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SSR武将に転生した腐女子ですが、見る専なのでおかまいなく  作者: Techniczna
第一章 この世界のBLは間違っている
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一二 縁組(前)

 ブックマーク&評価ありがとうございます。一身上の都合で次回は一週間後、11月22日0時に投稿予定です。

 それから一か月後である。梅雨が開け、蝉の声がうるさい。


 かくして、前田犬千代との同棲生活が始まったわけだが、所詮は数え六歳、満年齢で言うと五歳の子どもである。 

 何か起こりようもあるはずがなく、当の犬千代も初日こそ衝撃のカミングアウトをしてくれたが、その後何かアクションを起こすような事は無かった。

 若干肩透かしの感はあったが、それでも毎日一緒に過ごしているだけあって、前世に比べて犬千代――啓介との距離感は各段に縮まった。

 それは男女ではなく、年相応の男友達としての関係であり、重郎左は何でも気安く言い合えるその距離感が嫌いではなかった。


 犬千代は、重郎左の前だと前世の啓介と同じぐらい饒舌になるが、他の人がいる時は最低限しか喋らなかった。

 といってもコミュ力が低いわけではなく、自分から余計な事を言わないだけである。


「べらべら喋るとボロが出るからな。元服するぐらいまでは大人しくしてるわ」


 とは、本人の言。まるで重郎左がボロを出しまくっているような言い草で感じが悪い。

 そして、犬千代は数え六歳としては発育が良かった。一歳年上の勝三郎さんや三歳年上の吉法師様と遜色ない体躯である。


 吉法師様は、これで自分が大好きな相撲の対戦の組み合わせが増える、と最初は非常に上機嫌であった。

 そう最初だけは。




 というわけで、重郎左は最初から観戦モードを決め込んで、褌姿の美少年達がわちゃわちゃ対戦しているのを「眼福眼福」と堪能しているところである。

 

「姫もやれい」

「吉法師様や勝三郎さんですら勝てないのに私がやっても勝負になりません。それに私は姫ではありません」

「で、あるか」


 重郎左はご機嫌であったが、隣の吉法師様は不機嫌であった。重郎左の事を「姫」と揶揄する時はめちゃくちゃ機嫌が悪い時である。

 それもそのはず、犬千代は二人相手にずっと勝ち続けている。

 勝率は八割以上だが、結局負けず嫌いの二人が「勝つまで止めぬぞ!」モードに入って、犬千代が面倒くさくなった時だけしか負けていない気がする。

 つまり実質全勝である。


「うわあぁ」


 今も突進した勝三郎さんが犬千代にバランスを崩されて地面に引き倒されたところである。

 力任せに当たろうとすると、変化やスピードで攪乱され、逆に変化を狙うと落ち着いて対処され、力で突き飛ばされる。どうしようもない。


「もう一回だ!」


 普段は温和な勝三郎さんだが、何度も投げられて全身砂まみれであり、完全に頭に血が上っている。

 犬千代はというと、すまし顔で息一つ乱していない。元自衛隊員とはいえ、ここまで差が出るものなのか。


「大秋の若子もやろうぜ」

「へ、私?」


 勝三郎さんを下手投げで放り出したところで、犬千代が声をかけてきた。


「いいです、私は見る専なので」

「やれい」

「やりましょうぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください、自分で脱げますから、ひええー」


 いつものように勝三郎さんが強硬手段に出た。重郎佐の服を脱がすスピードが日に日に早くなっている気がする。

 あううーと涙目になりながら女の子座りで上半身隠している重郎左に、犬千代が呆れ顔で「はよ蹲踞そんきょしろよ」と急かす。


 重郎左が嫌々立ち合いに応じ、犬千代に突進すると、犬千代はそのままガシっと抱きとめて、そのまま吊り上げる。


「軽いなー」

「は?ちょ、ま、待って!」


 ただでさえ褌姿でほぼ全裸なのに、密着状態で抱き合げられてしまいパニック状態になる。前世がアラサー喪女だった重郎左にこの突発イベントはキツ過ぎる。

 そのまま吊り出しで瞬殺と思いきや、なんと犬千代はベアハッグ状態を維持したままぐるんぐるんと回転しだしたのだ。


「ぎゃー」


 これはあれだ、クリスマスとかにバカップルが名駅のイルミネーション前でやってるあれだ。ついに私もリア充仲間入りかー。

 重郎左は目を回しながら、そのまま土俵外に放り出されて気絶した。

 


 


 翌日、重郎左は日の出前の早朝に目が覚めたが、犬千代は既に部屋に居ない。

 中庭に出てみると、犬千代が筋トレを行っていた。

 

