報告危機一髪 2
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これにて完結です!
「つまりお前は、この国の王の母親を殺したわけじゃねーんだな?」
カリムにランプを持ってカリムに悪魔を封印したという報告をすませてから、三日が経った。
ファイサルはアズラクの間に留まっている。その手には、シャハラが渡したルビーの耳飾りが握られていた。
「当たり前だろう? 僕は人の命を梳いとったりしないよ。あれは寿命だった。ただ、僕が枕元に立ったのは本当だ。これがほしかったんでね」
「そのルビー、お前のだったのか」
「それは正しくて正しくないかな。これは僕のもので僕のものではないんだ。僕の恋人が身に着けていたものなんだけど、ずっと前にこれだけ残していなくなっちゃってね」
「ああ、ふられたのか」
「断じて違う」
ファイサルがむっと眉を寄せる。
「百五十年だったか、そのくらいに、彼女はある女性に大きな恩ができてね。その恩返しで遠い西の国まで行ってしまったんだ。恩返しが終わったら戻って来ると言っていたんだけど、まだ帰って来ないところを見ると、厄介な願い事をされたんだと思う」
だから、待っていてねという気持ちでルビーの耳飾りをファイサルに残したのだろうか。なんてロマンチックだろう。
シャハラが感動していると、ユエが水を差した。
「そのルビーが、何だって王家の手に渡ったんだ」
「それなんだけど……」
ファイサルがへにょんと眉尻を下げる。
「百年と少し前にね、僕はうっかりこの国の王妃に恩を作ってしまってね。その王妃の願いが、このルビーの耳飾りだったんだ。あげたくなかったけど、恩は返さないといけない。だから百年ほどしたら返してもらう約束で渡したんだ」
「つまり、ちょうど百年が経ったから取り返しに行ったら、その当時の王妃が病気で寝込んでいたということ?」
「そういうこと」
シャハラの言葉に、ファイサルが頷く。
(そして、王妃を殺したなんて冤罪をかぶせられて、聖職者に封印されたってことね。なんて不運……)
王妃が死に間際にルビーの耳飾りを精霊に返してあげてほしいと言ったのは、ファイサルの願いを正しく理解していたからだろう。その願いは聞き届けられず、ファイサルは封印され、ルビーは宝物庫にしまわれた。
「おいおい、だがそのルビーはもうシャハラのもんだぞ。お前にやるっつーことは、またお前はシャハラに恩ができたってことになるなあ、おい」
ユエが意地悪な顔で笑う。
「おい、シャハラ。今度こそ、ばいーんにしてもらえよ。気にしてただろ。ほら!」
「うるさい!」
シャハラはじろりとユエを睨んだ。
「なんでだよ。胸がでかくなりゃ、子ども扱いされなくなるぞ。幼児に間違えられて悔しがってただろ」
「なんで胸の大きさで年齢を測るのよ! おかしいわ! それから、幼児には間違えられてないわよ! 一番低くて、八歳よ!」
「五歳も八歳も変わらねーだろ」
「変わるわよ! 三歳も違うじゃないの! って、そうじゃない!」
ユエのペースに乗せられそうになったシャハラは、大きく深呼吸をしてファイサルに向き直った。
「ええっと、一応陛下から下賜されたことになっているので、身に付けろとか見せろって言われた時に貸してくれたらそれでいいです。こういうお願いでも大丈夫ですか?」
「そう? 僕はもちろん構わないけど」
「おいシャハラ、それは願い事でもなんでもねーだろ。もったいねー。願い事がねーなら、俺様のために強くて美味い酒を山ほど用意してくださいって願えよ。な?」
「……わたし、あんたにキスされたこと、まだ許してないんだけど」
「キスじゃねー、味見だ」
「同じことでしょ‼」
言い方を変えればいいってものじゃない。
前言撤回。ユエに怒りの鉄槌を食らわしてくださいって願おうか。まったく!
ユエが口をとがらせてぶーぶー文句を言っている。
「それでユエ、君は僕に用があったんじゃないのか?」
シャハラはハッとした。
そうだった。ユエは燦の国からカディール国へは、もともとはファイサルを頼って来たのだ。彼に居場所を用意してもらおうと。だからファイサルが見つかった今、ユエはここから出ていくのだろうか。
胸の奥がちくりと痛む。
この傍若無人な同居人のことは、なんだかんだと言って嫌いじゃない。
でも、ユエにはユエの人生――狐生? がある。
(ユエともお別れなのね……)
寂しいなと痛む胸の上を押さえながら、シャハラはユエとファイサルの話に耳を傾けた。
ユエは耳をほじりながら「んあ?」ととぼけた声を出した。
「なんだったかなあ。忘れたなあ」
「おいおい」
シャハラが目を瞬くと、ユエはこちらを見てニッと口端を持ち上げる。
「おう、そうだったわ。俺様の飯係を紹介してやろと思ってたんだ。シャハラだ。これからもずっと俺様の世話をするから、顔覚えとけ」
傍若無人な狐は、やはり暴君だった。
シャハラはあきれていいやら喜んでいいやら怒っていいやら、もう何が何だかわからなくなって、大きく嘆息した後で文句を言った。
「だから、わたしはあんたのご飯係じゃないってば! この数珠、いい加減に外してちょうだい‼」
シャハラのハレム生活は、どうやらまだまだ、前途多難なようだった。
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本作、これにて完結です。
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