25話【療養期間】
結局あの後石巻に残った面々はランバに回収してもらった。
レヰチが頭部が破損しかなり危険な状態だったがそれも金継ぎによりもう解決しそうだ。
「ばっぱ金継ぎできたんだ…」
「まぁ最近は体験教室とかキットとかあるし…」
敦己は一樹の感嘆の声に返事をした。
レヰチの頭はひび割れて壊れてしまっていたが荒見の金継ぎにより綺麗な形で修繕された。
金継ぎになった異形の頭は何処か神秘的にさえ見えてしまう。
「お化粧してるみたい〜」
千春が綺麗だと褒めている。
「さすがに人には出来ない洒落乙だけどね。黄金の蜂蜜と金継ぎは相性が良い」
ブレナンは頭の構造が気になるようだ。浮かんでいる頭なんてどのような仕組みなのやら。
アズメは双と同じく陋能転国に運ばれて体の様子を検査してもらい明日には帰ってくるはずだ。旬の様に治療に必要な物を運んでいなかったから陋能転国に移動する手間が増えてしまった。今後陋能転国に治療に必要な物を予め貸してもらうのも手かもしれない。
「まずは皆の怪我はどうにかなりそうだが…ランバ、早速機械使うのか?」
シズに声をかけられたがランバは今すぐ使うというのを躊躇ったいた。
『人もどき』
戦いの最中バエルにそう言われたのがリフレインする。
「もしも…私が何かヤバい存在だったら…みんなを危害加えるかもしれないし…」
「ならこう…体を縛りつけて皆を避難させてからってのを…」
念には念を入れた方が良い。
「じれってぇ〜…いやそもそもあのウツシビ?ってやつ何で回りくどい事しかしないんだ?」
バグシィはランバ懐いているし元々害のある存在とは思えない。
「ああああッあああ!!!全部話していけよぉおっ!!」
叫び地団駄を踏む花菜を無視して双はランバの肩に手を置いた。
「俺と初めて会った時から悪いことしてないし礼儀正しいし常識もあったけれど…その自分を…信じられないか?」
「…いや、今の私と昔の私は…記憶の問題で性格や価値観が違う…って可能性が…」
千春は椅子に座り足をぶらぶらと揺らしながら3人で外を歩いた時の事を思い出した。陋能転国に高い医療技術があると聞き目を輝かせていた。その目的の記憶を取り戻す機械をいざ手にして今は迷っている。生活を続けるうちに自分の状態に不安が生じてしまった。
葛藤の中に誰かを傷つけるのではという懸念が常に強迫的に責め立ててくる。それは成長なのだろうか。
「…でも使わないという選択肢は無いんだよね?」
その言葉にランバは小さく重く頷いた。
要は使うタイミングに迷っている。皆の身体が治ってからにしようというのが結論だった。
暫く日常生活で心を落ち着ける時間を取る必要がある。ずっと戦い続きだったから尚の事。
――――
『女子会』
「レヰチって身長でかくて強そう」
部屋に集まり沙弥とまひる、千春の3人が最近の出来事について話していた。沙弥は部屋から出ることに抵抗感が減り会話のリハビリを兼ねての事だった。
沙弥はクッションを抱きながらレヰチを眺める。
「強いより可愛いって言ってほしいな…」
可愛いものが好きなレヰチは強いより可愛いの方が褒め言葉だ。
「ではお手をどうぞお嬢様?」
(かっけぇ…)
千春は優雅に振る舞ってみせたまひるに内心心の強さを感じた。多分自分なら素直に『可愛いよ』や『可憐で素敵』とか言うだろうが『お嬢様』という遠回しに可愛いものを扱う動きをしてみせたまひるにドキッとしてしまった。
(これが『お姉さん』か…)
レヰチがまひるのもふもふな手を取り嬉しそうにしているのを眺めながらいつかあんなお姉さんになりたいと目標を立てていた。
――――
『荒見の料理』
「アズメさん何か食べたい料理ある?」
ブレナンはアズメが同じカロリーバーしか食べていないのを見て栄養の偏りを懸念した。これが続けば怪我の有無関係なく栄養で体を崩すのは自明の理だ。
「わえあんまり料理気にしてなかったからなぁ…」
「あー?そんなおがしっこばっか食ってたら体さ悪いべや」
「いやこれお菓子じゃなくて…栄養を効率的に─」
「待ってらいん、今ばっばが料理してけっから」
もうお昼ご飯の時間だ。荒見の料理は素朴な料理が多めなのに満足感が凄い。おかわりしたくもなる。
今回荒見が振る舞った料理はシンプルに『カレーライス』だった。
カレーライスが初めてのランバは「辛い!」と「美味しい!」を繰り返しながら食べ進めている。
それを見て少し笑った。カレーライス初めての人を目にするなんてあんまりないだろう。
「わやも…いただきます」
口にいれると驚いた。濃厚な味わいに野菜も口に入れやすい大きさ、陋能転国の人が再現した普通の市販のルーを使っているはずなのに。
「え?これどうやって?」
この市販のルーは昔食べたことあったがこんなに美味しかったっけ?
「どうもこうも普通に作っただけだがや」
「……」
呆然としていた。作り慣れているから?それとも地域の違い?
「…ん」
あれこれ考えているとシズがアズメに自分の分を少し差し出した。
「え、え?あ、ありがとぅ…」
美味しい。料理昔は結構いろいろ食べてたのに気がつけば機械に熱中して放り出してた。色んな味があったのに。
「まぁ…美味しいからいっか!」
――――
『其々の視点』
人見は悪魔や記憶喪失といったあけぼのクラブの新しい話のネタはラジオには流さなかった。
ポリシーというより良心だろうか。それともう一つ。
「社会が混乱するからこれ以上騒動になる話題流すのやめろ」
「うい」
一樹に念を押された。陋能転国で一度やらかしているから尚の事だ。
「まぁ私は良きレポーターを目指してるから」
そう自称しているが見ている側からすれば危なっかしいことこの上なしだ。そのうち恨みを買って襲撃されないか心配になる。
あけぼのクラブの様子を伺いにやって来た卯木はバグシィを撫でている。バグシィがやんのかステップのまま近づいてきたから最初は威嚇されているのかと思っていた。しかしバグシィは悲しみを内包している卯木を慰めるために近づいてきていたと気がつくのに相似感はかからなかった。
ポーズを維持したままだがしゃがみ込んだ卯木の足に体を擦り付けてくる。
「…この子はとっても優しいんですね」
そして現在体を撫でている。
「卯木」
燈矢に話しかけられ卯木はゆっくりと撫でる手をとめる。
「…燈矢…私旬の事については何も言うことはないよ…ただまぁ…御愁傷様」
「…いや、お前に旬について謝られるなんて期待してないし。どうせ『結子様の役に立ててむしろ光栄』だとか言いたいんだろ」
「ふん…」
何も返さなかったがそれは肯定だった。
「でも私が旬の代わりに慣れるなら喜んで代わってたとだけ言っておくよ」
「だろうね」
此奴はそういう奴だ。どれだけ苦しむ事になってもそれが結子の為と言うなら平気で耐え抜く狂気を持っている。
旬は今は苦しみから解放されているはず。今更此奴に恨み辛みを言っても何もならない。結子だって悪意があったわけではない。俺だって加害者だ。だからそう納得しないと前に進めない。
「…俺も撫でたいから少し手を退けてよ」
「えー…あ」
バグシィがゴロンとヘソ天をした。撫でる範囲が広がり二人はひたすらバグシィのお腹を撫でていた。