「おはよう、いつもの日課?」

「ああ、もうすぐ終わるところだ」


 既に犬千代の体からは湯気が出ている。どれだけ厳しいトレーニングなのかさっぱり分からないが、そこそこの運動量なのだろう。


「相撲強すぎじゃない?」

「ああ、自衛隊格闘術に相撲の要素もあるからな」

「ずるい、転生チートって奴だ」

「ちげえよ。まだ全然前世のイメージ通りに体が動かない。だから少しでも近づけようとしてるんだがな」


 トレーニングを終えた犬千代は手拭いで体の汗を拭きはじめた。

 確かに、重郎左もこちらで目覚めてすぐの時は、立ち上がったり歩いたりも出来なかった。体が違うせいか、前世で幼児期に習得した「立ち上がる」「歩く」と言った基本動作すら学びなおさなければならず、苦労した覚えがある。

 もちろん犬千代が言っているのはそんな低次元の話ではないのだが、この世界でもう一度最初から習得しなおしという事には変わりない。


「まあ、一応格闘術の指導教官やっていたし、知識や立ち回りもあるから、元服前の子供には負けねーよ。相撲でも刀でも槍でも」

「刀や槍も?」

「銃剣格闘や短剣格闘もあるから」

「やっぱりチートじゃん」

「チートじゃねえよ。お前もこっちでは男なんだから少しは鍛えろ」

「私は文官志望だから」

「石田三成や小西行長やも安国寺恵瓊みたいになりたいと?」


 なんか前もこんなやりとりあったなあ。


「石田三成が槍の達人だったとしても関ヶ原の結果は変わらないよ。屁理屈だよ」

「む」

「それに、目立つ行動控えるって方針じゃなかったの?」

「前田利家は武辺者だから、そっち方面でいくら目立っても史実通りでノーカンだろ」

「なにその後付けルール、自分だけずるい!」

「ずるくねえよ、それよりお前こそ自重しろよ。この間の林家老の件とか」




 この間の件とは、三日前ほどのことである。

 林新五郎さんの講義は普段は中国や日本の古典を読むだけの退屈なものであったが、その日は実践的な経済政策の話だったので、重郎左は俄然やる気になっていた。


「では海路と陸路、どちらが優れていますか分かりますか?」

「海路です!」

「して、その理由は?」

「うーん…分かりません!」

 

 勝三郎さんが大声で悪びれなく答えたので、新五郎さんは顔をしかめた。勝三郎さんは体を動かすのは好きだが、学問は少々苦手である。二択なのであてずっぽうで答えたのだろう。その度胸やよしと吉法師様が笑っている。


「犬千代殿はどうですかな?」


 犬千代は無関心を装っていたが、仕方なく口を開いた。彼は講義の場でも基本尋ねられないと答えない。


「海路です。陸路では荷馬になりますが、運べる量には限りがあります。尾張の国は河川が縦横無尽に流れており渡河に時間がかかります。また主要街道上では国人領主が関所を設けており妨げになります。海路にはそういう制約はありません」

「そのとおり」


 新五郎が満点解答だと満足げに話を打ち切ろうとしたところで、吉法師様が横槍を入れた。


「いや、和子はどう思う」

「へ、私ですか?」

「答えい」


 きょとんとする重郎左を吉法師様が促す。


「えーと、時と場合によります」

「ん、どういうことですかな?」

「だって、長島(三重県桑名市)の一向宗が河口を封鎖したら、そもそも津島まで荷が届かないじゃないですか」

「は?」

「あ?」

「ほう」


 三者三葉驚いた顔をしているが、一番唖然としているのは新五郎さんだ。


「長島の一向宗は津島七党の服部殿が抑えている。心配ござらん」

「でも戦国の世ですから敵に回ることもありますよね」


 現に、長島の一向宗は後に信長に敵対し、津島七党の服部家もその一揆を支援することになる。


「それはそうなってから考えれば良い」

「それじゃ手遅れじゃないですか?津島湊が使えなくなれば、熱田湊で荷を揚げて、そこから陸路で運ぶしか方法がない。万一海路が利用できなくなった時のために、陸路も利用できるように備えておくべきです」

「しつこいな、ならば海路が利用できなくなった原因を取り除けば良いのだ、それに陸路は運べる量に限りがあり、河川を渡らねばならず、関所も通らねばならぬと犬千代殿も申したではないか」

「大小の街道を整備舗装して大きな荷車が通れるようにし、河川は橋をかけ、関所は国人領主に話をつけて取り除けば良いでは無いですか」

「街道を整備し、橋をかけるのに銭がいるではないか。関所を取り除くのも、その国人の利益を補償するために銭がいるであろう」

「銭を使えばいいではないですか」


 新五郎さんは話にならんとかぶりを振った。


「和子殿の話はそもそもがおかしい。海路の方が容易に多量の荷を運ぶことができ、財を成すことができるというのに、なぜわざわざ陸路を使うために散財する話をするのか。本末転倒ではないか」

