(15)掃討戦と宣戦布告
◇ ◇ ◇
翌、早朝、夜明け前。
レイナート、イヅル、ファランクスは、シスターを連れて、三騎で、悪魔の一団の支配する村を急襲した。
退廃した宴を繰り広げていた悪魔たちの命を刈り取り、悪魔つきの人間たちについては、レイナートの魔法で祓っていく。
半悪魔化していた人間たちが、次々と、人のからだに戻った。
眠りに落ちているが、しばらくすれば、元の人間として目を覚ますだろう。
「村の様子は、もとと比べてどうですか?」
レイナートが、並走するイヅルの馬に乗るシスターに問う。
悪魔に捧げられた宴のグロテスクな御馳走を見て、吐きそうに口を押さえていたシスターは、レイナートの方を見た。
「……以前とは比較にならないほど、人が減っています」
「でしょうね。
多くが悪魔つきとしてベルセルカに殺された」
「それでも、ベルセルカさまがいらっしゃらなかったら、わたくしたちはとうに殺されていたことでしょう。
そして、イヅルさまと合わせ、125人もの死者を、人に戻して蘇生してくださったこと、本当にありがたく存じます――――国王陛下」
「おわかりでしたか」
「さすがに、このようなお力をお持ちの方はこの国に2人といらっしゃらないと思います。
これだけ、……悲惨な状況のなかでも命を救おうとしてくださる方も。
陛下にもイヅルさまにも、大変ご無礼をいたしました」
「失礼ですが、聖職者の皆さんは?」
「司祭さま方は、真っ先に逃げました。
教会のなかに逃げていらした皆さまは、やはり修道女ではダメだ、司祭さまであれば悪魔など祓えただろう、と……つい苛立っておりました」
うなずきながら、レイナートは馬を引き続き走らせた。
日が出る前に悪魔をすべて仕留めてしまいたい。最後の村に向かって、急ぐ。
「……この地は、元に戻せるでしょうか?」
「間もなく新しい領主代行がこの地に入りますが、その際、王都から支援の人員の派遣を。
それから、カバルスとアリエスから海路で食糧支援をいたします」
「ありがとうございます。
孤児も増えると思います。国教会とは対立されるお立場と存じますが、どうぞ、孤児たちへのお慈悲を」
「それはもちろん」
レイナートが言いかけた、そのとき。
ふと、彼らの前に立ちはだかる人物の姿があった。
イヅル似の顔、長い青髪の少女だ。
「……生きていたのか?」
剣を抜こうとするレイナートに、
「ここは、おれが。
陛下はお先に行ってください」と、イヅルが制した。
「シスター! すみませんが、陛下の馬に」
イヅルの言葉にうなずいたシスターが、レイナートから延ばされた手をとり、馬を乗り移った。
「頼んだ、イヅル!」「先輩、ご無事で!」
レイナートとファランクスの馬が、少女の両脇を抜いていく。
一方で、イヅルは、自分の馬から降りる。
少女に近づいた。
イヅルと少女とでは頭ひとつ以上、背丈が違うだろうか。
「……悪かったな。
3年前、ここに置き去りにして」
イヅルは、少女に声をかけた。
少女は問答無用でイヅルに飛びかかった。
◇ ◇ ◇
「ねぇ、ベルセルカ……」
教会にて留守番となったベルセルカは、心配げな顔をしたカルネに話しかけられている。
まだ11歳の幼い顔の、大きな瞳を潤ませてカルネはベルセルカにすがりつく。
「ごめんなさい。
レイナートにすごく怒られたんでしょ?
私、呼んじゃ、ダメだった?」
ベルセルカは唇の両の端を持ち上げて、カルネの頭にかぶった大きな毛皮の帽子を、猫のごとく撫でた。
「大丈夫ですよ?
呼んでくれないと、みんなピンチってわからなかったんですから。
カルネは何にも悪くないですよ」
「でも、レイナート、すごく怒ってた。
仲直り、できる?」
「………たぶん」
「仲直りしてね、きっとよ。
レイナートだって、寂しそうだもの……」
その、ベルセルカとカルネの会話を聞いていたエレナがフフン、と鼻で笑った。
汚れたドレス。昨日はファランクスにどんな中をつれまわされたのやら。
「勝手な行動をして自滅して、まったく、ずいぶんとぶざまなことですわね」
「ん? 侍女をまいてレイナートさまについてきた結果こんなところまできちゃったエレナのことですか?」
「あなた性格が悪すぎますわよ!
まぁ、これで、決定的にわたくしがお妃候補の優位に立ったということですわね!」
「……おきさき?」
「――――あ、ははは。
カルネ。ちょっとエレナと2人で話をしたいので、離れてもらっても大丈夫です?」
「う、うん。。。
けんかしちゃダメよ?
大人なんだから」
そう言って、ぱたぱたぱたと走って去るカルネ。その後ろ姿をベルセルカは見送る。
「あのこ本当にかわいいですよね。
リスかイタチみたいです」
「わたくしあいにくどちらも見たことがありませんの。
それにあなたとはもう、お話をすることもないと思っておりますわ。
以前すでにあなたには、宣戦布告いたしましたわ。わたくしは陛下のお妃になるべく、女のすべてをつかって戦うと」
「――――そういえば、お返事をしていませんでしたね」
「お返事もなにも……!」
「誘ってくれたこと、すごく嬉しいです。
ずっと私のことをエレナは嫌っていると思っていたので!」
「ちょっ……あなた、わたくしの話聞いてますの!?
好きだったら、こんなこと言わないでしょう!?」
ベルセルカに振り回され、ぐったりするエレナを見て嬉しそうに笑うベルセルカだったが、ふと、真顔に戻った。
「ごめんなさい。
私、ベルセルカ・アースガルズは、その闘いには乗れません」
「……どういう意味ですの?」
「王妃候補には加わらない、という意味です。私は」
そのときベルセルカは微笑んだ。
エレナさえ心臓が止まるのではないかと思うほど、心をつかまれる、美しい微笑みだった。
「愛していますから。
レイナートさまのことを」
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