『腕の人』の恩恵
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今回始めはギフト・ソルジャーNo.4視点です。
「……はっ……!?」
ふと目を開けると、まず初めに見慣れた通路が目に入った。
なんでこんなところで寝ていたのかと寝ぼけた頭を傾げそうになったが、通路の状況を見て一気に目が覚めた。
通路に同僚たちが、ギフト・ソルジャーたちが自分と同様に倒れているのが見えたからだ。
どういうことだ、いったいなにがあったんだ……!?
……落ち着け、冷静になれ。まず皆の安否を確認しないと。
万が一全員死んでいたりしたらこの施設は、このコミュニティは……!
内心戦々恐々としながら倒れている同僚たちの生死を確認したが、息をしているし誰も死んでいない。
特に大きな怪我もしていないようで、命に別状は無さそうだ。
……最悪の事態は免れたとみるべきか。
安堵の息を漏らしたところで、そもそもなぜこんな状況に陥っているのかを思い出してきた。
D区画に何者かが侵入して実験体たちを解放・殺害し、No.11以下のソルジャーたちが捕獲に向かったが、全滅。
緊急事態につき、No.10以上のソルジャー全員で対処に向かうことになった。
ここまでは、まだいい。いやNo.11以下のソルジャーが全滅してる時点で相当ヤバいが、誰も死んでいなかったし俺たち全員で向かえば対処可能だと思っていた。
その侵入者、……黒髪のバケモノを見るまでは。
さっきまで気絶してたせいか顔はおぼろげだが、それがこちらに振り向いた時、全身を刃で切り刻まれたような感覚を覚えた。
それと同時に『生け捕りは不可能、殺す気でかからなければ全滅する』とNo.1が珍しく声を荒げて指示を出し、全員でバケモノと応戦することとなった。
今になると会話の前に問答無用で殺そうとするのはどうかとも思うが、あの異常な存在感を前にしてはそれがおかしいことだとは全く思わなかった。
そして全員で一斉に攻撃を開始した直後に、……No.5以下の五人が、床に倒れた。
なにが起きたのか、唖然としているところを額に強い痛みが襲いかかってきた。
まるで弾丸でも命中したかのような衝撃だったが、バケモノの様子からしてどうやら指で額を弾く、いわばデコピンを当てられたらしい。
それだけで、気が遠くなっていった。たかがデコピンがあんな威力になるとは、あのバケモノの膂力はどれほどのものだったというんだ……?
薄れていく意識の中、最後に見たのはNo.1が化物の左腕をギフトで転移させて切断したところまでで、その後どうなったのかは分からない。
……そういえばNo.1はどこへ……?
倒れている同僚たちは気絶こそしているが見たところ軽傷で済んでいる。
しかし、その中にNo.1の姿が見えない。
まさか、あのバケモノに拉致されたのか……!?
焦って通路を駆け抜け、辺りを見渡してNo.1を探した。
見慣れた通路が、バケモノとの交戦のせいかあちこち破損している。
どんな暴れかたをしたのか想像もつかないが、こんなものと戦って無事で済むはずがない。
しばらく通路を走っていると、一際大きな壁の亀裂が目に入った。
亀裂の中心に、No.1が息を荒くしながら座り込んでいるのが見えた。
「な、No.1! 無事だったのか!」
「……ああ」
アーマーの腹部が破損しているようだが、他の皆と同様さほど深刻な怪我は負っていないようだ。
あのバケモノも、No.1が相手ではトドメを刺す前に退かざるを得なかったようだな。。
「さっきのバケモノ相手によく無事だったな」
「……手心を加えられたようだからな」
「え?」
「先程の黒髪のバケモノは、俺を敵としてすら認識していなかった。他のメンバーに陽動してもらったうえで全力を尽くしたが、腕を一本転移して切断するのが精一杯だったよ。それも、すぐに再生されたがな」
「さ、再生……?」
「切断した腕が、瞬時に生え変わっていた。……アレは、外見こそ人間にしか見えないが、中身は異獣をも凌ぐ怪物だったようだ」
「……要するに、あのバケモノからしたらオレたちは殺す価値もない雑魚でしかなかったってことか……!」
舐めやがって、馬鹿にしやがって……!
この場で殺さなかったことを、いつか後悔させてやる! クソ野郎が!
「そもそもあの野郎の目的はなんだったんだ……? 実験体どもを解放して殺して、ギフト・ソルジャーをわざわざ殺さず全滅させてから、この施設の実験データでも盗み出そうとでもしたのか?」
「俺もそう思って問いかけてみたが、『そんなものはいらん』と否定されたよ」
「……喋れたのかよ、あのバケモン。……ん? なんだ、その袋は?」
No.1の手元に、手持ちのバッグのような袋があるのが目に入った。
こんなデザインのバッグ、この施設で作っていたか?
「さっきのバケモノが置いていった。奴は『アナライズ・フィルター』を欲しがっていたようでな、『お前たちにとって必要な物資を置いていくから、これと交換してほしい』と言ってきたよ」
「アナライズ・フィルターを? なんでそんなものを……?」
「さぁな」
ギフトの適合者が使用可能な、生物のステータスを確認することができる能力『アナライズ』。
この能力は当然異獣も扱える。相手の情報を獲得して立ち回るくらいの知能はあるらしい。
いざ戦いになれば、相手もこちらも本来ならば互いの情報が丸見えになるわけだが、もしもこちらの情報を相手に知られずに相手の情報を得ることができれば大きなアドバンテージとなる。
それを可能にするのが、着用者のステータスを隠蔽できる腕輪型の装備『アナライズ・フィルター』だ。
……? あのバケモノ、ステータスが確認できなかったからその類の装備を着けているかと思ったんだが、違うのか?
