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解離性フラジール  作者: 雪時雨
第一章 ペンフィールドの小人たち
19/22

事実は小説よりも奇なり

冬樹らが協会に着く時、辺りはすでに明るくなってすっかり星が消えていた。その光景を見てこの前公園で桜園と過ごしたことを冬樹は思い出した。

そういえばこうやってこの前桜園さんと公園で過ごしたっけ…。結構最近だったけどなんだか遠い昔のように懐かしいなぁ。…やっぱり桜園さんには死んでほしくない。なんとしても今回の作戦を成功させなくちゃ…。

冬樹が改めて自分の作戦を成功させることを心の中で誓うと、篠原が本部の方へ連絡と対策案を入れてくるから少し時間がかかると言って2人と別れた。取り残された冬樹と桜園はひとまず篠原の指示通りに会議室へ向かった。

2人が会議室へ到着すると当然だが人は誰もいない。そして男女2人だけが存在する空間となって非常に気まずくなった。この空気が耐え難い冬樹はとりあえず何か話を桜園に振った。

「香織さん、結構この施設って色々と揃ってるんですね。連絡室、医療室、会議室、休憩室、武器弾薬食料エトセトラ…。」

すると桜園は「そうですね」と言って冬樹の会話の話を続けた。

「ここは一応奴らとの籠城戦も出来るように設計されています。そのため一通りの設備は整っているし、弾薬や食料の残量もばっちりなはずです。そして建築物の壁には特殊な複合合金が使用されているため、多少の攻撃には耐えられるかと。…さすがにチャージャー級以上の攻撃には耐えられないと思いますけど。」

へぇ、そうだったんだ。桜園さんはユーオに関する知識だけでなく、解離協会についても詳しいんだなぁ。でも本部から直接情報が提供されるチーフでもないのに、どうやってそれらの情報を得ているんだろう? やっぱり協会にも一目置かれる実力の持ち主は、それだけ協会からの情報提供などの協力も多いんだろうか?

普段の桜園の知識量からもどうやってその情報を仕入れているのか非常に気になった。今までは作戦中であったり、学校で会うことしかなかったので聞けなかったが、この際思い切って聞いてみようと思った。

しかしそれを聞こうとした瞬間、桜園が先に口を開いた。

「それと、今は別に下の名前じゃなくても構わないんですよ?今は作戦外の行動ですし、いつも冬樹さんは学校では私のことを名字で呼ばれているようですし。」

「へ?あ、ああ。」

続けて真面目な話を切り出そうとした冬樹であったが、桜園からの予想外な質問に拍子抜けして、思わず変な声が出た。そしてその質問のせいか、さっきまで緊張して張りつめていたものがほぐれたような気がして、少し笑いながら返した。

「いや、なんか変えるのがめんどくさいんで別に自分はいいですよ…。と言うか香織さんが良ければ出すけど。」

「私は全然かまいませんよ。なら私も少々めんどくさいので同じように呼ばせてもらっても構いませんか?」

普段は冷静沈着で頭脳明晰な桜園さんもめんどくさいとかやっぱり思ったりするんか。さっきは人の死に対して疎いと思ったから少し変に感じたけど、やっぱり人間なんだな。少し安心した。

冬樹はおもしろい桜園の返答に思わず笑ってしまった。

その様子を見て、何が面白いのかわからない桜園は首を傾げた。

その可愛げがありながらも不思議そうな様子を見て、ますますおかしくなった冬樹はクスッ笑い続けて、さらに別の提案をした。

「では香織さん、もういっそのこと丁寧語や敬語もやめません?と言うかやめていいかな?一応友達ってことで」

その冬樹の言葉に何か意図があるのではと、少し首を曲げて考えるそぶりを見せた。しかし何も思い浮かばなかったのか、少し恐る恐るな感じで返答をした。

「友達ですか…私は別に構いませんけど…、その、善処しますが使ってしまうかもしれません。それでもいいですか?」

「いえ、全然大丈夫ですよ。ん!大丈夫よ。」

その無理やり敬語を使わないように話そうとする冬樹を見て思わず面白くなり、桜園はクスッと笑った。そしてむしろ敬語を使わない方が無理してるのではないかと思い、面白おかしく感じた。そして笑い終わった後、その冬樹の言動にフォローを入れようとした。

「とりあえずそういうことにしておきましょう。…っと、どうやら同じ感じですし、うっ…、でしゅ、だしゅ、だし。」

いや、そっちの方が無理してるっぽいじゃん!大丈夫かよ!?

