第九話 白鬼
3/29 ステータス表記を修正
あたしの名前は八千代桜。ピッチピチの女子中学生!
なんの変哲もない日常を過ごしていたあたしは、ある日突然<能力解放パッチを適用します。>というアナウンスと共にラノベやWeb小説でよくある世界に飛び込んじゃった!はわわ、あたし一体どうなるの〜!
などとはならず、現実は非情な訳で。
あたしがパッチを受け取った次の日、家になんか黒いスーツを着たおっさんがやってきたかと思えばあたしを連れて行って銃のレクチャーしたり魔法とかの勉強したり色々させられたわけだ。
あたしはそれに不満を覚える。こういうのは自分で調べていくから楽しいのであって、レクチャーされるのはなんか違うと思う。
「まあまあ、こういう感じもいいんじゃない?世界を滅ぼそうとする魔物に立ち向かう正義の組織って感じがさ!」
今あたしの隣でこんなこと言ってるのは同期の鏑木仁。
コイツは眼鏡つけて知的な感じを出しているが話していると勇者願望丸出しのバカってことがわかった。
「あのさあ、そんなこといってもうちはお役所仕事でしょ?そもそも魔物が出てきたこと=世界滅亡への一歩なのかどうかもわかってないじゃん。」
「違うよ!それはただ僕たちに情報が降りてきてないだけで、実際は分かってるんだよ!課長たちならきっと知ってる!それを知ってて混乱を招かないようにしてるだけさ!」
これだ。コイツの頭の中は基本アッパラパーだ。なんであたしこんなのとペアにさせられたんだ。
「あのさぁ?ちゃんと授業聞いてたのあんた?魔物の体内にある石......まあその時は魔物って言わずに、『特殊害獣』って言ってたけど、要はその『魔石』から取れるエネルギーがエントロピーの法則を無視してるから集めてこいっていうのがあたしたち『公安局特殊害獣対策課』な訳じゃん?」
最初この説明を聞いた時あたしは、
(国って白いクソ狐かなんかなのかよ......)
と思った。
「違う!きっと国は僕たちにそういう名目で言っているだけであって、実際は世界の滅びに対して陰ながら対抗しているんだ!情報の流出を抑えながら戦う上層部......いいなぁ。」
もうだめだコイツ。そうあたしは思った。
流石にあたしはもうコイツみたいな感情は抱いていない。意外と黒い部分は見え隠れするし、そもそも義務教育を受けている学生を戦いに引っ張り出して命懸けで手に入れた魔石や素材を国が管理する時点であまりにもおかしいって大体のやつはわかる。
それでもコイツがこんな夢見れてるのはあたしに面倒くさい事務仕事や換金手続きを任せているからだと思う。おかげでコイツは定時でささっと帰り、あたしは残業ばっかでパパとママに叱られた。
ちなみにパパとママには「治験」で通してある。おかげで結構いい額の給料が貰えてるし、週2で休みをくれるので隣のやつが仕事を押し付けてこなければ最高の職場だ。
「ああ、僕も係長になったらきっと隠された情報を教えてくれるんだろうなぁ......!」
てめえは班長にすらなれねえよバカ。
こうしてあたしはこの生活をもう半年も続けた。結果、
<名称:八千代 桜(Sakura Yachiyo)
種族:人間族《銃士》
Lv:18/99
年齢:14
体力 256/256
魔力 0/0
気力 180/180
力:72
硬:34
知:41
技:130
信:21
ステータスポイント:0
専用スキル:〔反動無効〕〔銃収納〕〔弾丸無限〕〔銃重量無効〕〔狙撃眼〕
汎用スキル:〔銃使い lv2〕〔精密射撃 lv1〕〔殴打術 lv3〕〔疾走 lv1〕〔言語(日本) lv9〕〔言語(英語) lv3〕〔解析 lv2〕
称号: >
というなかなかいいステータスになった。職業が《銃士》というなかなかゴツい職業なのがアレだが、それ以外は概ねいい。そして貯金もこの間30万を超えた。あたしは達成感に満たされた。
§
そんなある日、あたしに出勤命令が出た。ちなみに今日はめちゃくちゃ頑張って定時帰りになった。そしたら仁がついてくるとか言ってきたので嫌だと言ったがウザすぎて折れることにした。
「ああ......いやだ......残業......しかもタイムカード押されないからサービス......」
「そうかい?僕は楽しいよ!だって世界に仇なす魔物の駆除ができるんだからね!」
声がでけえよバカ!あたしらが『存在しない課』ってことを覚えとけよ!ていうか混乱を招かないとか言うならその種をお前が撒くんじゃねえ!
