02.神託のススメ
王都レグナリア。
『勇者召還スキル』を有する、レグナリア王家が統治する大都市。
『勇者』は『教会』で『神託』を授かり、旅に出る。
本来の目的は魔王討伐。
けれども、勇者によって魔王が討伐されてから既に三年。
今では、魔王の遺産が隠された『ダンジョン』を攻略することが彼らの主な役割。
ダンジョンに潜るのは勇者だけではない。
一攫千金を夢見た一般人が挑戦することも、当然ある。
『『富』『名声』『力』全ての財宝は底に置いてきた。探せ! 世界が終わる前に!』
勇者が公表した魔王の遺言。
『世界が終わる』発言に巻き起こるダンジョンブーム。
切り抜かれた言葉は瞬く間に拡散し、噂の真意と財宝を探るために動く人々。
ただ『攻略』は簡単ではなかった。
ダンジョン攻略は難航を極める。
一度潜っただけで僕は死にかけた。最深部に辿り着けたのは運が良かっただけ。
正攻法で攻略に参加しても、秒で天に召される自信がある。
ダンジョンに潜る人達を『のうのうと生きている』と言う人もいるけど、全力で否定したい。
命を賭して探索しているのだ。
それでも、挑戦する価値はある。
得られる物は真実や名声だけではない。
─攻略報酬。
ダンジョン攻略の発表がされると、都市はお祭り騒ぎ。
そして、ダンジョン攻略報酬の噂話で持ちきりになった。
吟遊詩人曰く、『スキル』を吸収する魔剣。
屋台の店主曰く、『ダメージ無効化』の盾。
定かではない情報、広がる噂話。
沸き上がる期待。
詰まるところ、攻略報酬には話題性がある。
『神託の石板』にもポテンシャルがあると思うんだ。
それを利用してお金を稼ぐ。
いや、違う。あくまでも善行がメイン。
でも、双方納得して料金を頂戴することは問題無いよね?
守銭奴と思われるかも知れないけど、お金を稼ぎたい理由がある。
僕は学校に通いんだ。でも、孤児院は万年金欠。頼ることなんて出来ない。
なので、学費は自分で稼ごうと決意した。
Ж
「いらっしゃいませ~。あなたの運命を変えるかもしれない『神託』をお伝えします! 今なら何と、銅貨一枚!」
用意した手書きの看板。準備は万端。
世話しなく歩く人々、呼び掛ける僕。
やっぱり、無名の僕が集客するためには、付加価値が必要みたいだ。
─予定変更。
「『ダンジョン攻略報酬』と噂の『神託の石板』が神託を授けます! 今なら初回無料!」
「神託とは、どんなことが聞けるのかしら?」
初めてのお客さんは綺麗な女性。
肩まで流れる夜空のような黒髪は、風に靡かれ、控え目な星のように煌く。
特徴的なのは、胸元と両腕の刺青。
それは、『スキル保有者』を意味していて、その多くは異世界から召喚された『勇者』だ。
刺青は召還された『勇者』の身体に刻まれる特殊能力の証。
人によって文様は様々で、能力も異なる。
現在は勇者でなくても教会で『スキル』を授かることが出来る。
でも、『勇者』の能力と違い、殆どが特技の枠を越えることが出来ず、高額な料金に見合わないと敬遠されるようになった。
それを態々(わざわざ)複数、身体に刻み込んでいるのだ、『勇者』と思って間違いないだろう。
「なるべく要望にお答えしたいと思っているんですけど、やってみないと分かりません」
「正直なのは良いことね。なら、この腕に刻まれた『スキル』に関する神託を貰えないかしら?」
「はいっ、あれ? 『夜空の加護』って書かれてますね」
「この刺青が読めるの?」
「はいっ、左手は『到達不能終焉』胸は...すいません、全部見えないと駄目なようです!」
「あら、ここも確認したいの?」
胸元に伸ばされる手。
伸びる衣服。
揺らめくふたつの果実。
僕は慌てて、静止する。
「大変です、服が伸びちゃいますよ!」
「ふふっ、心配するのはそっちなのね?」
揶揄われてしまった僕。
熱を持つ真っ赤な顔で石板に祈りを捧げる。
(右手のスキルはどんな効果なのでしょうか?)
