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-  第1話 転生  -

あの日、

俺は一人、誰にも知られることなく静かに死んだ。


誰かに恨まれることもなければ、誰かに惜しまれることもなかった。

ただ、布団の中で目を閉じたまま、人生を終えた。


最後に思ったのは、悔い──ですらなかった。

「もう少しだけ、頑張れていたら。」

そんな、ぼんやりとした後悔にも似た感情だった。


でも、どうせ無理だった。

生きることに疲れきって、誰にも期待しないで、心を閉ざして、

何も変わらないと諦めていた俺に、何ができただろう。


──そんなふうに、世界に背を向けたまま、

俺は終わった。


終わった、はずだった。


光に包まれる感覚。

耳をつんざくような音もなく、ただ、柔らかく、ぬるま湯の中に沈むような──そんな感触。


目を開けようとしても開けられない。

手を動かそうとしても、指が思うように動かない。


……これは、夢だろうか。


「──ん、……かわいいな……」


遠くで、誰かの声がした。

あたたかくて、懐かしくて、けれど知らない声。

言葉は聞き取れるのに、意味を理解するのに時間がかかった。


「元気な子だ。セリア、よく頑張ったな」


セリア。誰だ。

世界がぼやけていて、俺はただ、揺りかごに揺られているような気分だった。


暖かい。

柔らかい。

心地いい。


思わず、俺は小さな声を上げた。

いや、正確には──赤子の泣き声、だった。


誰かが、優しく俺を抱き上げる。

暖かくて、包み込まれるような腕の中。

胸に耳を押し当てると、どくん、どくん、とゆっくり脈打つ音が聞こえた。


……これが、命の音だ。


何もわからないくせに、

心の奥のどこかで、それだけははっきりとわかった。


ああ──

俺は、生まれ変わったのだ。


それからの時間は、混沌としていた。


目が覚めれば、誰かの顔が覗き込んでいる。

声が聞こえる。笑い声、時折聞こえる泣き声、柔らかい歌。

だけど何も理解できない。ただ、音の波に流されるだけだった。


体は自由に動かない。

指先すらも、思うように動かせなかった。


赤子として、ゼロからのスタート。


この世界に、自分がどう存在するのか、

何をすべきか、考える余裕などなかった。


ただ、

あたたかい腕に抱かれて、胸の音を聞き、

そして、なぜだか涙が溢れた。


泣く理由なんて、わからなかった。

でも、きっと──


これは、前世では味わえなかった、

温もりに触れたからだ。


俺は、確かに、生きている。


世界はまだ、俺を受け入れてくれているのかもしれない。


そんな、微かな感覚だけを胸に、

俺は、新たな人生の最初の一歩を踏み出した。


──そしてまだ、このときの俺は知らなかった。

この小さな温もりこそが、これから歩む長い長い旅路の、最初の光になることを。

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