強肉弱食
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今回始めはツヴォルフ一等研究員視点です。
「うーわ、マジか。ギフト・ソルジャーが全滅してやがる」
おっと、思わず声を漏らしちまった。……周りに誰もいなくてよかった。
しっかしまあ、ここまで圧倒的な力を持ってるとはな。
侵入者のイレギュラーがどこから入ってきたのか、監視カメラの映像ログを見返していてもその瞬間がどこにも映っていない。
ただ、D区画通路の扉が開いたところから、イレギュラーが行動を開始したとしか分からなかった。
D区画へ外部からギフトで転移でもしたのか? どっちにしろ、この施設の人員や設備じゃコイツを捕まえるのは無理だなこりゃ。
ま、せいぜい利用させてもらうさ。陽動ご苦労さん。
……脱出の邪魔だけはしないでくれよ。勝てねぇから。頼むぞマジで。
~~~~~廃棄物視点~~~~~
肉を齧ろうとしても歯が立たなかったから、まずは赤い水を飲み始めた。
床にたまった赤い水たまりを啜ると、それはもうものすごい味が口の中に広がっていった。
サビた鉄のような、塩味の利いたなんとも言えない、赤い味。
飲み下そうと思っても喉に絡みついて、むせてまともに飲めたもんじゃない。
なのに、一口飲みこむたびに、これまで飲み食いしたどんなものでも比べものにならないほどの多幸感を覚えた。
美味しいおいしいオイシイ。むせても咳きこんでも飲むのを止められない。
今まで食べた中で一番おいしかったものは、誰かが落としていった小さなパンだった。
柔らかくてほのかに甘くてお腹にたまって、これ以上のごちそうなんてないって思ってたのに。
この美味に比べたら、土くれ同然だ。
こんなに美味しかったのなら、もっと早く躊躇わずに食べておけばよかった。
一口嚥下するたびに、全身が悦んでいるのが分かる。
飢え死に寸前だからってだけじゃない。きっと元々コレ自体がとんでもなく美味しいんだ。
赤い水をあらかた飲み干したら、肉の部分をどうにか噛み千切れるくらいにまで力が戻ってきた。
噛むたびに、顎が壊れそうなくらい硬くて痛いのに、齧るのをやめられない。
筋肉も血管も神経も皮膚もなにもかも、ありえないほど美味しい。
肉を爪の先まで残さず食べたら、残った骨すら食べられそうに思えてきた。
肉はあんなに固く感じたのに、骨は思ったよりもあっさりと噛み砕けた。
バリバリゴリゴリ。歯のほうが砕けそうなくらい硬いのに、食べられる。
血肉に比べたら骨なんて硬くて味も薄いのに、食べるのを止められない。
気が付けば、あっという間に完食していた。
ああ、食べちゃった。とうとうたべちゃったよ。
罪悪感と満腹感と多幸感がごちゃ混ぜになったような、なんとも言えない心持ちで大の字になりながら天井を眺めていると
ドクン と、身体が大きく痙攣、いや、脈打った。
「……え、あ、ああ……?」
全身にジワジワと得体の知れないなにかが染み渡っていくような感覚。
身体が痺れて上手く動かせない。
まるで、私の身体が、なにかにすり替わっていくような……。
「……ヒヒッ、ヒヒヒッ……」
自分の口から漏れた声に、血の気が引いた。
まさか、今になって、私はおかしくなってしまったの?
適合試験の時に発狂して死んでいった人たちのように、私もこれから笑いながら自分自身がなんなのかも分からなくなって、死ぬの……?
……ああ、でもいいや。
どうせ死ぬところだったんだし、お腹いっぱいになって幸せいっぱいのまま笑いながら死んでいくのなら、それでもいいや。
激痛でもなんでも襲いかかってくればいい。頭がおかしくなるのなんかむしろ望むところだ。死ぬ覚悟ならとっくに決まって――――
「ふ、ふふひひひ、ふひひひひひひっ……!」
……。
「ひひひ、ひゃははっはっはっはっははははははは……!」
……?
「あはははっ、あっははははははははははははっ!! ひひひひひっ、あひゃははははははっ!!?」
…………………………………………………。
く す ぐ っ た い ん だ け ど !
待って、ちょっとまって!
激痛が襲いかかってきたりはしてないし、まだ私が私であることも自覚できてる。
でもこのくすぐったさはなんなの!? まるで身体の外からも中からも全身を誰かに弄られているように、滅茶苦茶くすぐったくて笑うのが抑えられないんですけど!!
