(14)想定外の終わり方
――――イヅル似の青髪の少女の身体から抜け出したのは、黒い牛の頭をした悪魔だった。
ベルセルカは手を伸ばすも、その身体には触れられない。
青髪少女の首に絡めていた太ももに違和感があった。見ると、その身体は煙を吐いて小さくなっていく。
「!?」
まるでイヅルが幼児に還っていくように見えた。
服と、身体のなかでそこだけがイヅルと同じ大きさの右腕だけを残して、身体は小さく小さくおさまっていく。
一方空に逃げた悪魔。手のひらを頭上にかかげ、魔力の球をつくり始める。
「〈短剣!!〉」
ベルセルカは武具具現化魔法を浴びせるが、短剣がその身体にささっても悪魔は平然と魔力を高め続ける。
レイナートがユリウスと斬り結びながら、悪魔のようすに気づいて
「〈死神の鎌〉!!」
巨大鎌の具現化魔法を撃ってくれる。
悪魔は一度避けたかに見えた。
だが、光の巨大鎌はぐるりと大きな円を描いて戻り、悪魔の身体を真横にふたつに切り裂いた。
悪魔の手から離れた、魔力の球が、ベルセルカに向かう。
防御が間に合わない、とヒヤリとした一瞬。
「――――〈水封〉!!!」
予期していなかった方向から飛んできた水魔法が、魔力の球を包み込み、ジュワッっと蒸発させた。
「……!?」
どこから来た?
ベルセルカは、魔法が飛んできた方向に索敵魔法をかける。その正体をつかんだ。
「ファランクス………?
エレナ……?」
索敵魔法でベルセルカの目に見えたのは、馬でこちらに駆けてくる、カバルス剣闘騎兵隊の幹部、ファランクスだ。彼の膝にはなぜか、侯爵令嬢のエレナ・オストラコンが乗っている。
いったいなぜこの組み合わせ?
いや、それより。
(レイナートさまの援護を)
ベルセルカは、レイナートとユリウスの戦いの方へ目をやる。
◇ ◇ ◇
「――――あ」
レイナートと斬り結んでいたユリウスが、いきなり結構な間合いをとった。
微妙に、顔に青みがさしてみえる。
「?」
「ちょっと、苦手な子が来る気配」
「??」
「せっかくレイナートと久しぶりに闘えたのにさぁ……ほんと空気読んでほしいんだけど」
「なんの話ですか?」
「また会いに来るから、また強くなっててね。
じゃ」
「待て!!」
きびすを返したユリウスは、そのまま剛弓から放たれた矢のようなスピードで空を飛び、瞬く間に視界から消えていった。
「にがてな子?」
ユリウスの言葉に首をひねるレイナート。
しかし間もなくその視界に、馬でこちらに駆けてくるファランクスとその膝に乗るエレナを見つける。
……ユリウスも、エレナが苦手だったとか、そういうこと?
「若――――!?
ベルセルカさま――――!!!
大丈夫でした??」
「ファラン、ここだ!!」
「大丈夫です、ファランクス!!」
かけられた大声に、レイナートとベルセルカがそれぞれ答える。
ふたりそれぞれが指を口に含み指笛を吹くと、聞き付けた愛馬ポダルゴスと、遅れてテキロもやってきた。
「ベルセルカ。
さっきの悪魔は」
「あ、はい。
人間のからだからでてきた悪魔の方は消滅して、宿主になっていた人間は……あれ?」
悪魔に宿られていた、そして悪魔が抜け出した瞬間小さくなっていった、青髪少女の姿は、あとかたもなくなっていた。
◇ ◇ ◇
ベルセルカが鎧を砦から回収したのち、一行は、転移ではなくそれぞれの馬で、イヅルたちが待機する教会へと戻る。
ベルセルカとレイナートの間の、気まずいような微妙な空気が影響してか、ファランクスとエレナの口数も少なかった。
……そもそも、レイナートはベルセルカを心配して連れ戻しにきたのに。
結果、いま、望んだ相手を連れ戻せているというのに。
重苦しい移動時間をどうにか乗りきって、周囲に死体が散らばる教会の建物のまえまで、一行は戻った。
「どういうことだ!!」
とたんに、ドレイクがレイナートたちに駆け寄ってきた。
「教会を包囲してた、悪魔やら、半分悪魔になってた連中は、いったいどこいったんだよ……!?」
ああ、と、いままで忘れていたのを思い出したような声をレイナートは出した。
「移動中、目についた限りは〈悪魔祓い〉で駆逐した」
「嘘だろ!?
あの数を!?」
「俺が見た時点では数十人しかいなかった。
おそらくベルセルカがだいぶ数を減らしていたはずだ」
「いや、数十人でもさ!」
「イヅルは?」
「あ、ああ……その。
教会のなかで、俺たちが殺した人間をみんなよみがえらせて、それからシスターと一緒に外に出て、蘇生できる人間がいないか、捜してる」
「イヅルを呼び戻せ。
それから、食糧はあるか?」
「いや………もはや皆無」
「ファラン、食糧調達を頼む。
何人か教会の中の人間に協力をあおげ。
今日はこの教会で一晩過ごす。
明日、残りの悪魔を追う」
◇ ◇ ◇




