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てんもんぶっ!!  作者: あさくらまひろ


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① 新学期、始まります!!

「……見事なまでに全滅だな」


 新しい教室の窓際で、俺は小さくため息をついた。去年の仲良しグループで、このクラスになったのは俺一人だけだ。


「あの、隣の席……だよね?」

「ん?」


 声をかけられて顔を上げると、水瀬葵が立っていた。

 サラサラの長い黒髪に、シュッとした小さな顔。身長は俺の肩ぐらいでそれほど小柄ってわけでもない。

 学年でも有名な美人がなぜ俺なんかに、と少し身構えてしまう。


「私、水瀬葵(みなせあおい)。一年生のときは別のクラスだったよね。これからよろしく、相沢くん」

「あ、ああ。よろしく、水瀬さん。……って、俺の名前知ってたのか?」

「さっき廊下の名簿、しっかり見てきたから」


 水瀬さんは細い髪を耳にかけながら、いたずらっぽく笑う。見た目通り清楚なのに、意外とノリが良くて話しやすい。


「だって、隣の席がどんな人か気になるでしょう? ……それより相沢くん、さっきすごく遠い目をして窓の外見てたよ」

「あー……見られてたか。去年の仲良かった奴らと、見事にクラスが離れちゃってさ」

「そっか。実は私も、去年仲良かった子と離れちゃったんだ」


 少しだけ寂しそうに目を伏せる水瀬さん。美人がそういう顔をすると、なんだか妙にドキッとする。


「だから、最初は誰と喋ろうって少し緊張してて。……相沢くんが優しそうな人で、安心した」

「俺なんかでよければ、いくらでも話し相手になるよ」

「ほんと? 約束ね。じゃあ、まずは友達第一号だね」


 水瀬さんが嬉しそうに微笑んだ。ちょうどその時だった。


「おい陸ー! お前、ほんとに一人だけ別クラスかよ! 生きてるかー!?」


 教室の後ろの扉を勢いよく開けて、幼馴染の蓮が乗り込んできた。

 相変わらず騒がしい蓮はオタクな部分にさえ目をつぶればイケメンでモテる。オタクな部分さえ目をつぶれば。一応彼女あり。ちゃんと三次元のバスケ部彼女。


「わざわざ別のクラスから冷やかしに来るなよ……」

「心配して来てやったのに――って、あれ? お前、水瀬さんと知り合いだったっけ?」

「今ちょうど隣の席で挨拶してたところだよ」

「へえ……。お前、二年の最初から特等席じゃん」


 蓮がニヤニヤしながら俺の肩を小突いてくる。

 余計なことを言うな、と視線で威嚇しておく。


「ふふ、相沢くんのお友達? 賑やかで楽しそうな人だね」

「城島蓮(じょうしまれん)っていうんだ。ただの腐れ縁だよ」

「おいおい、親友って言ってくれよなー。あ、水瀬さん、こいつ退屈な奴だけどよろしくね!」


 そんなやり取りをしているうちに、周りのクラスメイトたちとも自然と会話が弾み始めた。ひとりぼっちになるかと思った新学期は、どうやら悪くないスタートになりそうだ。



 *



 放課後、文化部棟にある部室のドアを開けると、ふんわりと甘い香りがした。


「あ、陸くんだー。進級おめでとう、お疲れさまぁ」


 柔らかい茶髪を揺らして、三年生の橘凜乃(たちばなりの)先輩がニコニコと手を振ってくれる。先輩はちょっとだけ全体に丸っこい……むっちり……いや大人っぽい……? まあとにかく先輩だ。