「あひゃひゃひゃひゃっ!! ち、ちょっ、ほはははっ!! や、やめっ、ふひょほほほほはひゃはははははっ!!!?」
今まで聞いたこともないような、バカみたいに下品な笑い声が止められない。
まだ狂い死んでた人たちのほうが品のある笑いかたしてたと思う。
あまりのくすぐったさに耐えきれず、滅茶苦茶に壁や床を叩きまくった。
叩いた痛みでくすぐったさを緩和しようとしたけれど、壁に穴が開こうが床が砕けようが扉が破れようが、まるでなんの慰めにもならない。
や、やばい、このままじゃ死ぬ!
いや死ぬ覚悟はできてた! できてたけどさ! 餓死じゃなくて笑い死になんて笑いごとにもならないって!
だ、だれか、た、たすけてぇぇぇ…………。
「はは、ははは、は、はひ、ひぃ、ひぃぃ………!」
や、やっと、治まった……!
数分くらいずっと笑いっぱなしで、もう腹筋と頬がだるくて地味に痛い。
こんなに笑ったのなんか産まれて初めてだわきっと……。
「はぁ、はぁ、はぁ、……あら?」
正気に戻った時に、最初に目に入ったのは自分の髪だった。
なんか、黒くない? あれ、こんな色だったっけ?
いや違う。どう考えても違うだろ。真っ白な銀髪だっただろ。なんでこんな炭みたいに黒くなってるの?
自分の髪を指で弄りながら眺めているうちに、次に自分の身体の異常に気付いた。
……私の指ってこんなに太かったっけ。ていうか指どころか腕も太くない?
いや、太いっていっても元の骨と皮だけの状態に比べたら太いってだけで、別にデブってるわけじゃない。骨と皮の間に肉がギッシリ詰まってるんだ。
よく見たら腕だけじゃない。全身に肉が付いてる。
特に、ペッタンコ通り越して軽く抉れて肋骨が浮かび上がってた胸部に、なんとも立派で柔らかい重量物が二つ。あとお尻にも。
……ホントになにが起きた。どうしてこうなった。
どう考えても、さっきの腕の影響でこんなことになってるんだろうけど、たったあれだけの量を取り込んだだけでこんなことになるはずがないでしょ。質量保存の法則を無視してない?
いったい私はなんの腕を……いや、もうこれ以上考えるのはやめよう。怖いわ。
自分の身体の変化を確認した後に目に入ったのは、壁も床も穴だらけになって、扉がひしゃげてぶち破られている無残な部屋だった。
……これって、もしかして私がやったの?
滅茶苦茶に笑いまくってた時、くすぐったさに耐えきれず暴れてたような気がするけど、そのせい?
どれだけ叩いても、どれだけ身体をぶつけたりしてもビクともしなかった扉を、こんな簡単に壊すことができたというのか。
部屋の惨状を見て確信した。今の私は、ほんの数分前までガリガリで死にかけていた私とは明らかに違う。今ならなんでも壊せそうなくらい、力が漲っている。
私の身になにが起きてるのか、正直言って全然分からない。
ただ、悪い気はしない。むしろ身も心も軽くて気分爽快である。
こんな爽やかな気分は初めてだ。比喩のしようがないほどに、清々しい。
こうなるまで、『自分には力が無いから生きる価値がない』だの『諦めよう』だの『楽に死にたい』だのウジウジウジウジしてたのがアホらしく思えてきた。
力がない? 生きる価値がない? そんなもん、この施設の連中が勝手に決めた私の評価だろうが。
私の価値は私で決める。他の人間がなに言おうと知ったことか。もう、周りに利用されて流されるままなんてうんざりだ。私は、私の思うままに生きる。
よし、そうと決まればさっさとこんなトコ出ていってやる。今の私ならあるいは奴らにとって価値があるのかもしれないけれど、もうどうでもいいわバーカバーカ。
……なんか、妙に頭悪いノイズみたいな言葉が思い浮かぶようになったけど、これもさっきの腕の影響かな。
腕の人がどんな人、……人なのかも分からないけれど、もしかしたら案外残念な人なのかもしれないわね。
つまり微妙に思考がバカっぽくなってるのは私のせいじゃない、腕の人のせいだ。きっとそうだ。うん。……そうだよね?
お読みいただきありがとうございます。
いきなりこんなコミカルな描写がねじ込まれて困惑されるかもしれませんが、この小説基本こんな感じです。
薄幸系少女が好きな方には申し訳ありませんが、今後は内心残念系少女のお話になっていきます。どうしてこうなった。




