第1話 「夏に咲いた冬の花」
夏の日の朝だったか。世界が終わった。
「おはよ〜!」
「ん、んん。なんだよこんな朝っぱらから」
幼馴染の君が僕を起こす。いつも通りに笑顔を向ける君に私は悪態を吐く。
「え?だって。世界が終わったからさ!」
「は?なに言ってんだよ、」
「あ!そうだ!これ渡さなくちゃね!」
「何だ、プレゼントか?…」
目を擦るがまぶたが重く君の顔は見えない。
「なんだよ、手ぶらじゃないか。」
「ふふふ。きっとアクト君を助けてくれ…」
アラームが鳴る。朝が来た。
「あれ、朝か。なんか、すげぇ大事なこと忘れてる気がする…え?何で泣いてんだ?俺。」
蝉時雨。返事くれ。やかましいことを適当に並べてみる。登校中、あまりの暇さに言葉遊びを始めていた。いつもこんなに暇だったか?と頭を抱える。
「まあいいか。」
ラジカセを取り出しイヤホンをつけた。
「おはよ!アクト!」
「ん?ああ。賢治か。」
「ん?どうしたんだよ相棒!元気ないぜ!?」
「いやぁ。今朝はあんまり良い気分じゃねえんだよ。」
「はは!マスかきすぎたか?」
「やめろって!俺はそんな猿じゃッ!」
(ブーブーブー)
片方のイヤホンからノイズ。共に英単語が流れて来た。
(Higgs…)
プツン!!
(今日も流すよ!いつもの曲!女々しくて!)
イヤホンを外す。歩幅が小さくなる。何か大切な、何か。
「ヒッグス…」
「なに言ってんだ?」
教室に着き、席に座る。ラジオからはいつも通りの番組しか流れない。一体なんだったんだ。
「分からないな…」
「なーにーがー!!」
「翼…頼む。大きい声を出すな。」
翼。彼女は俺の中学からの友人だ。
「うるせよ!翼!」
賢治。幼稚園からの幼馴染だ。
「だってぇ、アクトずっと無視すんだもん。」
「まあ、それもそうだよな。もう昼だって言うのに、ずっと外見てるし。」
「え?もう昼?」
「勘弁しろよぉアクト!認知症にはまだ早いぜ!?」
「本当に心配だよ。」
「大丈夫だ。ちょっと、寝不足なだけだ。」
(認証コードを受信 protect1)
「え?、今誰か喋ったか?」
「いーんや?俺らは焼きそばパン食ってるんだけど。」
「そうだよなッ」
デジャヴ!?きっと、信じてもらえないんだろう。俺の視界と頭には今。
少しだけ未来が見えた。
「アクト〜!どうしたの〜!早くゲーセン行こうよー!」
「よぉし!今日こそ一泡吹かせてやるぜ!」
「へへ!賢治には絶対負けないもん!」
「お前ら元気だなぁ、いつもいつも格ゲーばっかやって」
「おめえは良いよな!俺たちに連勝してんだからさ!」
「おめえらがいつも同じ攻撃しかしねぇのが悪いんだろうが」
騒がしいゲーセン。二人は俺を先導して筐体に座る。
なんか、体が思う通りに動かないな。腕がゆっくりにしか動かない足も、全身が。
「くっそー!負けたー!アクト〜!賢治倒してよー!」
「はぁ仕方ねえな。」
「ふ、ふ、ふ!今日の俺は一味違うぜ!何故なら昨日閉店まで練習してたからな!」
「暇か!勉強しろ!」
くそめちゃくちゃ強くなってやがる。見たことない動きだ。
「やばい!負ける!」
(認証コードを受信 protect1)
「え!?」
後ろで見てた翼が驚く。何に驚いてるんだ。この声か?違う。
俺は目の前に起きてることを説明できない。けれど端的に言うなら、今、目の前の液晶そして、奥に座る賢治の動きが全て脳に伝わる。
「はああああ!?アクト!イカサマだろ!!俺がやる技出す前に全部止めるとか!人間技じゃねえよ!」
「…まぐれだよ。」
そう言うしか無かった。俺にも何が何だから分からない。
「くっそぉ明日ことリベンジだ!じゃあなお前ら!気をつけて帰れよ!」
翼と歩く。翼は何故か俯いている。
「アクト…」
「何だよ。急に立ち止まって、」
