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第一話「静かな家」

 4時間目が終わり、チャイムが鳴る。


「あ〜いなっ!」


 聞きなれた声がしたあと、後ろから抱きつかれる。


「きゃあ!ひ、ひかり?なんだ〜、びっくりしたぁ」

「ん?なんだとはなんだ!」

「いや、急に抱きつくから……」

「え〜、べつにいいじゃあん!昼ごはん一緒に食べよ!」

「わ、わかったから離れて」

「やった!」


 無邪気な笑顔。

 お互いの机を合わせてお弁当箱を取り出す。


「ひかりの今日のお弁当、すごく豪華だね」

「うん、そうなの!今日お兄ちゃんの誕生日だから、お母さん朝から張り切っちゃってて!あいなのもすっごく美味しそう、いつも自分で作ってるんでしょ?すごいなぁ〜」

「ありがとう……///ところで、ひかりお兄さんがいたんだね。誕生日おめでとう」

「ありがとう!そうなの、すっごく優しいんだよ!」

「仲良いんだね」


 そんな会話をしながら昼食を食べる──



 ショートホームルームまで終わり、チャイムが学校中に響き渡る。全員で帰りの挨拶をして荷物をまとめる。


「あいな〜、部活行こっ」

「うん」


 手を引かれ体育館に向かう。体育館に入ると既に多くの学生が準備を始めている。かるく挨拶を済ませると更衣室に入り、ひかりと会話をしながら着替えを始める。


「今日のテストむずかしかったぁ〜」

「そう?ちゃんと授業聞いてればわかるところがほとんどだったけど……」

「って、ひかりいつも授業中寝てたか」

「えぇ!真後ろの席なのになんでわかるの?まさか背中に目でもつけているのか?ちょっとみせて!」


 後ろに回り込み下ろした髪を掻き分けて背中を覗き込む。


「えっ?ちょっ、まって!」

「ここかぁ?こっちか!」

「あはっ、ちょっと、くすぐったいから!背中に目なんてついてるわけないでしょ!あんなに寝息をたててたらそりゃ分かるよ。先生も呆れて何も言わなくなったし……」


 目を見開き、雷に打たれたように驚く。


「う、うそ……このボクが……?定番では寝ている時は静かで可憐な少女っていうギャップがあるみたいなはずじゃ……」

「て、ていばん?よくわかんないこといってないで早く着替えて。今日も遅れたら監督怒るよ?」

「あ、そうだったぁ!次遅れたら1日球拾いしかさせてもらえなくなるー!」


 着替えを終えて練習を始める。

 ひかりはレシーブもスパイクもいつも全力で飛びつく。短く切られた髪が跳ねるたび、まるで楽しそうに遊ぶ少年のようにみえる。

 彼女は運動が得意で、背はバレー部の中では低めなのに、セッターの高めトスでも普通にあわせにいけるほど。

 多分、ひかりがいなかったら部活には入っていなかったと思う。でも、こうして一緒に楽しめることが嬉しいと思った。

 部活が終わり、更衣室で着替える。


「はぁ、つかれたぁ〜!今日もいっぱいうごいたぁ……」

「おつかれさま。いつも全力で動いてるんだし、人一倍疲れるだろうに、ひかりは凄いね。」

「えへへ!でも楽しいからいくらでも動けちゃうんだよねぇ!あ、でも……今日ちょっとミスっちゃったなぁ」


 いつもより静かな声で呟き、肩を落としてわかりやすく落ち込む。


「え、そうだっけ?」

「うん。最後のほうなんだけど、レシーブ変なとこに飛んじゃってさぁ。あいななら拾えてただろうけど。」

「えぇ!無理だよ。私そんなに上手くないし……」

「いやいや、あいなってさ、変なところで反応いいじゃん!」

「へ、変なところってなに……」

「う〜ん。なんかこう、ぼーっとしてるのに急にパッパッ!って動くみたいな?」


