第十六話 短剣
今回違和感や疑問を感じるところがあると思いますが設定ミスではありません。理由は後の話で。
私は柏田にステータスを渡す。
<名称:志野 紗綾香(Sayaka Shino)
種族:[人間族]《聖職者》
Lv:1/99
年齢:16
体力 50/50
魔力 30/30
気力 40/40
力:10
硬:10
知:60
技:10
信:60
ステータスポイント:10
専用スキル:〔聖〕〔医術〕〔布教〕
汎用スキル:〔聖魔法 lv1〕〔光魔法 lv1〕〔信仰術 lv1〕〔魔力自動再生 lv1〕〔言語(日本) lv9〕〔言語(英語) lv4〕
称号: >
「「おお〜。」」
今度重なったのは優希課長秘書と美幸だ。
私のステータスは典型的な後衛型だ、前線で戦えるようなステータスは特にしていない。後方で前衛を癒し、補助し、支えるのが私の仕事だ。
「あー、このステータスなら澤田さんとおんなじっすかねぇ。」
「いえ、もっと前衛で戦えるような武器をお願いします。」
そう言うと優希課長秘書と八千代課長、柏田は驚いた顔になる。それだけではなく聞き耳を立てていた周りの人達も同じだ。
「えっと......なんでまた?」
「今の所前衛が五十嵐さんしかいません。五十嵐さんの役割はタンク兼メインアタッカーです。敵の攻撃を受けると同時に敵の処理も担当します。
しかし、処理が間に合わなくなった時、私たちのうち近接戦闘ができる存在がいなければ瓦解します。だから、私は近接戦闘ができるようにしなくちゃいけません。」
私は理由の半分を伝える。もう半分の理由もあるのだが、それは今はいい。
「えっ......でも、その前に応援を呼ぶか、結界を解除して退避すればいいんじゃ......」
「結界......?私たちが挑むのは『特殊地下構築物』、一般的にダンジョンと呼ばれている場所です。前からも後ろからも魔物が来るかもなのに退避なんてできるかもわからないし、応援は電波が通じるかどうかもわかりません。
優希課長秘書の〔伝心〕で呼んでもいいですが深い階層の探索なら応援が来るまでの間の時間はかなりの長さになると思いますが?」
そこで柏田は、ふと気付いたようなそぶりを見せた。そして、
「すんませんっした!」
と、頭を下げて謝ってきた。
驚いた。彼は声を大きくするようなタイプではないと思っていたが。
「自分、皆さんが『特対課』で戦うわけじゃなくて、自分もそれを知ってたのに『特対課』とおんなじ感じでやればいいって思ってて......申し訳ないっす!」
ああ、そういうことか。迷宮という閉鎖空間ではなく、街中に現れる魔物相手に戦う『特対課』と同じと考えていたと。
「あの、そこまで別にしなくても......」
「そういうことならお任せくださいっす。近接武器は......あった!」
そう言って取り出したのは一本の両刃の短剣だ。ただしこちらも握り手の根元には魔石が埋め込まれている。
何より目を引くのは刃の部分だ。
蒼い。矢車菊色の刃だ。美しく、青よりも青い色をしている。
「こいつは魔物の牙とそいつの魔石、それから骨と皮を使って作られたものっす。魔物は肉体が分離したり狩猟して魔石を抜くと灰になるっすけど、稀に体の一部を落とすんすよ。
こいつは、その魔物の遺品......ゲーム的に言えばドロップアイテムで作られたもんっす。魔力をよく伝導するんで、魔法用の杖にもなるし、戦闘用の武器にもなるっす。」
そう言って柏田は私に対してその短剣を渡してくる。
「いや......それって貴重じゃないですか?」
「いいっすいいっす!ダンジョンの中で使うならこれがいいでしょうし、こいつをいつまでも腐らせておくわけにはいかないっす!」
「いや......でも、受け取れませんよ!こんないいもの。」
私は断る。すると、
「その通りだ。柏田君。」
誰かが私たちの会話に入ってきた。
(すみません優希課長秘書、あの人誰ですか?)
(『特対課』の3係の係長よ......なんでここにいるの......)
優希課長秘書は辟易とした顔だ。
その人物......『特対課』の3係の係長は、恰幅の良い男性だった。脂ぎっているわけではなく、清潔ではあるがどこか嫌な雰囲気を纏っている。顔はふっくらとしているが、その眼光はまるでアイスピックのような鋭さだ。
「柏田君......そこの『特殊地下構築物攻略課』はまだまだ出来立ての課だぞ?そちらに有用な武器を渡すより、『特殊害獣対策課』に渡した方がいいのではないかね?」
成程、この係長はこの蒼い短剣を自分たちの課に持っていきたいわけだ。
「柳沢係長......しかしっすね......」
「しかし、ではないのだよ。そもそも『特殊地下構築物』からは『特殊害獣』が外に出て来なかった、という話ではないか。だが我々『特殊害獣対策課』は都市部に現れる『特殊害獣』を相手にしている。
ならば迅速に狩猟できるように我々にその武器を与えるべきではないかね?何、3係でなくてもいいんだ。1係にでも与えれば有用に使うことだろう。」
(3係でなくてもいい......?柳沢係長らしくない......いや、まさか神崎課長の命令!?)
(神崎課長って......もしや『特対課』の課長ですか?)
私は優希課長秘書に気になったことを聞く。
(ええ、そうよ。通称『金色の豚』。いつも金ピカの腕時計つけてて金歯で豚っぽい体型から付けられた柳沢係長よりも油っぽいやつ......あいつ、私が速攻で抜けた腹いせにこんなこと柳沢係長に命じたんだわ!)
