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020乱入

 黒弓の射手の元へ巨大睦五郎の攻撃の比重が重くなる。

 本能で疲労度合を推し量った巨大睦五郎達が猛攻を仕掛けたのだ。


 そしてその猛攻を捌き切れず体勢を崩す。

 その隙を突くように一匹の巨大睦五郎が跳躍し大口を開ける。

 体制を崩したその者の脳裏に死が過ったその瞬間。


 宙を舞う巨大睦五郎の脇腹へ高速で飛び込んだ少年の蹴りが突き刺さった。



 タクミは必殺の攻撃を放つ巨大睦五郎を間一髪で蹴り飛ばす。

 いきなり割って入ったタクミに黒弓の射手は驚く。

 タクミはその者から直ぐに距離を取り泳ぎ回る巨大睦五郎へと肉薄する。


『窮地を救った筈だが味方と認識されたとは限らねぇ。射手にも注意を怠るなタクミ』

『わかってる』


 タクミは黒糸剣を払い背中から飛びつこうとしていた巨大睦五郎を両断する。

 黒糸剣を振り切ったタクミへ今度は二匹が左右から挟撃を仕掛ける。

 左から迫る敵へ左足を軸に踵回し蹴りを放ち、右から迫る敵へ黒糸剣を横薙ぎに振るい上下に両断する。


 小舟の周りを周回し次々と敵を撃破する。

 小舟の方向からは正確な射撃がタクミを援護するように飛来しタクミの死角から攻撃を仕掛けようとする敵を貫いていく。


 その様子に劣勢を悟った残りの巨大睦五郎達は四方へと散っていった。


 敵が完全に消えた事を確認したタクミは小舟の方向へ目を向ける。

 一人は慌てて小舟に搭乗し一人はタクミの方を警戒するようにじっと見つめている。


「僕の名はタクミだ。言葉はわかるか?」


 タクミははっきりと聞こえる様に大きな声で呼びかける。

 その声色は少し高圧的な色を含む。

 敵味方がはっきりしない相手に対し上に出る話し方をクロガネに鍛えられていた。


「嗚呼、わかる。私は岩龍(ガンリュウ)族の狩人ガンリュウ リンネだ。言葉をかけたということはそちら側に敵対する気は無いと見る。見返りを出す用意はあるが今此方に重傷者がいる故出来れば後にして頂きたい」


 日本語が通じたことと響いた声が女性の物であったことにタクミは驚く。


『クロガネ、僕の体以外も治せる?』

『できるぜ。だがタクミ、助けるつもりならその理由はなんだ』


 タクミはその問にその問以上の何かを感じ熟考する。


『信用と報酬……かな』

『嗚呼それがわかってるなら問題ねぇ』


 タクミは再び声を掛ける。


「僕は怪我の治療が出来る。重傷者を助けれるかもしれない」


 その言葉にリンネは少し考え込む仕草を見せる。

 そして小舟にいるもう一人と目を合わせた後タクミへ答えた。


「貴様が何を考えているかは知らんが此方に全く手がないのが現実だ。手を借りたい」

「わかった。治療する前に置いてきた連れが心配なんで連れてきていいか」

「何人だ?」

「一人だ」

「いいだろう」


 タクミはミハを抱きかかえて急ぎ小舟に戻った。


「この人達がさっき言ってた匂いの人?」

「うん、そうだよ」


 小舟に乗ったミハは自身の身長の二倍ほどある二人を見て緊張している。


 負傷したと言っていた三人目は小舟で苦しそうに横たわっていた。

 腹に幾重にも巻かれた布は血で真っ赤に滲んでいる。


 三人とも女性だったことにタクミは再び驚く。


「私はナノカ、さっきは助けてくれてありがとう。この子はシイ、ギャラナの鱗をお腹に受けたの」


 ナノカは何処か悔しそうな口調でにタクミへ説明した。

 タクミは死んでいる刃蜥蜴を指さす。


「ギャラナってのはこいつ?」

「うん」


 タクミはなるほどと頷く。


「治療を始める」

「頼む。失敗しても責は問わん。何もしなければ消える命だ」


 タクミはシイの傷口へ手を当てる。

 手のひらを貫通した黒い泥が傷口から体内へ侵入する。

 シイは一層苦しそうに嗚咽を漏らす。


 タクミが治療している間、岩龍族の二人は正座で目を瞑り黙祷していた。

 岩龍族の祈りの形なのだろうかとタクミは思う。


 ――暫くした後タクミはシイから手を放す。


「終わったよ」


 その言葉を聞きリンネとナノカは横たわっているシイへ駆け寄る。


「……リンネ様……すみません」

「喋るなシイ。幸運だったな、まだ死ぬ運命ではなかったのだろう」

「うぇ、ぐ。ひっく。シイのバカぁ」


 死の間際にいたシイが助かったことにリンネはほっとした様子でナノカに至っては号泣していた。

 タクミはミハの隣に座り三人のやり取りを眺める。


「怪我してた人を助けてあげたんですか?」

「そうだよ。ミハもあんなかんじで助けた」

「……タクミの体ってどうなってるんですか?」


 説明するのが面倒でうやむやにしていたことをミハに聞かれる。


『クロガネ』

『ミハになら見せても問題ねぇがそこの三人には見せないように気を付けろ』

『わかった』


 タクミはジェスチャーで声を出すなとミハへ伝える。

 ミハが頷いたのを確認したタクミはミハに右手の手のひらを向ける。

 手のひらから一瞬黒い泥が這い出しすぐに戻った。

 ミハは驚きタクミの目を見る。

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