「さっきの、何?」
「え?何が?」
「さっきのに決まって!!…いや、気づいてないなら良いや。当分ゲームは辞めようよ、なんか良くない気がする。」
「まあ、ゲームばっかやるより勉強した方が良いのは事実だよな。」
「そうじゃなくてッ!…ごめん先帰るね」
翼は俺を置いて走って行く。俺の違和感に翼は気づいてるみたいだ。けれど俺も説明できないからこそ黙ってしまう。
「少年。この単語に聞き覚えはないかい?」
「ん?誰だよおっさん。」
帽子をかぶり季節外れのロングコートが目立つ。
「不審者か?てめえ」
「少年。この単語に聞き覚えはないかい?Higgs…」
俺の少し動揺も奴は見逃さなかった。有無も言わせずに俺は吹き飛んでいた。
「カハッ!!な、何しやがるてめぇ!」
「やはりHiggsに聞き覚えがあるみたいじゃないか。」
「ヒッグスって何だよ!くっそ!今朝から同じ単語ばっか聞かされてこっちは虫の居所が悪いんだよ!!畜生が!」
「昨日の夜。暗号化されて電波が、とある受信機に向けられて送信された。君。普段もち歩いてるウォークマンとかに見覚えは?」
俺は左胸にしまってあるラジカセに手を伸ばす。
「ふッ!そこか!」
男はまた襲いかかる。人間離れした脚力。腕力。瞬発力。
壁に何度も吹き飛ばされ、体が言うことを聞かなくなっていた。
「少年。今吐いたら楽に殺してやろう。何を送られた。」
「何の話だか、さっぱりだな。」
血反吐が出る。耳が遠のく。
「ああ、やべえな。俺、死ぬな。」
(認証コードを受信。 protect2)
誰の声だ、さっきから。俺は死ぬって言うのによぉ。
「吐きたくないと、死んでも構わんらしいな。ならば。死ね。」
右腕が上がる。重心は両足に集中。空間密度。空気圧。ホコリ。砂。風。
「なッ!何!?」
「なんか、すっげぇ体が動きやすいな。」
体が自由に動く。何だ。あいつがどう攻撃してくるのが手に取るように分かる。
「貴様!どうやって避けた!人間に避けれるはずがないだろ!小僧がぁああ!!」
右フック。左ジャブ2回。左足を重心に右手のアッパー。全てを避ける。
「ありえない!これは、まさか!?ふふふ。ならばこちらも先手を打とう。どうせ貴様のはプロトタイプ!」
「何を言って、」
「ラプラス•アルファ!!」
あれあいつの動きが分からな、あれ。何で俺、空見てんだ。
「フッ!やはり所詮プロトタイプか!」
吹っ飛ばされる。勝てない。動きが分からない。さっきまでの万能感が嘘のように消えた。
「ただ。プロトタイプとは言え所持している。やはり貴様はすぐに消さなければ。」
分からない。何が起こっているのか分からない。俺、死ぬんだろうな。訳も分からないおっさんに殺されて。ヒッグスって何だよ。まじで、俺何してんだろ。賢治、翼。あいつは大丈夫なのかな。俺はもう死ぬみたいッ。今朝の夢が頭を過る。
(ふふふ。きっとアクト君を助けてくれるよ。ラプラスがきっとね)
「わっかんねぇなあ!!どいつもこいつもよぉ!俺に要らないもんばっかり押し付けやがってよ!」
「まだ立てるのか!?この!人外が!まあ良いすぐにでも始末」
「うるせえ!!なあ。真冬。お前なんだろ。お前が最後にくれた物なんだろ!俺はお前を、もう。忘れない。」
「やはり!一条真冬の知り合いか!!だが遅い!もう!」
深く息を吸う。心臓の音が耳に響く。息を吐く。
「ラプラス」
(認証コードを受信。 protect解除。ラプラスを起動します。)
沈黙が響く0.1秒にも満たないであろう沈黙が。だが俺が全てを理解するには充分な時間だった。
「ガハッ!!…何故、私は血を吐いている。一体何が起き、て」
「なぁ。おっさん。最初はなに言ってるか分かんなかったけどよ。もう分かったわ。この世界の全てが。」