桜園は冬樹よりもさらに丁寧語に詰まった様子で話したので、冬樹は思わず面白くなって笑ってしまった。無理してるのはお互い様だなと思ったが、それでもうまくやっていけそうなのでとりあえずはそのままにしてみることにした。一方恥ずかしかったのか、桜園は後ろ側を振り向いて顔を見せないようにしていた。


ガチャッ

そんな会話をしていると、報告を終えたらしい篠原が部屋に入ってきた。2人の様子を見て不思議がりながら話しかけてきた。

「2人ともどうしたんだ?香織が笑うのは珍しいが、冬樹、お前香織に何かしたか…?」

なんだか少し篠原さんがこちらに向ける視線が痛い…。そういえば篠原さんと香織さんってどんな関係だったっけ?

「いえいえ何もしてませんよ!ほんとですって!…それより、香織さんと恭二さんってどんな関係なんですか?作戦を練る時などはよく2人で話し合ってるのは見かけますけど、なんだかそれ以上な関係な気が…。」

そこまで話した途端、冬樹は己がもしかして非常にまずいことを聞いたのではと焦燥感に駆られた。

今まではそこまで思ってなかったけど、改めて考えると2人って親密過ぎない…?もしかして!?いやいやでも2人は歳が30歳以上離れてるし…、でもでも最近は歳の差婚とか聞くし…?いやでも桜園さんに限ってこんなおじさんが好み?だったらショックだなぁ。いやいや、別に篠原さんを悪く思ってるわけでもなく、俺が桜園さんを思ってるわけでもないんだけど!?!?

そんな冬樹に対し、困った様子でなかなか答えを出そうとしない篠原だったが、その真実は桜園から告げられた。

「恭二さん…篠原恭二は私のお父さんなの。」

「ええええええ!?!?!?」

まさかのカミングアウトに冬樹は目が飛び出るほど驚いた。そしてその大声は部屋だけでなく恐らく外まで響いただろう。

うっそだろおい…篠原さんが香織さんのお父さん!?!?え、マジ!?…あれ?でも名字違うけどどういうこと…?

そう冬樹が思った直後、その疑問は篠原の言葉によって解決される。

「と言っても、俺の本当の子じゃない。震災があったときに両親を亡くしたらしくてな、養子のような感じで俺が面倒を見てたんだ。」

「あっ、だから名字が違うんですね…。なんかいろいろと勘繰っちゃいましたよ…。」

養子だったんだ…。他に余計なことを言わなくてよかった。再婚相手がどーのこーのとか、実は隠し子でとかそんなことは絶対口が裂けても言えない…。

冬樹がその事実に驚くとともに、心の中でセーフセーフと下を向いて思っていた。しかし桜園からしたら、冬樹がまだ何か疑問点が残ってて不審に思ってる、と感じたのか、釘を刺すように冬樹に少しツンとした口調で話した。

「なにか他に疑問はありますか?…でも、あなたがどう思おうと真実はこれなの。と言うことで恭二さんと私が一緒にいるからって怪しまないでね。それにいたとしても基本は作戦についてしか話してないし。」

すると普段は冷たい口調で仏頂面しか表さない桜園が、今は冬樹に対して違う表情を表に出しているため、篠原が珍しいと指摘した。

「なんだか砕けた言い方してるじゃねえか。お前がそうやって話すのも珍しいな。」

すると桜園は篠原の方へ向き直って、どういう感情かわからないが唇を震わせながらその理由を答えた。

「と、ともだち…になった…ので。」

「え?お前ら友達じゃなかったのかよ?確かに仲がよさそうとは思わなかったが。」

あー篠原さんからしたらそう思うか。だって普通に同じ大学で同じクラスって聞くと友達だって思うもんな…。と言うか仲が良くないように見えるって、結構心に刺さるな!

