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侯爵令嬢ジュリア・クラウンベルツ②

侯爵令嬢ジュリア・クラウンベルツは、生粋の貴族の箱入り娘であるが決して我儘で自分本位な令嬢ではない。

幼い頃から人の表情から心情を理解し、場の空気を読むことに長けていた。

また元来平和主義であるため、無用な争いが起こらぬよう誰も気付かないほど自然に気を配った。

それはそれは幼い頃から、気を使いに使いまくった。

それゆえに、嫌になってしまったのだ。




ーーー社交めんどくさい。




それこそが王妃になりたくない唯一にして最大の理由である。

正直、王妃としての執務などはまったく心配でないし、クラウンベルツ家の娘であるから外交もお手のもの。

しかし王妃としての立場上、社交場には極力顔を出さねばならないし、王宮でのイベントを定期的に主催する必要もある。

そして何より、あの仲の悪い王族たちの中で暮らさなければならない心労を考えると、どうしても求婚に応える気にはならないのである。




現王族の仲の悪さは、その一家の成り立ちに由来する。

現国王陛下が正妃である王妃殿下と婚姻後、すぐに第一王女が誕生した。

しかしその後3年子供を授からなかったため、国王は後継を心配した周囲の勧めで側妃を娶ることになった。

側妃はすぐに懐妊し、第一王子であるリンドルフを出産した。

側妃の出産直後に正妃の懐妊が発覚し、翌年第二王子のスタンリーが誕生。

その後正妃と側妃はそれぞれ出産をし、最終的に正妃は2男1女、側妃は1男2女を儲けることになるのである。




正妃は伯爵家の出身で、家格は劣るものの国王に見初められて正妃となった。

一方側妃は公爵であり現宰相の妹で、元々国王を慕っていたものの正妃の座を逃し、その後宰相の勧めで側妃に収まった。

正妃に対して並々ならぬ敵対心を抱いていた側妃は、正妃より先に王子を出産することで一旦は溜飲を下げたものの、その後すぐに正妃が王子を産み、さらにその第二王子が立太子してからは一層荒れ狂った。

親がそんなわけだから、正妃の子供達と側妃の子供達はとにかく仲が悪い。

今はまだ、居住空間を完璧に区別し、万が一顔を合わせても多少啀み合うくらいで済んでいるものの、次の即位が迫る頃には血みどろの争いになるのではと本気で心配するほどである。




そして王族に入りたくない理由がもう一つ。




「ジュリア・クラウンベルツ!」


ジュリアが生徒会室を出て帰宅するために校門に向かっていたところ、後ろから大声で名を呼ばれる。

妙に甲高く、無駄に大きな頭に響く声。

呼ぶ時は常にフルネーム。

振り返らなくても誰か分かる。

誰か分かるから振り向きたくない。

でも振り返らないと面倒だ。

しばらく立ち止まって逡巡していると、


「無視するな!ジュリア・クラウンベルツ!」


今度はすぐ背後から大声で叫ばれる。


「…ベアトリス第二王女殿下。そんなに大声を出されなくてもこの距離なら聞こえます。」


「あんたが一度で返事しないのが悪いのよ!このウスノロ!」


振り返ると、黄色味がかったクルクルの金髪に薄緑の吊り上がった瞳がジュリアを睨みつけている。


「何かご用でしょうか?」


「ノロノロ歩いてるみっともない女が目の前にいたから、高貴な私が声をかけてあげただけよ。」


ベアトリスはふふん、と鼻を鳴らす。


ベアトリス・フォン・フリーウォーデン。

ジュリアと同級生で、側妃が産んだ第二王女。

王太子スタンリーのお気に入りであるジュリアを目の敵にし、事あるごとに暴言を吐いてくるのだ。

それと恐らく、見目麗しいジュリアに対する嫉妬が多分にあると思われる。

ベアトリスは見目が悪いわけではないが、絶世の美少女というほど整っているわけでもない。

それに何より、王族の証とも言える宝石眼とも呼ばれる金色の瞳を、兄弟達の中で自分だけ持っていないことに大変なコンプレックスを持っているのである。


「到底高貴な方が使うような言葉遣いに思えませんが…。お気遣いありがとうございます、と申し上げておきます。」


ジュリアは心底残念な物を見る目でベアトリスを見つめる。


「んなっっ!何ですって!!ふ…不敬罪よっ!!」


目元を真っ赤にしてベアトリスが叫ぶ。


「左様ですか。沙汰が下りましたら追ってご連絡くださいませ。それでは失礼いたします。」


ジュリアは一礼するとさっと踵を返し、足早に、しかし姿勢は崩さず優雅に校門へ向かう。


「アンタなんか#@&@/#〜……」


後ろから何か聞こえるが、気にしないことにして歩を進める。

校門を過ぎ、クラウンベルツ家の馬車に乗り込むと、ジュリアはほっ、と大きく息を吐く。


「何で毎回言い負かされるのに絡んでくるのかしら…」


ベアトリスは先ほどのように毎度毒にもならない暴言を平気で吐いてくる。

あまりに言葉遣いが汚いため、自分の品位を下げているだけということにも気が付かないのである。

ベアトリスから繰り出される無為な暴言は正直どうでもいい。

ただあの鼓膜が破れんばかりの無駄に大きな声と、いつでもどんな時も無駄に高いテンションに、こちらのヒットポイントが削られるのは頂けない。




やはり、絶対に。

王宮にだけは。

入りたくない。




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