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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 妖精の国のSOS  作者: 稲葉トキオ


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最終話 シュガーの冒険

 庭園で開かれている楽しいお菓子パーティーの片隅で、そのあかるい雰囲気には似つかわしくない一人の男性が、仏頂面でフィナンシェをつまんでいました。


 彼の名はウォルター・ザントブルグ。"難攻不落の地星"の二つ名を持つ、極星魔法つかい(マスターウィザード)です。


 ウォルターは、お菓子パーティーを心ゆくまで楽しんでいるエイルとエミル姉妹たちの様子を、遠巻きに見ていました。その表情には、なにか思うところがあるらしく、眉間にぐっとしわが寄っていました。


 そこへ……同じ極星魔法つかいの称号を持つロウランが、ニヤニヤしながらやってきました。


「やあやあ、ウォルター君。そんなに気になるなら、キミも混ざってくればいいじゃないか。あんまり見つめてると、通報されちゃうぞ」


 ウォルターは、メガネを指でくいと持ち上げました。


「結構」


「……そんなに露骨に不機嫌な顔をするくらいなら、来なければよかったんだ」


「姫君の招待だ。来ないわけにもいくまい」


「強制はなかったはずだけどね。……まあ、そういうことにしといてあげるよ」


 ロウランは、テーブルの上のフィナンシェにぬっと手を伸ばし、むしゃむしゃと食べました。


「……にしても、残念だったねえ。キミの思い通りにならなくて」


「……何の話か、わからないな」


「おっ? とぼけるつもりなんだぁ。ま、いいけどね。キミがそういう態度をとるってことは、"効いてる"ってことだからさ!」


 ロウランは、うれしそうにニヤニヤ笑いながら、もう一個フィナンシェをつまみました。


「……」


 いっぽうのウォルターは、メガネの下の仏頂面を、わずかにしかめました。


 王国の甘味に影響を与える妖精界シュクレーヌ……秩序を重んじる彼としては、なんとしても管理下に置きたかったのでしょう。


 今回の甘味消失事件が解決したあと、みずからのギルドの団員に命じ、シュクレーヌへ突入するつもりでいました。


 ですが……それは、人間たちから逃れるために楽園を作ったシュクレーヌの妖精たちの気持ちを、無視するものです。


 それをよしとしなかったロウランが裏から手を回し、シュクレーヌの女王に、人間界との往来を制限するため結界を強化するよう進言したことで、ウォルターのもくろみは崩れ去ったのでした。


「一応言っておくけど、今回の甘味消失の直接の原因は【魔王ビターダム】だ。シュクレーヌを無理に管理しなくとも、今回みたいなことはそうそう起こらないさ」


「……どうかな。可能性は、ゼロではあるまい」


「そういう物語の主人公みたいなセリフ、キミには全然似合わないよ」


「……」


 ウォルターは、またメガネをくいと持ち上げました。


 そんな彼を、ロウランはキリッとした真剣な目で見つめると、きっぱりと言いました。


「いいかい、よく覚えておけ。不干渉もまた共存のひとつだ。ムリに魔法生物(かれら)の領域をおびやかすようなことは、二度とするな。さもなくば……」


「どうする、というのかな?」


 ロウランは、ずいっとウォルターに顔を近づけました。


「キミを潰す。私のすべてを懸けてでもね」


「……肝に銘じておこう」


 ロウランは満足そうに顔を離すと、姉妹のほうへ振り向きました。


「あー、そうそう。お砂糖の妖精ちゃんを捕まえるためにそそのかした、うちのギルドの二人だけど、責任とってキミのところで引き取って再教育しといてよ。そしたら、今回の件は水に流してあげる。じゃね」


 ロウランはひらひらと手を振ると、そのまま姉妹のほうへと歩いていきました。


「……」


 その後ろ姿をにらみながら、ウォルターは、くいとメガネを持ち上げるのでした。



 ☆ ☆ ☆



 そして、また夕陽が沈み、カラスが鳴きはじめるころ……


 パーティーはおひらきになり、姉妹はアルティナに別れのあいさつをしていました。


「きょうはほんとうにありがとう。おいしかったし、楽しかった!」


『シロンももう、おなかパンパンだよ~……けぷっ』


 シロンのおなかはぽっこりとふくらんでおり、ぷかぷかと浮かぶ姿は、まるで白い風船のようでした。


「よろこんでもらえたようでなによりだ。開いたかいがあったってもんだ」


「貴女は提案しただけですよね」


 腕組みをしてそっくり返るロウランに、アルティナは冷めたツッコミを入れました。


「アルティナも、元気そうで安心したよ」


「……貴女から、そんなふうに言われるとは思いませんでした」


 エイルのやさしげなほほえみに、アルティナは苦笑いで返しました。


「友だちを心配するのは、あたりまえだろ」


「それはどうも」


 いっぽう、スノーベルは妖精仲間のシュガーと話していました。


『きょうは、楽しんでもらえたかしら?』


『うん、とっても。こんなに楽しかったのって、ひさしぶり』


 シュガーも、満足そうな笑顔を浮かべていました。


『あ……チョコレートも、すごくおいしかったです』


『それはよかった。今度は、お店のほうにも来てね』


 大妖精ショコラも、にっこりと笑顔を浮かべました。


『エミルにたのめば、連れて行ってくれるでしょ。あの子も甘いもの、好きだもんね』


『うん……そうしてみるよ。スノーベルとは……今度、いつ会えるかな?』


『まあ、お姫さまのパートナーだからね。基本的にはいそがしくって、なかなか会えないわね。……でも、今回みたいに、なにかあったら、いつでもどこでも助けに行ってあげるわ』