 右腕を左右に素早く動かして見せる。


「それ、褒めてる?」

「褒めてる褒めてる!」

「ふ〜ん……そっかぁ」

「ん、どうかした?」

「いや、別に」

「えぇ〜。顔真っ赤っかだけど?」

「あ、赤くないよ!」

「うそ!絶対赤くなってるよぉ」


 下から不思議そうに顔を覗き込む。


「ちょっ、近いよ!」

「やっぱり赤くなってる!あはは、変なのぉ!お風呂上がりみたい!」

「うぅ、私もう着替え終わったから帰るよ!」

「え!あ、ちょっとまってぇ。ボクもすぐ着替えるからぁ!って、うわぁ!」


 慌てて服を着ようとした直後、服が引っかかってその場で転んでしまった。


「いててぇ」

「だ、大丈夫……?」

「うん、怪我はしてないよ!」

「よかった……ちょっといじわるしちゃった。ごめんね」

「ううん!転んじゃったのはボクが悪いし。ほら!ボクも着替え終わったから一緒に帰ろ!」

「いつの間に……」


 帰路に着き、他愛もない会話をした後、二人の家への別れ道につく。


「あはは!あっ、もう別々だね。じゃああいな、また明日!」

「うん、また明日」


 お互いに手を振り合い、帰宅する。


「ただいま」


 返事はない。親は共働きで二人とも夜遅くまで働いてるから、家に帰ったときはいつも1人。

 お腹が鳴り、同時に胃が空っぽになっているのがわかる。


「……先にシャワー浴びよう」


 脱衣場に行き服を脱ぐと、静寂に包まれた家の中で僅かな吐息とブレザーが擦れる音だけが聞こえる。

 シャワーヘッドを手に取り水を出すと、ザーっと水流がタイルを叩く音が浴室中に響く。

 シャワーを浴び終わり、体を拭いてから無機質な部屋着で身を包む。

 自室に入り、ドライヤーで長い髪を乾かす。大きな音で耳をガンガンとさせながら、ブラシで髪を梳かす。

 ドライヤーの音が止まると、部屋が一気に静まり返る。さっきまでうるさかったはずの耳が、逆に物足りなく感じる。

 ブラシとドライヤーを置き、そのままベッドに横たわる。特にすることもなくぼーっとスマホを見つめている。

 再びお腹が鳴り、空腹を思い出す。


「なにか、食べよう」


 ゆっくりと起きあがり、体を引きずるようにキッチンへと向かう。

 冷蔵庫を覗くと十分に肉や野菜などがあった。


「……カップ麺でいっか」


 やかんに水を入れガスコンロに火をつける。

 リビングのソファに倒れ込むように座り、インターネットを開く。ひかりのストーリーを見ると豪華な晩御飯とひかりの笑顔の写真が投稿されており、「お兄ちゃんの誕生日」と書かれていた。

「……あ、そういえばお昼にそんなこと言ってたっけ」

画面の中のひかりは、学校で見せるのとはまた違う、妹の顔をしていた。その隣には、ケーキの箱に手をかける、指の長い、綺麗な男性の手が写り込んでいる。

「ふふ、ひかり楽しそう」


 そのまま見ているとやかんの水が沸騰する音が聞こえ、スマホを閉じる。

 カップ麺の容器に熱湯を注いでから蓋を閉め、時間を計る。食卓に運び、コップに水道水を入れて飲む。

 飲む音が静かな室内でよく際立って聞こえる。水を注ぎ直し、食卓に座る。

 ちょうど時間が経ち、蓋を開け食べ始める。ズルズルと音を立てながら啜る。食べ慣れた味が口の中を満たす。水と麺を交互に口に運び、完食する。

 シンクに使い終わった食器を置き、ゴミ箱に容器を捨てて部屋に戻る。

 ベッドに横たわり、食後の眠気に身を任せる。


「明日ひかりと、なに……はなそう……」


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