「うっさい。お前は目的地に辿り着くまで喋んな。」
「ええー?」
取り敢えずコイツを黙らせる。コイツが今まで気苦労以外のものを作っただろうか?
(ふふっ、相変わらず仲がいいのね。あなたたち二人は)
(いやどうしてそうなるんですか紗枝さん......)
今あたしの脳に直接語りかけてきたのは優希 紗枝さん。〔伝心〕というスキルを持っており、うちの班と他の6班、9班の伝達担当もしていてなかなか優秀な人だ。ちなみにうちは3班。
(大丈夫?今回の仕事が終わったら飲もっか?)
(いやいいっす......)
しかし事あるごとにこちらに対して酒を薦めるため、なかなか苦手な人だ。それさえなければいい人なんだけどな......
(でも気をつけてね?最近うちの鉄島くんと金森くんが行方知れずなんだから、そこにいたらあの二人に襲われちゃうかもよ?)
(ああ......)
鉄島と金森は7班の問題児だ。仕事はサボる。言葉遣いは汚い。金遣いは荒い。噂では強姦もしているらしい。その二人が行方知れずというのは、恐らく安否より先に「ああ、あいつら遂にやったか......」というほうが大きい。
基本うちではたまに力に酔って失踪する奴が出てくる。そういうのは4係が処分するため、あたし達は事後処理だけで終わるのだが、どうやらあいつらはまだ処分されていないらしい。
「おし、ついた。」
そのまま目的地付近に到着。そろそろ起動すべきだろうと思い、結界魔石を取り出す。
これはうちの『特殊害獣対策用装備課』から渡されたもので、コイツを使うことで隔離空間を形成。その隔離空間では何が起きても現実に作用することはない。ちなみに解除トリガーはあたし達の死か解除コードの入力だ。
(それじゃあ、私はこの辺りで。帰ってきたら存分に飲みましょうね〜)
(飲みませんけど、お疲れ様でーす。)
隔離空間に入る都合上、あたしと紗枝さんの通信は切れる。因みに仁にはこの通信は説明されていない。だって仁だもの、めんどくさいに決まってる。
そう思いながらあたしは結界魔石を起動した。
瞬間、風景が極彩色に彩られる。
さて、ここからは仕事の時間だ。......時間外労働だけど。
30分後、あたし達は途方に暮れていた。
「ねぇ......これ本当にいるの?誤作動とかじゃなくて?」
「居るに決まってるだろ?少なくとも今まで誤作動なんて起きたことはなかったんだから絶対いるよ。」
仁はそう言うが、あたしはそう思わない。基本的に魔物は生まれてからすぐに人を襲う訳ではない。なので人を襲わない期間の間に最寄りの職員が現場に行き、魔物を討伐するのだ。
それでも基本的に魔物は50分ほどで行動を開始するので、移動時間を含めるとそろそろ襲い掛かってきてもおかしくない......はずだが、現に襲いかかってきていない。
「ていうか、マジ最悪なんだけど。好きな漫画漁ってたら召集掛かって本当にやだ。まあ魔物殺せるからいいけど。給料うまいし。」
「まあそこは同意だね。僕たちの使命は魔物をこの世から根絶すること。そのための一歩になるんだからこれ以上に嬉しいことはない。」
「まあねぇ......今回は時間外労働だけど、換金代は別だしね。」
何かあたしは違和感を感じながら、仁と会話する。流石に戦闘時はコイツにテンション上げてもらわなければ困るので、コイツのいうことは大人しく賛成する。
それから数秒後、
ダァン!
と言う銃声が響き、仁の胸から鮮血が飛び散った。
「ガフッ......!?」
「な......!?」
あたしは驚きに満ちる。今のは確かに銃声、ということはもしかして、鉄島と金森があたしを犯すためにこういう状況を作ったのかという突飛な考えが浮かぶ。
そのあと、足音が響く。あたしはそっちに振り向こうとして、
「痛っ!......!?」
頭をぶっ叩かれた。痛い。そしてそのままもう一撃食らって、あたしの意識は飛んだ。
§
「う......ううん......?」
目が覚めた。どうなった?視界がぼやけて使い物にならない。確かあたしは仁と一緒に魔物の討伐に来てて......それで......
