻撃を
当てるしかねぇよなぁ!
じゃなきゃ勝てねぇからなぁ!
当たらねぇことに躍起になるな
意地でも当てろ!
それが俺の、成せる道
<ガッ>
蹴った、その地面を
抉れるほど強く
そして同時に、加速する
身体中の力で……柳犁の拳が
光速を超える!
<ボギラ>
「……ッ!?」
直撃……
柳犁の拳は確実に、グレイブの腹を貫いた
「カッ……これは、瞬間移動並みの速度
そうだったね、あのオルテンシアのことだ
自らの能力が成せる物、以上に
その肉体を鍛えさせる……
喩え自分の能力にだろうと
自分自身が劣ることを許さない
そんな男の元で、戦って来たのだから」
「長い
一発貰ってんだからよぉ
そんなどーこー喋ってねぇで
とっとと倒れちまえ」
「いや酷くない
あまりにもそれ、酷すぎない」
常人が喰らえば、腹に風穴も開こうか
そんな一撃を喰らいながら
笑って、未だに原型を留めるグレイブ
そのグレイブに追い討ちをかけるか
柳犁は露骨に態度に示す
早く、くたばれと
「それなら、よ」
<バギィ>
「ウベッ!」
否、態度だけではない
更なる追い討ちには、左アッパーカット
これを顔面に喰らったグレイブは
血反吐を吐いていて、結構効いたらしい
「柳犁君……流石に、そろそろ僕死ぬよ
なんか、思う所があって
こんなこと……
やってくれてるのかも、知れないけど
僕死んだら取り返し付かないよね」
「死ノーがなんだろうが
ウダウダ悩むよかマシだ
そして俺は、それを見ずに済む」
悪魔の所業だよ……
この人、結局の所全行為が
”自分勝手”
柳犁君の行動理念は、衝動
今回だって、僕のことを心配しているなどと
口には出しているが……
ただただ、僕がウジウジしていることが
気に食わないだけの……
ムカつき
だからぶん殴ってでも
強制的に、僕を黙らせようと
魔王……悪魔より、魔王
この人魔王だよ、悪の根源
わがままの化身!
そんなんだったのか……
僕の知らない、柳犁君の本質は
いやむしろいいな
それはつまり、僕がいくらふざけようとも
彼だけは……誰よりも全力で
僕に突っ込んでくれるのか!
「分かったよ柳犁君
僕が悪かった
もう、悩むなんてしないから
今度は平手でビンタを所も……」
<ベチィ>
「あん……」
グレイブ、ここに倒れる
「ま、安心してくれよ
グレイブさん、アンタの悩みの種は
俺がどうにかする」
グレイブさんをこうまでしたのは
たった一人……娘さんの為
泣ける話じゃねぇか
過程はどうであれ……
そこまで娘さんに尽くせるんなら
俺も無下には出来ねぇよ
アンタの守ろうとしたもん
そいつら全部ひっくるめて
俺が背負ってやる……
だからもうアンタは、悩まねぇでくれ
たった一人で背負いこまねぇでくれ
ここには俺がいる
少しは……頼ってくれても良いだろうに
腹立つんだよ
俺の力が、馬鹿にされてるようで
俺の一切が、否定されてるようで
だから少し殴りもしたが
許してくれ
「女神共ぶっ飛ばしてよぉ
無理矢理にでも、言うこと聞かせりゃあ
その娘さん、助かるんだもんなぁ」
意識は有った
柳犁君に殴り飛ばされようとも
僕の意識は、はっきりとそこに有った
ごめんね、柳犁君
君が腹を立てていたのは、僕にじゃないんだね
君が腹を立てていたのは、この世の不条理
皆が当たり前だと、受け入れてしまっているような
そんなことに対して、馬鹿正直に怒れる
それが君なんだね
でもね、そうだとしてもね
ビンタの威力、強過ぎ
魔王!
この男、グレイブは
柳犁のことを、魔王と呼んだ
否!
天理柳犁とは、残虐非道の魔王に非ず
天理柳犁とは、傍若無人なる
絶対の『覇王』なるぞ!
その覇道を遮る障害を
還付無きまでに叩きのめし
自らの思考のみを、至上のものとする
俺が正しいのだ
俺の歩みを邪魔するな
それが柳犁の、生来る運命!
いや、意味分かんない
さっきからなに好き勝手
人のことを散々に言ってくれてんの?
だから、初期構想なんて忘れ去られるから
物語進んでぐごとに、自分の考えと異なるんだって
だからって無理矢理、そんなナレーションでねぇ
こじつけられてもねぇ
こっちも順応出来ないんですよ、それ
まっ、傍若無人の覇王って肩書は気に入ったから
名乗りぐらいには、使わせてもらおうかね
さてと、ここは一旦切り替えて
「つーことでグレイブさん
娘さんの側に居てやんな
そっちの問題は全部
俺が解決して来てやっからよぉ」
「うぅ……ありがとう柳犁君」
涙を垂れ流すグレイブ
それは嬉しさからか、はたまた
痛みに対しての涙なのか
たが、そんなことはどうでもいい
柳犁は新たに、その目的を見据え
女神共の居城へと、殴りこむ覚悟をした
「おっと、そういやグレイブさん
俺、女神共がどこに居るか知らねぇんだ
アンタなら場所、どこか知らないか?」
「あっ、それならあそこ
外出てすぐ、見えると思うんだけど
一番大きな城……この国のお城に
女神及び、その配下が揃っている……」
「お城……ねぇ」
「柳犁君……くれぐれも気を付けて
あそこにはまだ、別格の連中が居るんだ
自分の命だけは……大切にして
なにがあっても、死なないで
また僕の前に、元気な姿で来てね」
「グレイブさん……」
ああ、約束するよ
今度また、皆揃って仲良く
酒でも酌み交わしましょうや
「おやおやおやおや?
なーにをやっているかなー、グレイブ氏」
「そこの天理柳犁を、見逃すというのかね」
………………
この気配、何故今まで気づかなかった
こんなにも近くに、もう
野郎が迫っていたのによぉ!
「やはり人間では信用ならん
異種より同種
自分達の力ってのが、一番
信用できるものだよね
僕ら、魔神の力がさぁ」
「ウル・キース!!!」
次回へ続く
次回 最悪の三人 その1