すると桜園は篠原に予想外のことを言われたと言わんばかりに、キョトンとして驚いたような声を出した。

「え?」

それに対し篠原は何か間違ったこと言ったっけと、冬樹はもしかして今の自分の状況を察せてないのかと思い、2人とも同じように驚いた声を出した。

「え?」

「え?」




「で、ここの銃を撃つ役目の人なんだけど、もう2人増やした方がいいと思う。冬樹さんが導き出した計算は確実性が高いけど、それでも耐久ギリギリを貫く計算なので必ずフォートレスを撃破できるかどうかは不確実です」

「なるほどね。じゃあ確実性を期すというなら、この[電子過与]を受ける盾役の人にはタクティカルを1人つけて、[脳力加速]を付けた方がいいかな?」

「確かにそうですね。そうした方がいいかと。」

しばらくすると冬樹と桜園が作戦の細かい内容について話し合ってる姿が見られた。あたりはすでにすっかり明るくなっており2人は眠いだろうが、アドレナリンがガンガン出ているためだろうか、2人は次々と議論を繰り交わしていった。篠原は本部の方から時々連絡が入ってくるので会議室からたまに抜けるが、それでも終わるたびに2人のもとへ戻ってきて作戦の議論に加わっていた。

「ではその前衛の銃2人なんだけど…1人は弥栄川さんとしてもう1人は自分?がやることになるのかな。」

冬樹は先ほど言われた2人は弥栄川と自分が適任だと思い、候補として挙げた。と言うのも、今は立って行動できる橋立はタクティカル要因、幸助や霧島らなどのアタッカー部隊はそもそも銃への適性が低いので護衛兼迎撃として展開するつもりだった。そのため残った人は冬樹と篠原であったが、篠原には射撃の合図をしてもらいたいため、冬樹は自分自身を名乗り上げた。

しかし桜園は意に反して首を横に振った。そして彼女の考えを伝えた。

「いえ、冬樹さんはもしも失敗した場合を考えて最終手段として残しておきたい。」

自分が最終手段?別に俺は構わないけど、そもそも桜園さんの攻撃でダメだった場合はどうしようもないんじゃ…。仮にそれを受け入れたとしても人数が足りないよね。

「別にいいけど、じゃあそこの埋め合わせはどうするの?」

「それについてなんだけど…。」

するとそのタイミングで篠原が部屋に入ってきた。少しうれしそうな顔をしていることから、どうやら吉報があったらしい。篠原はそのまま入ってきた勢いでその吉報について話した。

「喜べ。アメリカ支部の連中が何人か明日の朝までに来てくれるそうだ。これで戦力の補強も可能となった。」

アメリカ支部…!いよいよ話が多ごとになってきたな。いや、戦力提供はありがたいんだけど、俺自身は簡単な日常会話しか英語話せないんだよなぁ…。コミュニケーションとかは大丈夫…なのか?やっぱり通訳とか連れてくるんだろうか?

戦力増強よりも、英語の方が心配になる冬樹は素直に喜べないでいた。しかしそんな冬樹をよそに桜園は篠原に質問をする。

「恭二さん、それで何人は確約でしょうか?それとその人たちのロールは何でしょうか?」

「それについてだが…、できれば6人、確約できるのは3人だそうだ。そいつらのロールはスナイパー、ディフェンダー、タクティカルらしい。まぁ、急に応援要請しといてこれだけ集まるなら上出来だな。」

確かに常識的に考えて、応援要請してから10時間以内に飛行機に乗って日本へ来た後、ほぼ休憩なしの作戦会議後に戦闘を行うんだから、とてもハードな内容だ。それでも数人来るのだから非常にありがたい。でも向こうも解離協会だけでなく日常のこともあるだろうから、よっぽど救世的な人物か、よっぽど暇な人しか来ないだろう。その上、確約で来る人のロールのうち1人はスナイパー。これはもう感謝しかないな。

「それは非常にありがたいですね。それに作戦を練りなおそうとしていたら、ちょうどスナイパーが1人足りなかったんです。」

冬樹に続いて桜園も同様の謝辞を述べた後、再び篠原を交えてしばらく作戦会議を行った。


そういえば大学…、あとで協会に言って病院の診察書でも貰おうかな…。なら…友達にも…連絡…入れなきゃ…。

そう思うと冬樹はスマホを取り出して、友達に『すまん、今日は体調悪くて病院行くから休む』とメッセージを送信し、再び話に参加しようとした。

しかし、思うように体が動かず、瞼が、ゆっくりと、閉じていった。


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