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SSR武将に転生した腐女子ですが、見る専なのでおかまいなく  作者: Techniczna
第一章 この世界のBLは間違っている
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一四 小姓のお仕事

 ブックマーク&評価ありがとうございます。更新が遅れて申し訳ありませんが、次回も一週間後、12月5日0時に投稿予定です。

 それから三年の月日が流れ、天文十五年(一五四六年)、重郎左と犬千代は数え十歳になっていた。

 三歳年上の吉法師は数え十三歳になっており、そろそろという事で弾正忠信秀の居城である古渡城(名古屋市中区、現在の地下鉄東別院駅あたり)で元服をする段取りとなった。

 

 那古野城は明日の出立の向けて、近習衆が慌ただしく準備をしている。

 犬千代が主殿の裏に隠れてサボっていると、そこにかっぽかっぽと馬に乗った重郎左がやってきた。

 馬はかなり小さく四尺三寸ぐらいしかないが、この時代だとこれでも標準の範囲に入る。


「犬千代驚け。なんと私もついに馬に乗れるようになりました!」

「いや、これ、乗れているうちに入らないからね!?」

 

 冷静なツッコミに重郎左がふくれ顔をする。馬をそこらへんの木につなぐと犬千代の隣にちょこんと座った。馬はそれを良い事に下草をはむはむと食べ始める。


 重郎左は相変わらず小柄で身長も四尺足らず(一二〇cm弱)しかなく、体型も華奢である。表情も仕草も無駄に可愛く、犬千代はしばしば男子だという事を忘れてしまいそうになる。

 一方の犬千代は既に四尺六寸(一四五cm)ある。並んで歩くと完全に男女の身長差だ。


「まだ速歩はやあしまでじゃないか。この間も駈歩かけあしになったら死ぬ死ぬ助けてって大騒ぎして、馬廻衆や足軽衆に大笑いされてたろ」

「べ、別に、古渡にたどり着けさえすれば良いじゃない」


 出立先の古渡城は那古野城から南に一里(四km)の距離。

 徒歩の者も大勢居るので、馬に乗ったから早く着くというわけではないのだが、徒歩より楽であるし、何より犬千代も勝三郎さんも馬に乗るというのに、自分だけ徒歩だとカッコがつかない。

 犬千代も勝三郎さんも小姓だが、共に俸給五〇貫(一〇〇石相当)の上士扱いである。重郎左も然り。上士が馬に乗れず、徒歩とかあり得ない。


 だから重郎左なりに頑張ったのだ。

 別に、犬千代みたいに駈歩かけあし状態で矢を射ったり、槍をぶんぶん振り回したりするのを目指してるわけじゃない。

 目標をほぼ達成して、成長を褒めてほしかったのに、酷い物言いだ。


「何なら、俺の前に乗るか?」

「勘弁してよ、また侍女さんたちがあらぬ噂を立てるでしょ」

「そうしたら、害虫除けになって良いじゃないか」


 犬千代はそういって、わははと笑う。


 確かに城内にも自分を狙う輩が少なからずいるという、ぞっとしない話がある。

 もちろん、侍女が小姓を戯れにみたいな話ではなく、れっきとした男性陣が白羽の矢を引き絞っているという。

 小さい頃は笑い話で済んだが、そろそろ、そういうことが有ってもおかしくはない年齢に差し掛かりつつある。

 勘弁してほしい。何度も言うが、自分は見る専なのだ。当事者になるなんて考えただけでもおぞましい。


 正直、この話は続けてほしくないので、重郎左が無理やり話題を変える。


「吉法師様が元服されたら、自分達も小小姓(見習い小姓)になるんだっけ?」

「そう、主君と遊ぶだけで給料がもらえる気楽で夢のような御伽小姓の生活も、あとわずかなんだよなあ」


 犬千代は大げさに溜息をついて残念がって見せる。


「人数も三人程度じゃ全然足らないし、俺たちがいきなり正規業務やるのは無理だから、当面サポートの小姓が何人か付くはずだ。岡田助右衛門さんとか、千秋四郎さんとか、佐々孫介さんとか、そのあたりかな。その人たちから仕事を教わりつつ、業務をこなしていくことになる」


 ん?と重郎左が訝しげに聞く。


「仕事と言っても身の回りの世話と護衛だけじゃないの?」

「護衛一つとっても、常に最低二人付き添わなきゃいけないからね。他にも取次と呼ばれる文書の処理があって、元服前の子供だと正直荷が重い」


 小姓というと、森蘭丸のイメージがあまりに強くて誤解されがちだが、正規の小姓は元服した大人が主戦力で、二十代もいれば三十代も居る。

 元服前の少年小姓も居るが、あくまで小小姓と呼ばれる見習いの立場だ。


「文書処理って?」

「…具体例出した方が良いな。例えば、自分の城の城壁が崩れたから修理したい。勝手にやったらアウトなのは分かるな?」

「事前に、主君にお伺いを立てなきゃいけない」

「そそ、下手に手続き踏まずにやったら、無断で軍備している、つまり謀反の計画ありと見なされ、処罰の対象となる。で、そのお伺いは文書でやるわけだ。『城壁崩落故、修理したく候』みたいな書状を作って提出するわけだな」

「ふむふむ」

「で、その書状を主君に届けて許可をもらうんだが、使いの者が直接主君に会って手渡せるわけじゃない。そもそも主君に拝謁できる人ってのがめちゃくちゃ限定されている」

「近習って奴?」

「そうそう。厳密に言えば、近習は主君に拝謁できる権限をもつ家臣の中でも常勤の人たちだな。小姓とか御伽衆とか祐筆とか。で、使いの者は書状を主君に直接渡せないので、小姓に取り次いでもらわなきゃいけない。しかもやりとりする家臣によって、担当小姓が決まっている。例えば羽柴秀吉なら掘秀政というように」

