表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

お母さん

「お兄ちゃん、起きて。」

『どうした…急に起こしたりして…』

私はお兄ちゃんにカレンダーを見るように伝えた。


昨日はまだ3日だったのに、一睡しただけで13日なってしまうなんて…。

そう、お母さんの命日の日付になってしまった。


私たちは急いで居間へと向かった。

すると、お母さんは台所で朝ご飯を作っていた。

「あなたたち、いつもより早く起きたのね。」

私はお母さんに、

「お母さん、今日お母さんどこに行くの?」とだけ尋ねてみた。

お母さんは、

「今日は夕方に買い物に行くぐらいかしら?どうかしたの?」

と不思議そうな顔をしていた。

すると、お兄ちゃんが、

「俺も買い物付き合っていい?たまには親孝行したいし」

と言い出した。

私も行く、と言おうとしたが、お兄ちゃんは首を縦に振らなかった。

昼間は本当に何もなかった。

夕方になり、お母さんとお兄ちゃんは買い物に出かけた。

これでお兄ちゃんだけ帰ってくれば正解というか、現実世界に帰る道が近くなる。

私はすごく残酷なことを実の親にお願いしているようで、罪悪感に心が苛まれていった。

しかし、お兄ちゃんはお母さんと帰ってきた。

「ただいま」

お兄ちゃんは笑っていた。

「やっぱりお母さんは死ななかった。僕たちが間違っていたんだ。」

お兄ちゃんはそのまま自分の部屋にこもってしまった。

「おかえり、お母さん。」

私もお母さんの顔を見て、いてもたってもいられなくなった。

「二人ともどうしたの?荷物を冷蔵庫に入れるのを手伝ってくれる?」

私は止めどなく流れる涙を必死に抑えながら、買ってきた食材を冷蔵庫に入れた。


その夜、貴以は再び現れた。

「浮かない顔をしているね?何かあったの?」

貴以は、私にそう言った。

「貴以は何か知っているんじゃないの?どうして何も答えてくれないの?」

私は思わず声に出していってしまった。

「知っていても僕は君に話すことは何もない。話せないんだ。」

「どうして、話せないの?」

「じゃあ、これだけ言うね。僕は君の命を握っている人を知っている。

でも、誰が握っているかは僕の口からは言えない。」

「私の命を握っている?どういうこと?」

「僕…は…あ…世」

何かを訴えているようだったが、まったく聞き取れなかった。

「とりあえず、君は前へ進むしかないんだ。」


貴以の気配が途切れた。

「おい。」

後ろにお兄ちゃんがいることに気が付かなかった。

「何。」

「お母さんが下で呼んでる。」

「分かった。」


下に降りると、

「ご飯出来たわよ、早く食べちゃいなさい。」

私は、お母さんの言葉も聞かず、ただ無心にご飯を食べた。

「そんなに勢いよく、ご飯を口の中に入れたら、のどに詰まっちゃうわよ。」

「そうだぞ?そんなに勢い良く食べなくても大丈夫だぞ?」

とにかく無心になって食べていたので、お兄ちゃんが隣にいたことすら気がつかなかった。


その夜、私はまったく眠りにつくことが出来なかった。

そして、自分の母親が生きている、その事だけをただただ呪った。


そんなことを想ってはいけないと分かっていても、やはり元の世界に戻りづらくなっていると想っていると、心が苦しかった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