仁が、撃たれたのだ。
「ッ、仁!」
あたしはアイツの名前を叫ぶ。しかしアイツはいない。どうなったんだ?と思ったところで、
「目は覚めましたか?」
という声が響いた。あたしは警戒を抱く。仁がいないこの状況で知らない女の声、異常だ。警戒しないわけがない。
そしてそちらを向くと、
白い、『鬼』がいた。
服装は着物......よりはもっと動きやすそうだ。袴だろうか?
上下共に白く、一点の曇りもない。
肌も恐ろしいほどに白い。ただし青白いわけではなく、本当に真珠のような傷のない真っ白な肌だ。
髪の色もまた純白。美しく艶のある色であり、その白い髪が腰まで伸びている。
しかし何よりも目を引くのはその顔だ。あまりにも美しい顔も目を引くが、それよりも注目すべきものが額にある。額からは捻れた角が出ていた。その色もまた白だ。そしてその眼は瞳孔すらも白かった。
あたしはこの顔を見て、まず神聖であると思った。そのあり方があまりにも美しいがゆえにだ。表情がアルカイックスマイルであることも大きいだろう。
次に、コイツは人形なのではないか?と思った。しかし違う、人形ではない。人形にはあまりにも完成されすぎた姿であるため、本来生物を自然たらしめる「自然的な不自然」が存在しないのだが、コイツ......この人にはそれがあると直感でわかる。
そして見惚れていたあたしが次に思ったのが、仁はどこへ行ったのか?だった。
「あの......すみません。あたしの連れ......友人の仁って奴がいるんですけど、そいつを見ませんでしたか?」
あたしはそうその人に聞く。
するとその人は、
「ああ......あなたのお連れさんでしたか。彼なら、とても美味しかったですよ?」
———そうなんでもないことのように言った。
「は......?」
耳を疑う。今、この人はなんて言った?
仁のことが?美味しかった?
「あの......いま......」
「ああ......申し訳ございません。だって、私を殺してしまおうとしたのでしょう?ならば殺されても文句は言えないのでは?」
怖い。今目の前にいるこの人が恐ろしい。いやそれより、
「あの......あたし達、あなたのことを殺そうとなんか......」
「おや......?」
この人はは不思議そうに顔を傾ける。そして、
「私は、貴方達が『魔物』や『バケモノ』と呼ぶ存在なのですが......?」
と口にした。
「え......」
そんな、あり得ない。
今まで出会ってきた魔物は全て獣型だ。それは他の係からまとめられた情報にも書かれていて、所謂ゴブリンやゾンビ、オークなんかの人型の魔物は存在していなかった。
あたしは真偽を確かめるべく、この人に〔解析〕を使用する。
「へっ?」
そこには、目を疑うような光景があった。
<名称:白鬼 皐月(White Ogre Satsuki)
種族:鬼族【Dー】《白鬼》
Lv:1/150
年齢:0
体力 500/500
魔力 150/150
気力 300/300
力:200
硬:250
知:200
技:400
信:600
ステータスポイント:0
解析のlvが足りません。彼我の差が大きいため一部のみの情報開示となります。>
強い。強すぎる。今のあたしでは絶対に勝てない。絶対に無理だ。いや、そもそも対策課に勝てる奴らがいるのか?
股間から生暖かい液体が漏れる。体の震えが止まらない。
あたしは後退する。が、その人......皐月は近づいてくる。
「すみません。」
あ、死んだ。そう思った。あたしはここで死んで、仁と同じように食われるのだ。
しかし皐月が言ったのは意外な言葉だった。
「もしよろしければ帰っていただけないでしょうか?」
......ん?
「ああ......すみません。実は私は生まれてきたばかりで......というのも、実は最近少しばかり言葉遣いが......その......汚いと言いますか、とにかくそういう方々がいまして......」
鉄島と金森だ。アイツらは皐月に殺されたのか。
「それで、あなた方のような方と戦う時、私はとても心が躍るのです......なので、どうか私の情報を持ち帰り、あなた方の組織に広めてくれれば、と......」
「は......はぃ......」
あたしは消え入りそうな声で呟いた。すると皐月はアルカイックスマイルを解きパッと花開く笑顔を見せて、
「ああ、ありがとうございます!それでは、失礼いたしますね?」
と言ってあたしの前から透明になるように姿を消した。
「もう......なんなわけ......?」
あたしは、呆然としながら呟いた。
チュートリアルがあるのは魔物側限定です。