「なんか文書決裁みたいね、うーん、でも」


 重郎左は疑問に思ったことをそのまま聞いてみる。


「文書の取り次ぎだけだったら、決裁箱に放り込むみたいなルールにすれば良いんじゃないの?人員削減にもなるし」

「めくら判だったらな」


 と、犬千代は肩を竦める。

 めくら判というのは役人用語で、書類を精査しないまま承認することだ。


「例えばさ、文字通り『中村区役所南外壁の修理を実施します』の一文だけで区長決裁下りると思うか?」

「降りるわけないじゃん。修理事業の概要説明とかその事業を行う経緯や理由とか、予算とか、工期とか、業者の選定方法とか、補助金の有無とか広報手段とか、一発目の決裁だとしてもそれぐらいは必要でしょ?」

「同じことだよ。書状を受け取るだけじゃなく、それを小姓がチェックするのさ」

「ええー、じゃあガチの行政職じゃん」

「そういうこった。主君は忙しいから、小姓が内容を確認し、意思決定できる状態にしてからはじめて主君に取り次ぐわけだ。そして不備や疑問点があれば使者に問いただし、確認が出来なければ文書差戻になるわけだな。しかも、各武将の取次をどの小姓がやるか、担当が決まっている」

「主君への決裁ルートに小姓がいるようなものだね」

「そう、だから羽柴秀吉は掘秀政にワイロ送りまくったわけだ」

「あー、なるほど」


 担当小姓がヘソを曲げると、重箱の隅のような不備や文字が読めないとかの言いがかりで書状を通してもらえなくなるみたいなこともあるのだろう。


「あともう一つ、文書の発出もある。こちらの方が大変かもな」


 主君の命令を家臣に届けたり、領民に周知したりする仕事だ。


「発出といっても、文書は主君が直接作成するじゃないの?」

「うーん、そうだな…」


 犬千代は少し考えてから、説明を続ける。


「その主君が作成する文書は、言わば法律や政令や規則だ。でも、それだけじゃ行政事務できないことも多いだろ?その法律や規則の補足や解釈を説明した文書番号付の事務連絡とか、要領・要綱とか、QAとかの付随文書がつく」

「うん」

「その付随文書を小姓が作る」

「えー、大変だ」

「万事に精通していなきゃいけないし、何より主君の意図や考えをしっかり把握していなきゃ務まらないな」

「でも」


 重郎左は前世の経験に照らし合わせ、疑問が浮かぶ。


「小姓って言わば本庁職員みたいなものでしょ?ずっと本城にいるわけで、現場の状況や運用実態を把握していなきゃ、補足とか解釈とか適切に書けないと思うんだけど」


 国の省庁や市役所本庁が現場の事理解せずに的外れな指示内容して来るのは良くあることだ。


「まあ、そういう側面は少なからずあるんだろうけど、経験でカバーしたんだろうな。あと主君の命が適切に遂行されているか監査的なこともやっていたらしいから、現場の状況が全く分からないってことでもない」

「監査は目付の役割じゃないの?」

「目付は軍事面というか反乱起こさないかどうか確認する監視役だから。監査的な事も含め全般こなすようになったのは江戸時代に入ってからだな。あと、話の続きだけど、専門分野なら御伽衆という顧問団に聞くという手もある」

「ああーなるほど」

「前世で言えば、顧問弁護士とか、各種審議会とか、CIO補佐官とかだな。茶会を開く際の留意点とか、日常業務の積み重ねで習得できるようなものじゃないし」

「ふーむ、でもそうやって考えると」


 重郎左は口に手をやり、考えるようなポーズをとる。


「小姓の仕事って、前世の公務員行政職の仕事と大して変わらないね。なんか普通にやれそうな気が」

「ふむ。楽勝とは言わんが、OJTで何とでもなりそうではあるよな」


 意外に二人にとっては天職かもしれない。


「でも身の回りの世話や護衛は以前の職務には無いか。身の回りの世話はともかく、護衛はやれる自信が無いなあ…」


 犬千代は前世で自衛官をやっていたこともあるから、そういうボディーガードは問題ないだろう。うらやましい限りだ。 


「そうでもないぞ。以前保険年金課に灯油まかれたときに、全員で課長守って暴漢取り押さえたろ?」

「いや、あれ正規の業務でも経常業務でもないからね!?」

「まあ話を聞けって。で、その時亜希子さん一一〇番通報したり警備員呼んでくれたじゃん」

「うん」

「それでいいんだよ。正規の小姓は必ず最低でも二人一組で行動するから、吉法師様の守りはもう一人に任せて、馬廻衆を呼びに行けばいい。まあ体格とかもろもろで、実際そういう役割分担になるだろうし」

「あー、なるほど」

 

 それなら何とかなりそうだ。

 だが、小姓を務めるにあたって最大の懸念点がある。重郎左は意を決して聞いてみることにした。


「…えーと、夜の方面の業務は」

「護衛は就寝中も例外じゃないから、二人一組で交代制でやるぞ」

「いや、その、そっちじゃなくてですねえ」

「あー」

 

 重郎左はのの字を書いている。その様子を見て、犬千代は察した。察してしまった。


「おかしいな。腐敗臭がしてきた」

「茶化さないで!真面目に聞いてるんです!」

【解説】

 中世の武士は軍人であるとともに官僚でもあります。小姓はボディガード兼秘書であり、大きな権限を持っていました。

 次回はお待ちかね(?)のBLの話、ちょっと癖のある内容になります。

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