 堂々と胸を張るスノーベルの姿は、シュガーにとって、まぶしくて、たのもしいものでした。


 10年前……自分をいろんなところへ連れ出してくれたときと、変わらない姿でした。


『それはうれしい……けど、今度は、なにもないときに会いたいよ。それに……今度は、わたしがスノーベルを助けてあげたい!』


 勇気と自信に満ちた、シュガーの言葉。


 それは、冒険に出る前のおくびょうな彼女からは、けっして出てこなかったであろう言葉でした。


『……ええ!』


 スノーベルとシュガーは、冷たい手と手を重ね、熱い友情を込めて握手を交わすのでした。


「それじゃあ、またね、アルティナ」


「ええ、エイル、エミル。またこうして、笑顔で会いましょう」


 姉妹とアルティナも、三人でぎゅっと握手を交わしました。


 こうして姉妹たちは王宮をあとにし、自分たちの家へと帰っていったのです。



 ☆ ☆ ☆



 次の日の朝――


『エミルさーん! エイルさーん! パンケーキが焼けましたよー!』


 かわいらしいエプロン姿のシュガーが、にこにこと笑いながら、こうばしい香りをふりまく、ふわふわのパンケーキが山盛りになったお皿を運んできました。


「『いただきまーす!』」


 姉妹はフォークを手に、なかよくパンケーキにかぶりつきました。


「……んまーい!」


「『おいしーい!』」


 姉妹は、これまたなかよく舌鼓を打ちました。


『よろこんでいただけて、うれしいですっ!』


 シュガーは後ろ手を組んで、満足げな笑顔を浮かべました。


「さすがお菓子の国の妖精、甘いもの作りが得意なんだね!」


『いえ、これくらい……シュクレーヌの妖精なら、できてあたりまえですし……』


 エミルにほめられると、シュガーは照れくさそうにもじもじしながら謙遜しました。


 けれど、その口元には、うれしそうな笑みが浮かんでいました。


「シュクレーヌといえば、あれもびっくりだったよね。ほら、こんぺいとうの木!」


「コンフェイト、だよ、お姉ちゃん。まあ、意味はいっしょだけど……」


 そう――姉妹とシュガーがシュクレーヌを救ったお礼に、女王から受け取った、コンフェイトの大樹のタネです。


 家に帰ってすぐ、さっそく庭に植えてみたところ……なんと、あっという間に小さな木が生え、光る星形の実をつけたのです。


 実は硬く、そのままでは食べられませんでした。けれど、外殻を割ってみると……あら、ふしぎ。ひとつの実には、数個のクッキーが。別の実には、数個のチョコレートが入っていたのです。


 シュガーが言うには、これは"おかしなお菓子の木"という魔法の木らしく、毎日ランダムで、お菓子の入った実をつけるという、なんともおかしな木なのだそうです。


 味もまた、とてもおいしくて……きのうの王宮のお菓子パーティーでふるまわれたものにも、負けないほどでした。


『あんなおかしがまいにちたべられるなんて、ゆめみたい! がんばって、よかったね!』


 シロンはパンケーキにかじりつきながら、うれしそうに言いました。


「お菓子のためにがんばったわけじゃないけど……たしかに、すごくうれしいね」


 エミルも、パンケーキのようにふんわりとした笑顔を浮かべました。


「欲を言えば、私はお肉がなる木がほしかったなあ」


 エイルはフォークで口元をつつきながら、虚空を見上げてぼやきました。


『でも……世界のどこかには、ほんとうにそういう木があるかもしれませんよ』


 シュガーはくるりと飛び、テーブルの上に置かれた冒険物語の本を持ち上げながら言いました。


 この本は、エミルが貸してあげたものです。


「そうだね。世界には、もっといろんな、わくわくするものであふれてるはずだよ!」


 エミルもそれに同調するように、立ち上がって言いました。


「よーし! 朝ごはんを食べたら、さっそく肉のなる木を探しに、出発だー!」


『おー!』


 エイルとシロンは、なかよくこぶしを突き上げました。


 シュガーは、そんなふたりの姿を見て、くすくすと笑いました。


 これからも、ステキなものを、いっぱい見たいな。


 そう思いながら、ぎゅうっと本を抱きしめました。


 すると、エミルがそっとそばに立って、ささやきました。


「これからはいっしょに、わくわくすること、いっぱいしようね」


 ……そう、この人となら、きっとできる。


 わたしはまだまだおくびょうで、ちっぽけな妖精だけど……


 友だち、仲間、家族といっしょなら……なんだってできちゃう気がするんだ!


『……はいっ!』


 シュガーは満開の笑顔を咲かせて、パートナーのエミルとタッチを交わしました。


 シュガーの冒険の日々は――いま、このときからはじまったのです。



お読みいただき、ありがとうございました。

これにてこのおはなしは完結となります。ちょうど二ヶ月の連載となりました。

続編はこちらです

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それでは最後に、このおはなしがおもしろかった思っていただけたら、

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