(ちょ......なんとかできないんですか優希課長秘書!柏田押されてますよ!?)
「柏田君、そもそも何故そのような武器があるのだと我々に教えなかった?早く言ってくれればそこの八千代君が出くわした『皐月』とやらも捕縛できたかもしれんぞ......?このままでは、処分もあり得るかもなぁ?」
「いや......あの、それは......」
『皐月』。それが八千代課長が左遷される理由になった魔物らしい。まるで人のような名前の魔物だ。しかも斃せていないのか。
(無理ね。こっちの土台が弱すぎる。あっちは何ヶ月も国を魔物の手から守ってきた実績ある課、対してこっちは生まれて間もない課。流石に無茶苦茶理論なら言い返せもするんだけど、正論パンチな以上私たちの立場からは何も言えないわ......)
(そんなぁ......!)
「少々お待ちください、柳沢係長。」
そんな時、八千代課長が声を上げた。
「うん......?なんだね?八千代君?君たちの課に行くよりも、我々の課にこの短剣が渡る方が良いのではないか?」
「いえ、その前に。」
ん?短剣のことではない?
「謝罪、してください。今すぐに、頭を下げて。」
そう、侮蔑のこもった顔で八千代課長は言った。
「何......?」
「先程の柳沢係長の無礼は目に余ります。今すぐに謝っていただければ貸し一つでなかったことにしてもよろしいですよ?」
八千代課長は柳沢係長にそう言う。
「......八千代君、私が君に一体なんの無礼を———」
「はい、それ。」
「何?」
「だから、それですよ。さっきから八千代君八千代君って。私は課長ですよ?係長が何上から目線で言ってるんですか?」
「......だが、私と君は元々上下関係が逆だったはずだ。ならば、「敬語。」......」
「......であるのならば、以前の感覚で話してしまうこともあるでしょう。少しくらいの失態は許されても良いのでは?八千代課長?」
柳沢係長は苦々しく言った。
「過去は過去、今は今です。そもそも私が上下関係について指摘したあと、あなたはすぐに改めなかった。それは私を上だと思ってない証でしょう?」
「いや、しかしだね———」
「はい、無礼。これ以上言うなら貸し一つずつ増やしていくつもりですので。」
「......しかしですね、上司にもある程度の器が必要なのだと私は思うのですよ八千代課長。」
「全くもってその通りです。そして私の持つ器の許容をあなたはとっくに過ぎています。」
いつのまにか、周りが静かになっている。
二人の口論だけが『特装課』に響く。
「......そうですか。しかし、私に強く当たる必要はないのでは?そもそも柏田が我々にすぐに報告していれば、私がここの会話に参加することもなかったはずです。」
「論点をずらさないでください。今、私が柳沢係長に対して追求しているのは『柳沢係長が柏田との会話の最中の私本人の前での無礼』であり、柏田の未報告ではありません。
そもそも柏田に『特殊害獣対策課』に対する報告義務はありませんし、おそらくこの武器を作ったであろう『特殊害獣研究課』も『特殊害獣対策課』への報告義務はございません。」
「そもそもあなたは子供で、私は大人です。大人は子供を導くための存在であるため、子供に多少きつい言い方をしても良いのではないでしょうか?」
「法律及び条例にそのような明確な記載はないと思われますが。そしてそれを持ち出すのであればあなたは部下で、私は上司です。不出来な部下に対して、上司が温情を持って対応し、教育するのは正解かどうかはともかく間違いではないと思われますが。」
「......しかし———「いいから。」な......」
「い・い・か・ら・さ・っ・さ・と・あ・や・ま・れ。」
「......すみませんでし「頭を下げて謝れと最初に言ったはずですが?」ぐっ......」
「申し訳......ありませんでした......八千代課長......」
柳沢係長が頭を下げた。
「何故自分が頭を下げているのかわかっていますか?その理由を頭を下げたままもう一度謝ってください。」
「なっ......!「増やしますよ?」わかり......ました。」
柳沢係長はもう一度言う。
「私は......八千代課長の目の前で八千代課長に対して......不敬な言葉を幾度となく用い......その非を認めることなく八千代課長に対しての謝罪を伸ばし続けました......今ここに、謝罪いたします......」
柳沢係長は苦しげにそう言った。
「ふむ、まあいいでしょう。あ、それと貸しですけどこの短剣でチャラってことで。」
成程、八千代課長はこれが目的だったのか。
「......このことは委員会に報告させてもらうぞ、八千代......!」
柳沢係長は憤怒の籠った目で八千代課長を睨みつける。
「あ、どうぞどうぞ。あなたの言い分を証拠を提出された委員会が聞くかどうかは知りませんけど。」
そう言って、八千代課長はポケットから取り出した録音中のスマートフォンを取り出した。
「は......?」
「そもそも、どうやって訴えるつもりだったんですか?『私は八千代課長に言い負かされてしまったので助けてください委員会様』って泣きつくんですか?14歳に負ける42歳......ハッ、笑い物でしょうね。しかもいざとなったら他力本願。勝ったとしても局内で退職まで笑われ続けますよ?
というか、それを無かったことにしてやろうとしてるのに自分からバラすんですか?さらに笑えますね。
あ、ちなみにどうあがいても言い返せませんよ?自供付きなので。」
「な......!な......!」
柳沢係長は動揺して言葉が出ていない。
そして、八千代課長は止めの一言を言った。
「あ、そうだ!上司を脅した件についても追求しなければいけませんね!今なら貸し三つで我慢してあげますよ?」




