第十話 偽装
「ふぅ......」
私は一息吐く。どうにかうまく行った。そう思い、家路につく。
使ったのは偽装のスキルと光変化だ。光変化で自分の姿を原形が残らないほどに変え、偽装で自分のステータスを書き換えた。相手がステータスを見てくれるかは疑問だったが、どうやらしっかり見てくれたようだ。
しかし一つ気になるのは、
「なんであんな反応なんだろう......?」
私としては「結構強いが数がいれば勝てなくもない」というぐらいにしたのだが、状況が良くなかったのだろうか?
ちなみに本来の私のステータスは魔力の上限が増えたぐらいでそれ以外は変化はない。
まあ取り敢えず鬼っ子少女皐月ちゃんの方にしばらく目が行く筈だ。ゴミその1とその2の殺害も皐月になすりつけたので私はこれから安心して生活できる。
そう思っていると鈴の音が頭の中で鳴った。
.....?私は不思議に思う。だが最近こういう不可思議な現象はタブレットを見ればわかるのでタブレットを確認する。
「ん?んん?」
そこにはこう書かれていた。
<聖典スキルの所有者が出現しました。本日世界基準時間0時に、大型アップデートを行います。
アップデート内容:①魔物の追加
②スキル及び職業の追加
③ダンジョンの追加
また、パッチ保有者の数が少ないという要望があったため、保有者を増加いたします。
サービス開始まではまだ時間がありますが、皆様どうぞお付き合いくださいませ。 >
......あれ?もしかして、
私、なんかやらかした?
§
「ですから!居たんですってば!」
「いやあ、でもねえ。今まで人型魔物は出現してなかったでしょ?それにいきなり強すぎるじゃない?今まで良くてEーぐらいの奴らばっかだったじゃない。」
あたしは2係の係長に皐月のことを伝える。そしたら係長は「そんな奴いない。君は同期の人間を失ったショックで錯乱しているだけだ。」とか抜かし始めたので私はキレまくった。
「だとしても!確かに皐月は居たんです!」
「と言われてもねぇ......まあとにかく、今日は休みなさい。後、給料引いておくから。それじゃあね。」
思わずコイツのことをぶん殴りたくなる。が、我慢する。そんなことをすれば流石にクビだ。
「桜ちゃん......大丈夫......?」
「ええ大丈夫です紗枝さん。私はこれっぽっちも怒っていません。ええ本当です!」
「それは怒ってるっていうのよ......?」
紗枝さんがあたしを慰めてくれる。だけどあたしはその声に耳を傾けず、さっさと退勤しようとする係長を睨み続けた。
そんな時、脳に通知音が響いた。
......嫌な予感がする。職業システムの追加の時も、ロクな目に合わなかった。
通知にはこう書いてあった。
<聖典スキルの所有者が出現しました。本日世界基準時間0時に、大型アップデートを行います。
アップデート内容:①魔物の追加
②スキル及び職業の追加
③ダンジョンの追加
また、パッチ保有者の数が少ないという要望があったため、保有者を増加いたします。
サービス開始まではまだ時間がありますが、皆様どうぞお付き合いくださいませ。 >
あたしはそれを見て、恐らく保有者は皐月だと推測する。聖典スキルとやらが何かはわからないが、そんな凄そうなスキルの持ち主が出現するならばほぼ確実に皐月だ。
だがそこは問題ではない。一番やばいのは③番目だった。
「ダンジョンの......追加......?」
ダンジョン。地下迷宮。創作物の存在であり、石煉瓦で組まれたものもあれば神殿系のものもある。しかし、そちらではなく、中には魔物がポップするという特徴の方が問題だった。
「あ......ああ......」
あたし達は先駆者だ。お国に使える存在だ。恐らくこのダンジョンの攻略に駆り出され、戦わされる運命にある。
そう感じとった時、係長がいい笑顔であたしに近づきこう言った。
「八千代くん、さっきの話......詳しく聞かせていただけるかな?」
この後あたしは何故か始末書を書かされ、このダンジョン出現の対策の責任者にされた。
ねえ仁。あんたがいなくてもあたしは仕事が増えそうだよ......
§
その日、世界基準時間0時に世界中にダンジョンが出現。
出現箇所はまばらだが、ダンジョンには二つの特徴があった。
それは、国の人口が100万いるごとにダンジョンが1つ増加しているというもの。
そしてもう一つはダンジョン内部には決まってその国の公用語でこう書かれていた。
「ダンジョンの入り口を封鎖しないでください。
もし入り口を封鎖した場合、スタンピードが発生します。
また、入念に管理しなければスタンピードが発生しますのでご注意ください。」
事実、それまで少数だが世界に出現していた魔物だが、その日パッタリと居なくなった。
ダンジョンは政府の動きによって民間には秘匿されようとしたが不可能であり、世間は賑わった。