第11話 ムズい
くそう、しくじった!
そうアイリ・ライハラは後悔しながら都市城壁から跳び退いた。
途中、火焔撒き散らし数人のパーティーを掻き乱すパブスに上空通過しながら大魔王は怒鳴った。
「引き返すぞパブス!」
小さな双角の少女が顔を振り上げたのを眼に肆し、アイリは魔物らの間に着地し向きを変えさらに跳び上がって魔物らを雷撃で蹴散らす巨竜を迂回し、さらに眼にした黒騎士ダウンクラー・リッターへも戻れと声掛け、御輿座のある方へさらに跳躍重ねた。
本陣を守っていた火刑人ヴェラの傍らにいきなり飛び下りてきた大魔王にヴェラは頭垂れ声を掛けた。
「お疲れ様でございます。無事帰還され恐悦至極で御座います」
アイリは手に握る赤い長剣を切っ先から霧散させるとヴェラに告げた。
「失敗だ。人間どもの策乱に邪魔されたよ」
アイリの言い草にヴェラは愕いて問い返した。
「敵は狡猾です。大魔王様がご無事だったことの方が何よりです」
アイリは都市城壁へと詰め寄る魔物らへ振り向き苦々しく言い捨てた。
「状況は芳しくない。人間どもとあの巨竜は攻勢に持ちこたえ巻き返し掛かっている」
言い終えた少時、近くにパブスが飛び下りてきてアイリに文句を告げた。
「ああもう! 大魔王様ぁ、もう少しで城壁前にいるパーティーを散りぢりにできたんですよ!」
するとアイリは六災厄の少女に返した。
「お前おいて戻れんよ。危なっかしいからな」
言われパブスは腕組みし唇尖らせた。
それを見てアイリは残虐の侯爵バザロフに声を掛けるのを失念していたことに気づいた。だがあの老いぼれは強かなのでそう心配ではなかった。自力で生還してくるとアイリは踏んだ。
「大魔王様、妾の実験体をお預かり下されば、妾が人間どものパーティーなど殲滅してまいりまする」
そうヴェラに言われアイリは半身振り向いて断った。
「ヴェラ止めておけ。お前が単独でやれるほどあいつらは脆弱じゃない。運が向かねば簡単に返り討ちにされる────それにその人の子はお前にしか懐いていない」
アイリはもどってくる死霊使いの黒騎士に気づき片腕を振り上げ手を振って呼び寄せた。
騎士ダウンクラー・リッターは大きく跳躍すると片膝地に着いて頭下げた。
「大魔王様が巨竜を倒せませんでしたことは、ひとえに我があの天界の眷属の気を引きつけられなかったからです」
そう死霊使いが謝るとアイリは否定した。
「いや、お前のせいじゃないよダウンクラー。人間の女から邪魔されたんだ。どうも人だったころの俺を知ってる奴だった──因縁ってやつかな」
聞いていてさらに黒騎士は頭下げた。
貴女を大魔王へ差し向けたのは私──その責は妾にあり、どの民にも兵を差し向ける理由にはなりません。妾の元に戻らなければ────復讐はできませんよ!
アイリ・ライハラはあの煌びやかな女が告げたことを思いだし腹立ちが重なった。
ずいぶんだと思った。
あの思い出せない女は何かを知っていてけしかけていた。
そこに俺が人を滅ぼしたいという衝動の根元があるとアイリは思った。
あの女をひっくるめこの大陸から糞どもを消し去る。
ああ────ふと気づいた。
あの押しつけの強さに人は皆同じだと思った。
ほんとうにそれでいいのかとも思いアイリは頭痛に苛立ちから鷲掴みにされた。
潰せ──つぶせ────人間どもなど消えてなくなれ。
その凄まじいまでの大魔王の怒りに黒騎士は地面に片膝ついたまま顔を上げ、やり取り聞いていた火刑人ヴェラは顔を強ばらせた。
「ヴェラ! 俺はもう一度あの青竜の首を取りにいく。本陣を任せる!」
そう言い放った大魔王にヴェラは問い返した。
「何のご冗談を──お一人でですか!?」
寸秒、跳躍したアイリの残像がそこに残っていた。
「パブス! ダウンクラー! 大魔王様に追いつき守りなさい!」
火刑人ヴェラがそう怒鳴った刹那ヴェラの妹と死霊使いが跳躍し遠空に消え去ると、ヴェラは思った。
先代の大魔王様より御し難い。