 俺が入っている部活は天文部でここは天文部の部室。……とはいっても、昼間や放課後に星なんて見えるはずもなく、普段はこうして駄弁るだけのたまり場になっている。


「お疲れさまです、凜乃先輩。新学期早々、もうおやつですか?」

「んー? お祝いだからいいの。ほら、陸くんも半分こしよう?」

「ありがとうございます。……ところで先輩、今年は新入部員、入ると思います?」

「そうだねぇ、誰か可愛い子が入ってきてくれたら、夏休みの合宿も賑やかになるねぇ」

「それ、ただの旅行じゃないですか?」


 設立したのが卒業生だったので去年までは先輩たちがたくさん――10人くらい――いた。ちなみに俺は天文部3期生ね。

 そんなゆるい会話をしていた、ちょうどその時だった。


「あれ、陸。やっぱりここか」


 部室のドアがノックもなしに開き、蓮がひょっこり顔を出した。その後ろには、なんと今日隣の席になったばかりの水瀬さんの姿もある。


「蓮、お前部員じゃないだろ。せめてノックを――って、なんで水瀬さんまで?」

「いやあ、放課後どこかの部活見に行きたいって言うからさ、陸のいる面白い場所教えてやるって連れてきたんだよ」

「お邪魔してます、相沢くん。……ここ、天文部なんだね」


 水瀬さんが興味深そうに部室を見回す。細い黒髪が揺れて、殺風景な部室が急に華やいだ気がした。


「うわぁ、可愛いお客さんだぁ。いらっしゃい、私が部長の橘凜乃だよぉ」

「はじめまして、二年の水瀬葵です。……あの、相沢くん。私もこの部活、入ってもいいかな?」

「え? でもここ、普段は本当に何もしないのに部費を回収され続ける名ばかり天文部だぞ?」

「うん、なんだか人も少なくてすごく居心地が良さそうだから。……それに、相沢くんともっと仲良くなりたいし」


 水瀬さんが少しだけ照れたように微笑む。そんなことを言われたら、断れるはずがない。


「大歓迎だよぉ! ね、陸くん?」

「あ、ああ。もちろん歓迎するよ」



 *



 それから数日後。恙(つつが)なく新体制での部活も始まり、とうとう新入生の部活見学が始まった放課後のことだ。

 水瀬さんもすっかり部室に馴染んで、凜乃先輩とお茶を淹れていた時――バンッ! と勢いよく部室の扉が開いた。


「りく先輩っ! やっと見つけました!」

「うおっ!?」


 背後から突然飛びつかれ、背中に信じられないほど柔らかくて弾力のある感触がむぎゅっと押し当てられた。

 慌てて振り返ると、鮮やかなピンク色の髪を揺らした小柄な童女が、俺の腕にぎゅっと抱きついていた。


「……って、めい? なんでお前がここにいるんだ!?」


 制服を着ているのが不思議なほど小柄で童顔なのに、胸元だけはボタンが弾けそうなほど発育がいい。中学時代の後輩――一ノ瀬(いちのせ)めいだ。後輩と言っても文化祭の実行委員会で一緒だったくらいなんだが。ひどいなつかれようだ。


「むー、ひどい反応です! めいも今年からこの高校に入学したんですよ!?」

「聞いてないぞそんなの。あと、とりあえず少し離れろって」

「やですーっ! りく先輩に会いたくて、部室を探し回ったんですからね!」


 めいが意地になって腕を絡めてくるせいで、二の腕にたわわな膨らみが容赦なく食い込んでくる。ピンクの髪から甘いシャンプーの香りまでして、心臓に悪すぎる。


「あらあら、陸くんの知り合い? うわぁ、ちっちゃくてお人形さんみたいに可愛いのに、すごいスタイルだねぇ」

「えへへ、そうですか? ……って、むっ! りく先輩、そっちの綺麗な人たちは誰ですか!?」


 めいが俺の腕をさらに強く抱きしめながら、警戒するように水瀬さんと凜乃先輩を見る。

 綺麗な人。と言われてふたりは嬉しそうだ。


「三年生の凜乃先輩と、同じクラスの水瀬さんだよ」

「はじめまして、水瀬葵です。よろしくね、めいちゃん」


 水瀬さんは優しく微笑んでいるけれど、俺の腕に密着しているめいの胸元を見て、ほんの一瞬だけ自分の胸に視線を落とした気がした。


「め、めいちゃん……!? むー、私も今日からこの部活に入りますからね! りく先輩の隣は譲りませんから!」

「お、おい、だから引っ張るなって……」


 スラッとした黒髪美人の水瀬さん、むっちり癒やし系の凜乃先輩、そして小柄なのに破壊力抜群なめい。

 静かだったはずの名ばかり天文部は、なんだか男として理性を試される場所になってしまった気がする。

 当たり前のことだが、今日もお菓子を食べて駄弁って帰っただけだ。星が見えないんだから仕方ない。

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