「では、林様はなぜ蓄財するのですか?貯めこんだ銭は何も生みません」

「貯めこむとは言っておらん。織田家に必要なもののために使う。その必要なものをより多く確保するために銭がいる」

「織田家が『必要な時に陸路が使えること』は必要なものではないのですか?」

「ぐ……っ」


 言葉に詰まる新五郎さんに重郎左は追い打ちをかける。  


「街道を整備し、橋をかけるために多量の人足を雇えば、食いあぶれていた者たちが盗賊になるのを防ぐことができます。今は豊かな場所は津島、熱田、清洲に限られていますが、陸路が整備されれば人の往来も盛んになり、内陸まで様々な品物が行きわたるようになり、民の暮らしが豊かになり、商業も盛んになり、税収も増えます。これは織田家に必要なことではないのですか?」

「だ、黙らっしゃい、詭弁だ」


 荷の運搬は海路の方が優れているのが常識なのだ。それに仮に陸路を整備するとしても大名の本拠地への物資の運搬のためであり、商人や民のために道路を整備するなど聞いたこともない。


「いえ、黙りません。陸路が整備されれば津島や熱田で取り扱える荷の量が増えます。今までは津島や熱田のみでしか捌けなかったのが、そこから陸路で内陸に荷を運ぶことができるようになる。そうすれば本来三河や駿府で下ろしていた荷が津島や熱田に回ります」

「む」


 今川家の領土が話題に上がったせいか吉法師様が小さく声を上げた。


「それだけではなく、陸路を整備すれば軍事面でも『ボコっ』……いったあ!」

「あほ、そのへんにしとけ」


 見かねた犬千代が重郎左の頭を殴って強制終了させた。

 何するの!と抗議する重郎左に犬千代は小声で話しかける。


(文官で身を立てるって言ってるのに、そのトップで直属の上司と喧嘩してどうするんだよ)


 ややこしいが、重郎左は吉法師様の小姓であるとともに大秋城の城主でもあり、大秋城は林家の与力となっているから、林新五郎さんも重郎左の上司という事になる。


(だって)

(だってじゃねえ、とりあえず謝っとけ)


「すいませんこいつ、林様の問いの意図が把握できずに色々的外れで無礼な事言いました。俺からも謝りますんで許してやって下さい。ほれ、謝れって」

「うー、色々生意気言ってすいませんでした。反省してます」


 筆頭家老と神童の激論から一転して突然のダブル土下座に皆唖然とする。


「わ、分かれば良いのだ。二度とそのような詭弁を弄することの無いようにな!」




 という事があったばかりなのだ。


「本当に面倒くさいよ、模範解答じゃないと逆切れするんだからさ」

「いや、子どもじゃないんだからさ、それぐらい適当にあしらえよ」

「子どもですー、まだ元服前ですー、筆頭家老ともあろう立場の人が子ども相手にムキになって超カッコ悪い」


 確かにガワは小学生だが、中身はアラサーじゃないか。


「ムキになってたのは亜希子さんもだろ」


 犬千代は周囲を見渡し、誰もいないことを確認してから、重郎左を前世の名前で呼んだ。


「何より、筆頭家老殿は小姓になるのに尽力してくれた恩人じゃないのか?」

「それはそれ、これはこれでしょ」


 犬千代がやれやれという顔をする。


「相手が区長だろうが局長だろうが副市長だろうが市会議員せんせいだろうが物怖じしないのは良く知ってるけどさ、法治国家の前世と違って、この世界はそういうので殺傷事件にもなりかねないんだから注意してくれよ」 


 この世界の者たちは良く言えば純真、悪く言えば単純で朴訥なのだ。怒りも沸点が低く、いとも簡単に切捨御免が行われる。

 だから心配なんだよ、と付け加えると、重郎左はバツが悪そうに顔を背ける。


「あーあ、犬千代は良いよなあ、自分が誰かって分かっているから好き勝手出来るし」 

「……」


 犬千代は、重郎左の軽口に返答しようかと逡巡し、やめた。

 自分が想定している「大秋重郎左衛門が誰か」はまだ告げるべきではない。

 代わりに重郎左に伝えるべきことがある。

【解説】

 現在長島は木曽川と揖斐川の間にある半島で、東海地方最大のテーマパークがありますが、この世界では木曽三川の河口にある、文字通りの「島」でした。

 河口を封鎖されると、津島はもちろん、より上流の美濃への海運も止まりますので、織田家にとって長島一向一揆は死活問題だったのです。

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