「袋の中には、救荒作物の種芋と未知のエネルギー鉱石が入っているようだ」
「種芋? うわ、どんだけ入ってるんだよ!? どうやったらそんな小さな袋に入るんだよ……!?」
No.1がバッグを逆さにして中身を出そうとすると、袋の口から数十個もの丸々としたあるいは縦長い芋のようなものが出てきた。
待て待て待て! おかしいだろ! どう見てもせいぜい5~6個程度しか入らないくらい小さなバッグなのに、明らかに物理法則を逸している!
「この種芋を促成栽培して数を増やし、栽培場でさらに大量生産することができればコミュニティの食糧事情は大幅に改善できるだろう」
「いや、種芋もすごいが、なんだよその袋……?」
「見た目よりも遥かに多くのものを収納可能で、さらに中身の重量に関係なく一定の軽さを保っているようだ。……これだけでもとんでもないオーパーツだな」
「そんなものを作れるっていうなら、アナライズ・フィルターくらい楽に作れるだろうに、なんでわざわざ……?」
「……分からん」
……理解しようとすればするほど、答えが遠ざかっていくようだ。
もう訳が分からない。強さも、持っている技術も目的も、何一つとしてはかりかねる。
と、とりあえず、他の皆を介抱しないと。
バケモノを追うにしても、ヤツについて考察するにしてもまずはそれからだ。
「へぇ、いいモノ持ってるじゃないですか」
不意に、背後から誰かの声が聞こえた。
反射的に振り向くと、そこには黒い長髪の人影が立っていた。
さっきのバケモノじゃない。
ヤツに比べて体格は小さいし、なにより体形と声からして、女だ。
誰だ、こいつは。
新たな侵入者か? いや、よく見ると着ている服が実験体たち専用のボロ制服じゃないか。
だが、黒い長髪の実験体なんかいたか? そもそも実験体の中で生き残ったのは、No.77とあとは廃棄物に指定された―――――
待て。
まさか、こいつは……!?
「私が全部いただきますのであしからず。クソ野郎ども」
手の甲に『No.67-J』と印された少女が、そう言いながらこちらに駆け寄ってきた。
は、速いっ!? なんだこの身体能力は、まるでNo.1、いやそれすら凌ぐ――――
~~~~~No.67-J視点~~~~~
男二人がなにやらコソコソとお話してるのが聞こえてきて、覗いているとそこには目を疑うような光景が。
No.1とかいう金髪が持ってる小さな手持ち袋から、大量の『ジャガイモ』と『サツマイモ』が出てくるじゃありませんか。なにあれすごい。
……ん? なんであのイモの名前が分かるんだ? 施設で受けたあの知識書き込み拷問マシンからそんな情報得た覚えないぞ?
もしかしたら、これは『腕の人』の知識なのかな。腕を食べただけでその知識まで得られるとか。ホント何者なのかしら。
で、あんな便利そうなものアイツらに渡すのはもったいない。
今後の大きな助けになるだろうし、悪いけどここは強奪させてもらおう。
まずはNo.4とかいう赤毛の男からブチのめす。
これまで喧嘩なんかまともにしたことないけど、今の私なら殴り飛ばすことくらいできる、はず。
No.4の顔面に向かって突進し、拳を繰り出した。
「う、うおぉおっ!?」
チッ、腕で防がれた。さすがに実戦慣れしてるみたいね。
頭への直撃は防いだみたいだけど、拳を受けたNo.4の身体が大きく仰け反った。
効いてる、このまま一気にタコ殴りにしてやる!
「はぁっ!」
「調子に、乗るなぁっ!!」
突進して追撃を当てようとしたけれど、踏みとどまった。
No.4の掌から、直径1mほどの炎の弾が放たれたから。
危なっ。さすがに成功作と言うべきか、最終試験を受けていた人たちのギフトとは桁違いに強力な能力を持っているようね。
炎を回避したところを、今度はNo.4が詰め寄ってきた。
「寝てろ、ゴミがぁっ!!」
お返しとばかりに、こちらの顔に向かって拳を突き出してきた。
う、まずい、避け、いや受けっ……
「なっ!?」
「……えっ」
急に突き出された拳に対して、身体が勝手に動いた。
頭で考える前に、反射的にNo.4の突き出してきた腕を掴み、足を払って体勢を崩し、気が付いたらそのまま地面に向かって叩きつけていた。
「がはぁっ!!」
No.4を叩きつけた床が派手な音を立てながら凹んだ。
……なんだ今の。自然に体が動いて、No.4の身体を投げちゃったんだけど。
あ、白目剥いてる。気絶したっぽい。
「お前、その力はなんだ……!?」
金髪ことNo.1が目を見開いて声を上げた。
そんなもんこっちが聞きたいわよ!?
今まで戦ったことなんか一度もなかったのに、戦いかたが染みついているかのように、勝手に身体が動いたんだけど!
……これって、もしかしなくても腕の影響だよね?
身体の超回復に戦いかたの伝授までできるとか、あの腕ホントになんの腕なのよ……!?
ま、まあいいや。利用できるものはなんでも利用させてもらおう。
さて、次はお前だNo.1!
最終試験で見捨てられた恨み、……いや、むしろ助けられてたっけ? No.77のついでにだけど。
えーと、皆を見捨てた恨み、……別にそんなに仲良くなかったし、あんまり怒りが湧いてこない。
……。
なんでもいい! とにかく覚悟しろ!
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