【證鈴裸縺ォ縺薙◎譏溘�蜈峨k縲ゅ◎繧後�縺�★繧瑚イエ譁ケ繧呈舞縺�□繧阪≧】
「暗闇の中で、貴方は『スキル』に救われるでしょう」
僕の願いに答えてくれた石板。
その神託を、告げる。
「ありがとう、貴重な情報だったわ」
ピンッと弧を描いて弾かれる銅貨。
僕はそれをキャッチする。
「えっと、初回は無料ですよ?」
「とっておいて。それだけの価値はあったから」
手を降りながら去り行く少女。
きっと彼女は暗闇の中で光を見付けることが出来るだろう。
そうなると、僕は信じている。
初回無料という宣伝が効いて、人々が列を成す。
その殆どが僕の『神託』など信じていないだろう。
質問は神様に聞く必要のない小さなことばかり。
彼らから見る『神託』は、きっと僕の独りよがり。
それでも良い。今日の目的は善行。
大なり小なり誰かの力に成れれば満足。
ただ、無料に釣られた冷やかしは勘弁。
信じない人には帰って貰った。
ピィ-!
警備隊の足音が響き、僕の前で停止する。
僕を見下ろす冷たい目。険悪な雰囲気に散らばるお客様。
引き連った笑顔で固まる僕。
「詐欺師がいると通報が入った。お前で間違い無いな?」
「......違います。人違いじゃないですかね?」
「嘘を付いたら即逮捕! 分かったか!」
...尋問を受ける。捲し立てる警備員に怯む僕。
けれど、ここで引くわけには行かない!
悪いことはしていない自信はある。
結局、僕を救ったのは神託の石板─ではなく、宣伝の看板。
『初回無料』と書かれた看板が、『商売』ではないことの証明になった。
料金の発生しないものに詐欺も糞もない。
それでも、厳重注意は受ける。
「根拠の無い情報は広めないように」と釘を刺された。
どうやら、神託系の『スキル』がなければ商売は出来ないらしい。
失敗しちゃった。反省は大事。
気落ちしながら歩く帰り道。
教会の前に、佇む全身鎧の騎士。
存在感の感じない、幽鬼のような鎧が僕を見付ける。目があった...気がする。
「君が、マルスかな?」
「ひぃっ!」
お説教、第二段が始まる気がして、後退る。
ポンッと僕の肩が叩かれて、耳元で囁く。
「大丈夫、私は君の味方だよ」
「ひいぃっ!!」
指一本動かせない。まるで蛇に睨まれた蛙。
身体が色を失い、灰色になる。
「クロム様?」
「マリー! 久しぶりだね!」
鎧の騎士を呼ぶシスターマリー。
途端、身体に色が戻った。動けるうちにシスターにしがみ付いて安全を確保する。
あれは、人智を越えた何か─『スキル』のようなものだと思う。
僕に対抗出来る能力はない。
「あの、マルスに何かご用でしょうか?」
「いや、もう用件は済んだよ。彼の『色』は確認させて貰った」
「また会おう、少年」と言い残し、踵を返すクロムさん。
そこに、巨大なモンスター『ムーンベア』が立ち塞がる。
危険だ。鎧の騎士の身長を優に越える巨体。
鋭利な爪を持つムーンベアは、この辺りでは見かけたことがない狂暴な怪物。
シスターの服を引っ張る。早く逃げないと!
でも、シスターに不安な様子は一切感じない。
「安心なさいマルス。彼、クロム・アイゼンロードは教会騎士団、団長です」
【色彩の騎士】クロム・アイゼンロードは歴代最年少で就任された騎士団長。
『勇者』に劣らない『スキル』、『色彩操作』を授かった彼は、トントン拍子に出世した。
今世紀最強と呼ばれる教会騎士。
「色彩操作・赤」
彼の騎士鎧が真っ赤に染まる。
『グオオオォォォ!』
鎧から迸る凄まじい熱気。じりじり焼けた毛の匂いが漂い、思わず息を止めた。
踏撃一閃。
たった一踏み、足を地に落としただけで地が悲鳴を上げ、熱された石礫が砲弾のように弾け飛ぶ。
それを浴びたモンスターは断末魔すら許されない。
己の死を認識する前に、黒く、焼けた。
それを見て、クロムは提案する。
「今日の夕飯にどうかな?」
「うおぉぉぉ! やったぁ!」
冷めやらぬ興奮と意図せず増えた夕食に、マルスは歓喜の声を上げた。




