夜会にて①
「それで、どういうことなの?」
ジュリアは今、ダンスを踊っている。
ダンスの相手はオーランド・クラウンベルツ、ジュリアの一つ下の弟だ。
「どうって、何が?」
「例の話だよ。…デート。」
オーランドは夜会服に身を包み、初々しい動きながらもしっかりとダンスをリードしている。
つい最近まで同じくらいの身長だったのに、今はヒールを履いているジュリアよりも少し目線が高い。
「事情を聞きたい人がみんな僕を訪ねてくるんだ。知らない人から付き纏われて、本当に嫌になっちゃうよ。」
オーランドは今年学院に入学した。
ジュリアはクラウンベルツ邸から馬車で学院へ通っているが、オーランドは寮での生活を希望した。
クラウンベルツ邸は学院からさほど離れておらず通いでも不便はないのだが、親友のローレンスが寮を選択したため自分も寮に入ることにしたようだ。
ここ最近は別々に暮らしているためオーランドもジュリアの近況をよく知らないのだが、事情をよく知らない人達が噂の真相を求めてオーランドの元を訪ねているらしかった。
これは王宮で開かれている第一王子リンドルフの誕生日祝いの夜会である。
ジュリアはこのような夜会では今まで兄のケネスにエスコートをお願いしていたが、今回はオーランドの社交デビューも兼ねてオーランドのエスコートで会場入りした。
今、2人でファーストダンスを踊っている真っ最中なのである。
「事情も何も…。2人で出かけたのは事実よ。」
「だからぁ、何で2人で出かけることになったのさ?」
「うーん、そんなに特別な話ではないけど…。アリアスの弟のイグニスの紹介で知り合って、遊びに誘われたから出かけたのよ。」
「…それ、スタン兄…ゴホンッ…殿下はご存じなの?」
オーランドは踊りながら、王族達が着席している上階をチラリと見やる。
本日の主役とばかりに派手に着飾ったリンドルフの横で、シンプルな白の正装に身を包み、無表情で座っているスタンリーの金色の瞳と視線が合う。
ーーーああ、今日もスタン兄は姉さんを見つめてるんだな。
「…恐らくご存じなんじゃないかしら。」
オーランドは上階から目線を外し、今度はジュリアの方を見る。
ジュリアの深い青色の瞳からは何の感情も読み取れない。
「姉さんは殿下のことどう思ってるの…?」
ジュリアは何も答えなかった。
オーランドの後にケネスとダンスを踊り、ケネスとのダンスが終わるとジュリアはいつものように外へと連れ出してもらう。
いつものように、というのは、会場にいると次々にダンスを申し込まれて断れなくなってしまうため、ファーストダンスを踊った後にケネスが外に連れ出してくれるというのが夜会の毎度のお決まりなのである。
「ありがとうございます、お兄様。」
「いえいえ、どういたしまして。…毎度のことながら、お前のパートナーの後釜を狙う令息達の視線が恐ろしいよ。」
庭園のベンチにドサリと座り、ケネスはその金色の前髪をかきあげてハァッ、と息を吐く。
「しかしそろそろこの役割を誰かに引き継ぎたいものだけどね…。」
そう言ってケネスはチラッとジュリアの様子を伺う。
ジュリアはベンチに座ったまま無表情で庭園を見つめている。
ケネスはジュリアから期待する返答が来るのを諦め、目線を庭園へ移す。
「…お兄様は、私に王妃になってほしいですか?」
ジュリアが口を開くと、ケネスはその言葉に驚いて青色の瞳を瞠り、ジュリアに向き直る。
「…俺はジュリアが望むようにすればいいと思っているよ。」
ケネスが優しい口調でそう答えると、ジュリアは「そうですか」と小さく呟く。
その後2人でしばらく庭園を眺めたあと、ケネスがゆっくり立ち上がる。
「俺は少し挨拶しないといけない人がいるから戻るな。…オーランドを呼んでくるから、迎えに来たら一緒に帰りなさい。」
「はい、分かりました。」
そう言ってケネスは会場へと戻る。
ジュリアは1人になってからもしばらく庭園を眺めている。
『姉さんは殿下のことどう思ってるの…?』
頭の中では先ほどオーランドに聞かれたことについて考えている。
スタンリーのことを好きか嫌いか?と聞かれれば、「好き」なんだと思う。
ただ、どう思うか?と聞かれても、何と答えていいのか分からない。
ーーー他の人はみんな自分の感情について正しく言葉にできるものなのかしら?
恋愛感情というものが存在していることは知っているし、それを自分に向けられていることも分かっている。
だが、ジュリアは自分の中の恋愛感情というものをいまいち認識できないでいた。
不意に足音が近づいてきた気がして会場方面へ目線を向けると、こちらに近づいてくる人影が目に入る。
ーーーオーランドかしら。
人影に目を凝らすと、月明かりに照らされた美しい金髪がさらさらと揺れている。
「ジュリア」
優しい声と共に姿を現したのは、柔らかな笑顔で微笑む王太子スタンリー・フォン・フリーウォーデンであった。
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